新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は「次世代人工知能・ロボット中核技術開発」に取り組んでいる。NEDOと熊本大学は今回、人との物理的な接触を伴う作業を行うロボットの安全で快適な動作に必要な、人の皮膚感覚と同等の性能を持つロボット皮膚センサーを開発した。
人の生活・作業環境に入り込み、人との物理的な接触を伴う作業を行うロボットが、人に対して安全で快適な動作を実現するためには、人と同じように全身を覆う皮膚センサーが必要だ。ロボット用皮膚センサーの実現に向けては、主にシート状に成形した圧電感圧センサーをロボットに貼り付ける手法が提案されているが、大面積の自由曲面形状を隙間なく被覆するには柔軟性や伸縮性が不足していることが課題となっていた。
この課題を解決するため、NEDOと熊本大学は15年度から、次世代人工知能・ロボット中核技術開発事業に取り組んでおり、力や振動と電気信号を相互に変換する圧電膜をスプレー塗布によって作製するゾルゲルスプレー法をコア技術とした塗装プロセスを用いて、ロボット用皮膚センサーなど曲面に密着する圧電感圧センサーの作製技術の確立、および作製される圧電膜のフレキシブル性・耐高温性を活用した応用を目指す。
今回、従来のゾルゲルスプレー法を改良し、連続塗布プロセスとスプレーガン自動駆動システムを確立。均一で再現性の良い大面積の圧電膜を作製することに成功した。
さらに、圧電感圧センサーからの信号を安定して取得する回路システムを開発し、人の皮膚と同程度の空間分解能や周波数感度を有することを確認。これらの成果は従来のロボット皮膚センサー技術の課題を解決し、人の皮膚感覚と同等の性能を持つロボットの実現に大きく貢献するものといえる。
同センサーの搭載で、人間協働ロボットの安全かつ快適な動作が可能となり、社会実装の実現性が高まった。モバイル機器や日用品、自動車、航空機の翼など、様々な形状・サイズの対象表面に圧電感圧センサーをスプレー塗布することによって表面圧分布や振動を測定できる。
また、ゾルゲルスプレー法で作製される圧電膜の耐熱衝撃性を生かし、超高温下であっても、大面積・特殊形状を対象とした超音波非破壊検査(肉厚・欠陥モニタリング)が可能になる。材料の完全非鉛化にも成功しており、人の皮膚表面に貼り付けて振動や生体信号を取得するウエアラブルフレキシブルセンサーとしての活用も期待される。
今後、力分布の安定計測に向けて曲面への電極配置手法の確立に取り組み、ロボット皮膚センサーだけでなく、ボトルなどの把持状態の取得、航空機や自動車の車体表面の風圧分布測定などの用途開発を行う。
また、工業的に拡張可能なロボット皮膚センサー実現のための大面積・曲面塗布プロセスが確立され、ゾルゲルスプレー法を多様な用途へ事業化展開するための素子生産技術の目途が立ったことから、熊本大学は、ゾルゲルスプレー法で作製するセンサー(ゾルゲル複合体圧電センサー)の事業化を推進するため、大学発ベンチャーである、CAST(熊本大学発ベンチャー認定)を設立した。