自律移動ロボットの開発、製品化が加速している。人手不足が深刻化し、人と共存して作業を手助けするロボット需要が高まる中、自律移動技術をベースに電機メーカーや機械メーカーが新たな移動型ロボットを開発し、市場に導入、提案。病院内の薬剤や検体を人に代わって自動搬送する病院内自律搬送ロボットをはじめ、情報提供手段としてサイネージを搭載する自律移動型サイネージロボット、自律移動型床面洗浄ロボット、ルームサービスロボット、ゴルフボール集球ロボットなど、市場ニーズに応える自律移動ロボットが次々に登場している。
パナソニックは13年、看護師、検査技師に代わって薬剤や検体などを搬送する自律搬送ロボットを松下記念病院と共同開発し、販売を開始した。同病院のほか、埼玉医科大学病院、独協医科大学病院、神戸市立医療センター中央市民病院、CGH(シンガポール)の国内4病院、海外1病院に15台を導入、稼働中だ。
従来の搬送装置で必要だった、ガイドのための通路面へのテープや、壁や天井内への搬送設備などの施工が不要で、あらかじめ記憶した施設の地図情報を基に目的地までの経路を自ら判断して走行する。2D LiDARを4個搭載しており、検知が難しい障害物や階段など落下する可能性のある場所も可視光、マップマッチングなど三重の安全管理によって危険を避ける。導入以来、無事故が続く。
5月から、新たに高精度2D LiDARを搭載。内蔵PCの高速演算化や安全回路の機能強化でより安定した自律走行を実現させた。バッテリのリチウムイオン電池化や駆動モーターの高トルク化、静音化、収納庫のID認証などの新機能を装備した第2世代「HOSPI」と、27型FHD LCDパネルを最大3面搭載でき、オプションで遠隔操作や遠隔コミュニケーション、顔振り向きが可能な「HOSPI Signage」の受注を開始。7月には搬送容量を5倍に増やした「HOSPI Cargo」の受注も始めた。
パナソニック プロダクションエンジニアリング新規事業センターのロボティクス事業推進部・内山博之部長は「深刻化する人手不足に対するソリューションの一つとして、院内搬送業務の効率化、情報伝達・コミュニケーションの新たな手段の創出で貢献し、自律移動ロボットの普及、拡大を目指す」と話す。収納庫や外装を変えることで展示案内用やドリンク搬送用など、様々な用途への展開を検討している。
村田機械も自律移動ロボットの開発に力を入れる。02-04年にRobocupに参加。04年には慶応義塾大学入学センターの依頼を受け、受付案内ロボット「KEITA」を開発、納入した。06年からは慶応大学、産業技術総合研究所と戦略的先端ロボット要素技術開発プロジェクトのロボット搬送システムの研究を受託。「全方向移動自律搬送ロボット(病院内ロボット搬送システム)」を開発し、京都第二赤十字病院で院内走行実験を実施した。ステージゲート評価を受けて要素技術開発のステージゲートTから実用化開発のステージゲートUへと進み、公共空間での搬送システムに必要な技術構築を図っている。
森口智規研究開発本部事業開発センター所長は「研究開発本部では製品開発のスピードアップ、コア技術の育成、新規事業の創出に取り組んでいる。ロボットは新規事業の一つだ。ロジスティクス&オートメーション、繊維機械などで自動化を手がけるが、最先端の技術や情報が集まるロボット、特に公共空間での移動、搬送に付加価値があると見て研究、開発を進めている」と説明する。
大阪大学歯学部付属病院、京都大学医学部付属病院でも薬剤や検体を人に代わって自動搬送する病院内自律搬送ロボットを導入し、効果を検証。これらの研究開発により、自己位置推定技術「SLAM(スラム、シミュレーション ローカライゼーション アンド マッピング)」技術を独自開発したほか、SLAM技術を用いた自律移動制御によるナビゲーションシステム「It's Navi(イッツナビ)」も開発。事前にオペレータが手動で経路を走行させ、経路を記憶させることで走行軌跡と走行速度、走行条件などを再現しながら自律走行することを可能にした。
14年3月にはIt's Navi搭載第1号となる自律走行ロボット床面洗浄機SE-500iXをアマノが製品化し、販売を開始。熟練した作業者の操作を記憶させることで同等の作業を自動で行えるもので、チャンギ空港(シンガポール)、羽田空港、大手百貨店、商業施設、JR各社に導入した。お土産を客室まで搬送するルームサービスロボットは、変なホテル ラグーナテンボス(愛知県蒲郡市)に導入。
17年には光触媒と殺菌灯で空間浄化機能を持つデジタルサイネージロボットを開発し、展示会などで紹介した。19年9月からはキワ産業と協業し、GPSと外周ダイレクトティーチングを活用した、ゴルフ練習場のボール集球ロボットを開発し、国内数カ所で実験を始めている。It's Naviを他社製の既存走行機能付き装置・システムに搭載して自律移動機能を持たせる新ビジネスを事業開発センターで立ち上げた。