米国の有料映像配信市場でMVPD(有料放送事業者)の契約者数の伸びが足踏み、代わりにOTTの契約増が顕著になっている。OTTの台頭に伴いケーブルテレビ(CATV)業界ではコードカッティング≠ニ呼ばれる契約解除が増加。一方で同業界ではOTTと連携の動きも出ている。
米国のCATV事業者はいくつかのチャンネルをまとめて提供する「バンドル方式」で顧客と契約しているが、多い局ではその数が100チャンネル近い。しかし実際に契約世帯が視聴するのはせいぜい10チャンネル程度。契約世帯に割高感が出てくるのは当然である。
こうした「見ないものにも料金を払う」という契約形態に契約者は不満。その反動として登場したのが、インターネットの普及に伴うOTT事業者だ。
電波、ケーブル、衛星が長い間、映像伝送の主役だったが、10年ほど前からネットが映像の伝送方法に加わった。ネットフリックスは07年、Hulu(フールー)は翌年サービスを開始。特にネットフリックスの契約件数は17年末、米国で5475万件、米国外も含めると1億1758万件となり、1億の大台に乗った。
ネットフリックスは当初、定額見放題(SVOD)というサービスで契約者数を増やしたが、近年ではオリジナル作品の制作に注力、できるだけサービス提供地域の言語で放送するなどの努力で米国外での契約を拡大。現在ではネットフリックス、フールー、アマゾンがOTT3大事業者。3社合計の米国内の契約数は18年3月末で1億270万件(NCTA調べ)。
こうしたOTTが伸びている要因として、MVPDと比較して料金が安価、手軽さ、一年中見たい番組が視聴可能などがある。
OTTの台頭がコードカッティングをもたらしているが、CATV事業者が静観しているわけではない。
コムキャスト、チャーターといった大手事業者は15年半ばから「スキニーバンドル」と呼ばれるサービスに乗り出した。月額料金を通常より低く抑え、10―20ドルに設定してチャンネル数を絞ったスキニー(皮状の、薄いという意)¥態での提供により、割高感を回避したサービスだ。
コードカッティングへの対抗策として、コムキャストのようにネットフリックスと協業拡大するケースも出てきた。
コムキャストは4月から新しいサービスとしてネットフリックスのコンテンツをバンドルして、コムキャストの料金に組み込んで視聴者に提供開始した。
米国ではさらに「vMVPD」(仮想MVPD)というサービスも登場している。スマホを含むネット経由でテレビ局のコンテンツを生放送するサービス。ディッシュ・ネットワーク系の「Sling TV」や、AT&T系の「DirecTV NOW」が代表例だ。この2社合計で17年末時点330万契約(SNL調べ)。
米国のMVPDでは、AT&TによるTW買収で一段と業容を拡大する一方で、ライバル企業との提携により「競争より協業」を模索、コードカッティングに歯止めをかけようとしている。
Multichannel Video Programming Distributor/Over−the−Top。MVPDはCATV局、衛星、通信事業者が提供する有料の映像配信サービス。OTTは既存の伝送路を使用せず、インターネットを活用してコンテンツを配信するサービス。