東京工業大学、リコー、産業技術総合研究所
従来型と同等の周波数安定度をを実現した超省エネ、小型の原子時計
開発した小型原子時計
東京工業大学、リコー、産業技術総合研究所(産総研)の研究グループは、消費電力が極めて低い小型の原子時計(ULPAC)を開発した。この原子時計は、構成部品の一つである周波数シンセサイザの消費電力を大幅に削減。さらに、新たな量子部パッケージを用いることで温度制御の効率を向上させ、60mWという低消費電力と15立方cmという極小サイズを実現した。5年後をメドに販売開始を目指す。
この研究成果は、大型で消費電力が大きかった原子時計のサイズおよび消費電力を大幅に削減することで、これまで搭載が難しかった自動車やスマホ、小型衛星など様々な機器に原子時計を搭載できるようになり、自動運転、高精度な測位、新たな衛星ネットワークの実現を大きく加速させる可能性がある。
ULPACは、消費電力を大幅に削減しながら、大型の原子時計とほぼ同等の、1日で300万分の1秒以下の精度を達成した。電圧制御水晶発振器、周波数シンセサイザ、レーザーのドライバー回路、制御回路、セシウム133原子へのレーザー光照射を行う量子部パッケージで構成される。
CPT(コヒーレント・ポピュレーション・トラッピング)を利用した原子時計では、セシウム133原子に二つの周波数のレーザー光を照射する。この二つのレーザー光の周波数差がセシウム133原子に固有の共鳴周波数(91億9263万1770Hz)と一致したとき、検出される光強度が最大となる。これを利用して電圧制御水晶発振器を校正し、原子時計の基準となる非常に安定した周波数をつくりだす。
周波数シンセサイザは、レーザー光の周波数差を0.3ミリHz以下の非常に細かい周波数ステップで変えるために用いられ、従来、原子時計の構成要素において50mW以上の大きな電力を占める部位だった。
ULPACは、周波数シンセサイザをCMOS集積回路で作り込むことにより、消費電力を25分の1以下まで削減することに成功、2mWの消費電力を達成した。
さらに、新たな量子部パッケージの構造を採用し、ヒーターによる温度制御の際に外部の温度が伝わりにくくなるような隔離機構を設けるとともに、パッケージ内部を金でコーティング。温度制御の効率を向上させ、電力を消費しがちなヒーターの消費電力を9mWまで削減する。高安定レーザードライバー回路および高精度温度制御回路によって長期間での周波数安定性も改善した。
従来の周波数標準器では、消費電力と周波数安定度はトレードオフの関係にあったが、ULPACは良好な周波数安定度と低い消費電力を両立しており、サイズも15立方cmと非常に小型だ。今回、510秒(約1日)の平均化時間で2.2×−12 10の長期周波数安定度を達成。一般的な水晶発振器を搭載する時計と比べ、約10万倍も正確な時計を実現した。