産総研、アイディエス

製造期間3分の1以下、低コストで制作可能な3Dプリンタ技術による義歯

 入れ歯は、口の中を型取りした石膏型から歯科技工士が原型を作り、金属を流し込んで作成。違和感のない入れ歯にするには熟練した技術と時間が必要だった。今回産総研などが開発した3Dプリンタ技術は、短期間かつ半分以下のコストで作れるようになった。今後は、同技術の拡大普及のため保険適用を目指す。

 産業技術総合研究所(産総研)健康工学研究部門生体材料研究グループの岡崎義光上級主任研究員は、歯科用合金を製造・販売するアイディエス(荒木政幸社長)と共同で、3Dプリンティング用コバルトクロム(Co−Cr−Mo−W)合金粉末の薬事承認を取得。患者に最適な人工歯(補綴修復物)を用いた歯科治療を実現した。

 今回開発した入れ歯の作成技術は、歯科医院で患者の口腔内データを専用のスキャナなどで取得。歯科医師の指示のもと、歯科技工処理を行い、患者に最適な形状の人工歯を設計。そのデータに基づき、医療機器として厚生労働省に登録された3Dプリンティング(3次元積層造形)装置を用いて積層造形。造形材の表面仕上げ後、臨床使用するもの。

 破損やアレルギーに対するリスクが少なく、歯科鋳造で長時間を要していた立体構造の人工歯が、短時間で造形できた。

 同技術により、歯科鋳造や切削加工での作製に比べて、製造時間の短縮、信頼性が向上。口腔内データがデジタル化され、製品設計が迅速化でき、必要に応じて同じ製品をすぐに作製できる利点もある。

【開発の背景】

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ブリッジ・部分入れ歯・総入れ歯などの
義歯を使っている人の割合は年齢とともに増加。
75歳以上の89%が義歯を使用し、
約40%の人が総入れ歯を使用している

 口腔内に部分入れ歯や総入れ歯など複数の材料を使用すると、口腔内や口腔外でのアレルギー症状がみられることが多く、アレルギー反応の少ない単一材料での一体製造が求められていた。3Dプリンタによる積層造形法は、新技術のため厚生労働大臣からの認可が必要となり、医薬品医療機器総合機構による審査が必要であった。

 その対応のため産総研が事務局となり、厚生労働省、経済産業省、日本医療研究開発機構の合同事業である医療機器開発ガイドライン策定事業により、「三次元積層造形技術を用いた歯科補綴装置の開発ガイドライン」の案を作成。厚生労働省、経済産業省の合同検討会での了承後、17年3月末、経済産業省から公開された。

【内容】

 今回の開発では、3次元積層造形用コバルトクロム合金粉末の薬事製造販売承認申請はアイディエスが担当。産総研は、積層造形材のミクロ組織や耐久性などの力学的安全性評価を行った。今年4月27日、3次元積層造形用コバルトクロム合金粉末が、厚生労働大臣から国内で初めてクラスUの医療機器として製造販売が承認された。

 従来技術との比較を図に示した。積層造形技術では、歯科鋳造時に必要なワックスなどの消耗品は不要となる。積層造形に使用するコバルトクロム合金粉末は再利用でき、鍛造加工に比べて低コストの製造技術である。

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従来技術(鋳造法)との比較では、3Dプリンタ(積層造形)技術は工程数が半減、
ワックスなどの消耗品は不要となる [出所:産総研]

 積層造形では、造形テーブル上に1層分敷き詰められた50マイクロメートル以下のコバルトクロム合金粉末にレーザーを走査しながら照射・加熱。合金粉末を溶融させて結合する。1層分のレーザー走査後に造形テーブルが1層の厚さ分下降。新しく1層分の粉末層を敷く。これらの工程を繰り返して、あらかじめ設計されたデザインの人工歯が造形される。

 夜間に造形すれば、次の日には仕上げ加工でき、製造期間が3分の1以下に短縮できるのが特徴。