freecle(東京都目黒区、久保聡介CEO)は、17年4月設立のスタートアップ企業。音声信号処理の知見を生かした『聴きたい音を自由に選択できるヒアラブルデバイス』の開発により、難聴者の悩みを解決する独自のソリューションを提供している。
◇
同社が重視するのは、難聴問題解決のためのデバイス開発。同社のヒアラブルデバイスは、周波数軸と時間軸の角度を捉えることで、人の声のみを強調し、他の音は減衰する。各人の聴力に合わせたイヤホンを実現でき、通常の補聴器と比べて大幅な低コスト化が可能。第1弾として、難聴者向けの「αble aid」を開発し、近く販売開始する。
久保CEOは同社設立の目的について、「自分の家族に難聴者がいて、助けたいと考えたことがきっかけ。それによりヒアラブルデバイス市場への参入を決めた」と説明する。
「難聴」は、WHOが警鐘を鳴らす深刻な社会問題。業界団体などの報告によると、難聴者は全世界に約4億7000万人が存在する。特に日本人はおよそ10人に一人が難聴者とされ、高齢化に伴いさらに比率が上がっていく見込み。一方で日本人の難聴者のうち補聴器の利用者は約14%とされ、他の先進国と比較しても極めて低い水準にとどまる。
従来、難聴は個人の問題と考えられていたが、ランセット委員会(認知症予防に関する国際的な専門家で構成された委員会)から、「予防できる認知症の最大の要因が難聴である」との報告が発表された。このため、難聴は当事者だけでなく、家族にも影響する深刻な社会問題とされている。
同社は様々な調査活動などを通じ、日本で補聴器普及が進んでいない要因について@機能AコストBユーザビリティの3点が大きいと判断した。「現在の日本の補聴器は、厚労省の規定もあり、ノイズキャンセル機能が推奨されていない。だが、これだと全ての音を大きくしてしまうため、騒がしい場所だと機能的に使いにくい。また、補聴器は5年に1回は買い替えが必要だが、平均30万円とされる現在の価格は普及を阻害している。ユーザビリティ面でも、聴こえ方の調整を店舗でしか行えないのは気軽さに欠ける。当社はこれらの課題解決のためのソリューションに努めている」(久保CEO)。
同社のヒアラブルデバイスは、4個の無指向性マイクを使用。音波の時間差を解析し、音の方向性を特定。特定の音を強調し、それ以外の音を除去できる。これらにより、特定方向以外のノイズを最大99%カットする技術の開発に成功した。日本および海外各国で特許出願中。難聴者向けデバイスとして近く発売する「αble aid」は販売価格2万9800円(税抜き)の低価格を達成した。
同社ではこのほか、αbleシリーズの各機能を個別カスタマイズ可能で、市販のイヤホンを「集音器」に変えられるアプリ「αble EQ」を19年12月から販売開始した。さらに、自宅やカフェで電話会議に参加するなど、場所を選ばない次世代テレワーク向けデバイス「αble plus」などの開発も進めている。
αble aidの販売開始時期は、新型コロナウイルスによる問題から当初予定より少し遅れるが、今年5月以降の発売を予定する。久保CEOは開発ポリシーについて、「徹底したお客さま目線を大切にし、顧客とともにソフトを作り、機能や価値の検証を行うことを心掛けていく。今後も難聴者のニーズに対して当社が何ができるのかを考えながら開発を進める」と話す。
2011年から16年まで日本IBMに在籍し、戦略コンサルタントとして、ロボットやウエアラブルデバイス、AIサービスの事業開発に従事。17年4月にfreecle(フリークル)を設立した。中央大学法学部卒。