低消費電力のナノセンサーのメカニズム
慶應義塾大学理工学部電子工学科の内田建教授らは、グラファイト(黒鉛)のナノスケールの薄膜(グラフェン)とパラジウム・ナノドットを用いた水素センサーを作製。いつでも、どこでも健康管理が可能な低消費電力のナノセンサーを開発した。
IoT技術の浸透に伴い、多くのセンサーの需要が高まっている。なかでも、人の健康状態の把握につながるデータを計測するセンサーが注目されている。
従来、健康状態を把握するには、大型の装置による検査や採血など肉体的な負担のかかる検査が一般的であった。病気や人の活動と関連する低分子を計測できる小型・低消費電力のセンサーが実現すれば、いつでもどこでも呼気や汗に含まれる代謝物をモバイル端末で計測して、健康状態を把握することが可能になるといわれている。また、これらのセンサーには、多くの分子を識別できること、消費電力が低く小型でモバイル端末への搭載が容易なことが求められる。
人が出す呼気中の水素は、健康状態を知る重要な目安となる腸の状態を反映することが知られている。しかし、呼気中には、約100万個の分子当たり数万個の水分子と数個から数百個程度の水素分子が含まれている。そのため、それら微量の水素分子を呼気から瞬時に検知することが困難であった。
今回開発したセンサーは、グラフェンと呼ばれるナノスケールの材料を利用。小型で消費電力が極めて低く、外から加える電圧を変えるだけで、たった1個のセンサーが水素センサーにも水分センサーにもなる多機能性の分子センサー。電気で発生した熱をセンサー構造の工夫により、グラフェンに局在化させることに成功。グラフェンとパラジウム・ナノドット触媒は熱容量が小さく、高速にセンシング材料の昇温・降温を行うことが可能となった。呼気などの湿度が高い空気中でも、高温で微量の水素を検知する状態と、低温で水分を検知する状態を切り替えられるセンサーを実現した。
IoTの時代には、様々な目的で多様な分子を検出することが重要となる。今回開発した技術は、1個のセンサーをスマホや小型マイクに搭載し、使用時の呼気に含まれる様々な分子の情報によって健康状態を管理できるキー・デバイスとなることが期待される。
同研究成果は、7月3日に米国化学会の科学雑誌「ACS Applied Nano Materials」のオンライン速報版で公開された。
なお、同研究は化学技術振興機構CRESTの支援を受けた。