大阪大学、金沢大学

塗るだけでセラミック超薄膜をコーティングできる技術を開発

概  要

 大阪大学産業科学研究所の菅原徹助教と金沢大学の辛川誠准教授らの研究グループは、「原料を塗るだけでセラミックス超薄膜をコーティングする技術」を世界で初めて開発した。

 近年、有機太陽電池の緩衝層(電子・正孔輸送層)には、セラミックス薄膜を用いた研究開発が盛んになっている。従来のセラミックス薄膜の製造プロセスでは、加熱またはそれに代わる技術(例えばUV照射など)により焼結と呼ばれる工程を経る必要があった。

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有機太陽電池の写真とのセル構造の概念図。光照射中と非照射時における電流密度電圧(JV)特性。

 今回、菅原助教と辛川准教授らの研究グループは、原料を混ぜて塗るだけで、ナノメートル(nm)スケール(10億分の1メートル)のセラミックス超薄膜を成膜することに成功した。この超薄膜の膜厚は、およそ5から100nmの間で精密に制御ができる。この成膜技術を使って、有機太陽電池を作製し変換効率を調べたところ、約20nmの超薄膜で最も高い変換効率を示した。また、加熱焼結によって成膜されたセラミックス薄膜を用いて作製した有機太陽電池と比較して同程度の変換効率を実現した。

 これにより、これまで加熱が必要であったセラミックス薄膜の成膜工程から加熱工程を省略することができるため、製造プロセスの大幅な短時間化と低コスト化が期待される。

研究の背景

 これまで、セラミックス薄膜は、一般に300℃を超える熱エネルギーもしくは、それに代わるエネルギー(例えば、高強度なUVやレーザー、超音波などのエネルギー)を与えることで基材(基板)へ強固に製膜され、半導体や絶縁体など機能性薄膜として活用されることが知られていた。今回の研究では、有機太陽電池に活用される緩衝層を応用例のひとつとして、原料を混ぜて塗るだけ≠ナ、基板となる電極へセラミックス薄膜をコーティングする技術開発に取り組んだ。

 近年、有機太陽電池開発では、光を吸収する有機半導体の研究だけでなく、半導体の原理によって光エネルギーから生成した電子と正孔を効率よく電極へ分離する緩衝層材料とそのデバイス設計が盛んに研究されている。その中でも、塗布型酸化膜のコーティング技術開発は、もっとも注目される技術である。これまで、有機太陽電池の緩衝層に用いられる酸化膜においても、高強度なUVや白色光を照射することで、電極基板へ酸化膜を常温でコーティングする技術が発表されてきた。

 菅原助教らの研究グループでは、辛川准教授(金沢大学)と共同で、有機金属分解(MOD)法により、世界で初めて常温常圧で塗布するだけで酸化膜をコーティングする技術を開発した。成膜された酸化膜を有機太陽電池に応用し変換効率を用いて酸化膜の半導体特性を評価したところ、加熱焼結技術によって成膜された酸化膜と同等以上の能力を発揮することがわかった。

 今回の研究成果により、「加熱プロセス」の製造工程が1プロセス省略され簡略化できる。また、電子デバイスの製造工程において、消費エネルギーが削減されるだけでなく、電子デバイスの製造時間の短縮が期待される。これにより、デバイスの製造コストが削減され、デバイス単価を抑えることでセラミックス薄膜を用いた次世代エレクトロニクスデバイスの社会実装が促進される。

<資料提供:大阪大学>