電波プロダクトニュース



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日付 メーカー名 製品分類 分類 用途
12月14日 171214_01 産総研 富士電機 半導体素子 ディスクリート 一般産業用

1200VクラスのSBD内蔵SiCトランジスタ


【 概 要 】

 産業技術総合研究所(産総研、中鉢良治理事長)先進パワーエレクトロニクス研究センター(奥村元研究センター長)SiCパワーデバイスチーム 原田信介研究チーム長らのグループは、富士電機との共同研究で、炭化ケイ素(SiC)半導体を用いた1200V耐電圧(耐圧)クラスのトランジスタである縦型MOSFETとして、低いオン抵抗と内蔵ダイオードの高い信頼性を両立した独自構造のデバイス(SWITCH−MOS:SBD−Wall Integrated Trench MOS)を開発し、量産レベルの試作品で性能を実証した(図1)。

[図1]今回開発したトランジスタ(SWITCH-MOS)の断面構造図


 SiCデバイスだけを用いたパワーモジュール(オールSiCモジュール)により、電力変換(直流・交流変換や電圧変換)が大幅に高効率化すると考えられている。その低コスト化、高信頼性化にはSBD(ショットキーバリアダイオード)内蔵型MOSFETを用いることが有効とされているが、これまで3300Vクラス以上の比較的高い耐圧のMOSFETでだけ信頼性向上の効果が実証されていた。今回開発したSWITCH−MOSはトレンチ型MOSFETにトレンチSBDを内蔵することで、1200Vクラスの低い耐圧デバイスでも高い信頼性が実証できた。従来技術では信頼性向上の効果が低いために1200V耐圧クラスでは困難であったSiC−MOSFETとSiC−SBDの一体化が量産試作レベルで実証できたので、今後はハイブリッド電気自動車(HEV)/電気自動車(EV)の電力変換システムでの使用が期待されるオールSiCモジュールの市場導入が大幅に前進すると期待される。

 この成果の詳細は、米国サンフランシスコ市で開催のIEDM 2017(International Electron Device Meeting)で2017年12月4日(現地時間)に発表された。

【 研究の経緯 】

 産総研はパワーエレクトロニクスを、産総研が大学や研究機関4機関と連携するオープンイノベーション拠点TIAの戦略的研究領域の一つと位置付け、SiCパワーデバイスの量産試作ラインを整備し、民活型共同研究体「つくばパワーエレクトロニクスコンステレーション(TPEC)」を発足させ、SiCパワーデバイスの量産試作技術開発に関する共同研究を推進してきた。富士電機との共同研究ではこれまで独自構造のSiCパワーMOSFET(トランジスタ)として、第1世代のプレーナー型MOSFET(IE−MOSFET)、第2世代のトレンチ型MOSFET(IE−UMOSFET)を開発し、量産試作を実証してきている。今回はSiCパワーデバイスのボリュームゾーンと目される1200Vクラスでの高性能化、高機能化を目指し、IE−UMOSFETを基本構造としたSBD内蔵タイプのデバイス開発を行った。

【 研究の内容 】

[図2]ショットキーバリアダイオード(SBD)
内臓MOSFET(トランジスタ)の一般構造

 図2にSBD内蔵MOSFETの一般構造を示す。パワーモジュールを構成するSiC−SBDの代わりにSiC−MOSFETに構造的に内包されているPiNダイオードが使えればSBDが不要となり低コスト化できるが、SiCのPiNダイオードには順方向に電圧をかけていると電流が徐々に低下してしまう順方向劣化があり、信頼性に問題があった。これは電流を構成する電子と正孔が、ウエハー内の転位で再結合し消滅する現象である。これに対して、SBD内蔵MOSFETは、SBDの電流が電子だけなのでダイオードの順方向劣化がないと期待されていた。しかしながら、順方向電圧が上昇し、内蔵PiNダイオードにかかる電圧(VPiN)がある値を超えると、PiNダイオードの動作が始まり順方向劣化を引き起こすので、開発のポイントはいかにしてVPiNを抑えて、PiNダイオードを不活性化するかであった。

 図3に開発したSWITCH−MOS(SBD−Wall Integrated Trench MOS)の構造、および内蔵ダイオードに順方向電圧をかけたときの電圧分担を示す。耐圧保持領域となるドリフト層の電圧分担(Vドリフト)を大きくすれば、その分VPiNが下げられ効果的であるが、その効果は高い耐圧クラスのデバイスに限られる。今回、Vドリフトが小さい低い耐圧クラスにおいてもVPiNを抑えられるよう、VPiNがSBD部の電圧分担(VSBD)と P型領域周囲の電流広がり領域の電圧分担(V広がり)の和に等しいことに着目し、V広がりの低減を目指した。V広がりを低減させるためには、セルピッチを小さくすれば良いので、開発したSWITCH−MOSはセルピッチの狭い低オン抵抗のトレンチ型MOSFETのIE−UMOSFETを基本構造として、トレンチゲートの電界緩和層の埋め込みpプラス層上にトレンチを形成し、その側壁にSBD−wallを内蔵した。その結果、SBDを内蔵してもIE−UMOSFET単体と比べて必要なエリアが拡大することなく5μmのセルピッチが保たれるので、p型領域幅を最小限に抑えてV広がりを低減できた。

[図3]今回開発したデバイスSWITCH-MOSの内臓
ダイオードがオン状態における電圧分担

[図4]今回開発したデバイスSWITCH-MOSの
内臓ダイオードの順方向電流一電圧特性

[図5]今回開発したデバイスSWITCH-MOSの
順方向電流ストレス後の
フォトルミネッセンス像


 図4中の変曲点(十字)に示すように、1200V耐圧クラスのSWITCH−MOSでセルピッチが16μmと広い場合はPiNダイオードが約300A/cm²の低い電流密度で動作を開始してしまい、SBDを内蔵しない従来型UMOSFETとほぼ同じ電流−電圧特性を示したが、セルピッチが5μmと狭いSWITCH−MOSではV広がりが抑制されており、電流密度2800A/cm²までPiNダイオードの動作を不活性化できた。

 図5は順方向劣化試験後のフォトルミネッセンス像であるが、従来型トランジスタUMOSFETはPiNダイオードが動作して順方向劣化したため積層欠陥が広がっているのに対し、今回開発した独自デバイスであるセルピッチ5μmのSWITCH−MOSは、積層欠陥の広がりがなく順方向劣化していないのが分かる。今回開発したセルピッチ5μmのSWITCH−MOSでは、これまで問題であった1200V耐圧クラスのSiC−MOSFETのPiNダイオードの順方向劣化問題が解消され、高い信頼性が実現したと言える。

【 今後の予定 】

 企業での事業化を念頭に企業連携を更に強化し、デバイス構造多層化などの複雑化や、製造プロセスの高度化を進めると同時に、パッケージング技術などの周辺技術開発も進める。

<資料提供:産業技術総合研究所>


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