ネットワークスライシングも可能な5Gサービス

スタンドアローン導入の取り組み本格化

 この春から始まった第5世代高速通信規格5Gの商用サービスは、既存の4Gコアネットワークと5G基地局との連携による「ノンスタンドアロン(NSA)」のシステム構成を採用しており、提供できるサービスも限定的。高速大容量、超低遅延、多数同時接続というフル機能を発揮できる「真の5G」の提供には5G単独で動作する「スタンドアロン(SA)」の導入が必須となる。通信各社は21年ごろの導入に向け、取り組みを加速させている。

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 NSA型の5Gは、通信事業者が既存の4Gネットワークの資源を最大限に活用して5Gエリアを徐々に拡大できるよう考えられたシステムだ。基地局には5Gを使用するが、コアネットワークは4G・LTEの「EPC」。端末が移動通信ネットワークに接続するための制御信号の処理もLTEに依存し、5Gはデータ信号のみの搬送を行う。

 NTTドコモが3月に開始したNSA型5Gの通信速度は、開始当初で下り最大3.4ギガビット秒、上り182メガビット秒。今月さらに高速化するものの、5Gが目指す下り20ギガビット秒、上り10ギガビット秒には及ばない。携帯電話各社が提供するサービス内容も現在のところ、超高精細映像やマルチアングル映像のライブ配信などに限られている。

 今後、超高速大容量、超低遅延・高信頼性、多数同時接続性といった5Gの特徴を最大限に生かし、幅広い産業で新サービスを創出するには、様々な要件に対応できるよう設計された5Gコアネットワーク(5GC)が不可欠だ。SAは基地局とコアネットワークに5Gを使用するシステム構成で、制御信号の処理も5Gで行うため高度なネットワーク制御が可能になる。

 SAの導入で最も期待されている機能の一つがネットワークスライシングだ。これは、様々なサービス要件や通信の用途に応じて通信ネットワークを仮想的に分割する技術。モバイルでの高速大容量、自動運転に不可欠な低遅延、複数のIoTデバイスでの多接続というように様々なユースケースに合わせて最適なネットワークを提供できる。

実証実験を重ねる

 携帯電話事業者は、こうした高度な技術を可能にする5Gの提供に向け、通信機器ベンダー各社とSAネットワーク構築に向けた実証実験を重ねている。

 最近の例では、KDDIが2月にシスコシステムズ、エリクソン・ジャパン、ノキアソリューションズ&ネットワークスとそれぞれ協力し、各社が開発したクラウドネーティブ・アプリケーションやオーケストレーションなどのソフトを用いて5GCの評価を実施。ネットワークスライシングの動作検証に成功した。またNEC、富士通、ノキアと5G基地局仮想化やマルチベンダー接続の実証実験も進めている。

 SAの導入時期については、移動通信システムの標準技術仕様を策定する3GPPの「リリース16」を待たなくてはならない。SA、低遅延・超高信頼性の標準などを正式に決めるリリース16は3月にも完了の予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で標準化作業が3カ月延期された。

 ソフトバンクは先月開催した法人事業説明会で、21年度中にSA型の5Gネットワークを導入する方針を示した。高度化したネットワークで多様なサービスを順次提供していくとし、22年には法人向け新サービス「プライベート5G」を開始。キャリアが提供する「パブリック5G」と、地域や産業の個別ニーズに応じて企業や自治体などが自らの敷地内でスポット的に構築できる「ローカル5G」の中間に位置する新サービスで、「スライシングによる個別機能も提供したい」(同社)と意気込む。

海外にも5GC提供へ

 また、4月に携帯電話事業へ新規参入し、9月に5Gサービス開始を目指す楽天モバイルも、21年からのSA型の5Gネットワーク提供に意欲を見せる。5GCはコンテナ技術を導入したもので、NECと共同で開発する。楽天では国内での展開のみならず、海外の通信事業者向けにも5GCを提供していく考えだ。