V―Lowマルチメディア放送とは地上アナログテレビが使っていた99−108MHzを利用して創設された新しい放送サービスで、映像 音響・データを扱える、第3の放送制度と称されている。
「テレビのデジタル化が世界規模で進んでいるが、海外では先進国を中心に約50カ国でラジオのデジタル化が進み、イギリスやノルウェーでは新車の90%以上がデジタルラジオを搭載。米国ではラジオ局の90%がデジタル化している」と強調するのは、エフエム東京が中心となり設立した、日本のデジタルラジオ放送「i―dio」を推進しているジャパンマルチメディア放送(JMB)の梅本宏彦社長。
梅本社長は「自動車にもハイレゾ級の超高音質の放送が提供でき、ピンポイントの緊急情報伝達もできる。家庭にも高音質放送と緊急情報が提供可能。加古川市、喜多方市、あきる野市、焼津市でも国の補助助成金を活用した導入が始まっている」と話す。
車への導入は「28年までに7千万台の3分の1、33年には3分の2、最終的には全車」を目標にしている。
法定義は「移動受信用地上基幹放送」で、自動車や陸上を移動するものに設置したり、携帯受信設備で視聴する放送。
「V―Low」は、VHF帯アナログテレビに割り当てられていた周波数のうち1―3チャンネルの低い方の帯域を使うことから名付けられた。4―12チャンネルに使われていた高い周波数は「公共・一般業務無線」や、携帯端末向けの「V―HIGHマルチメディア放送」に割り当てられている。
第1図は周波数割り当てと、V―Lowマルチメディア放送の特性などを示している。
デジタル方式を利用しているため、クリアな音声で放送が可能。映像も扱えるので、音声と映像を組み合わせた放送や、データキャスト放送も可能。ハイレゾ級超高音質コンテンツの放送も行うことができ、カーオーディオのほか、室内外用の音響製品への導入も期待されている。
第2図のように、災害情報、交通情報、映像・データ、ラジオ、電子配信、行政情報伝達など活用シーンは幅広い。
「i―dio」では「V―ALERT」と名付けた自治体防災伝達システムの提供もはじめ、既に導入が始まっている。第3図が地域情報と災害情報における「V―ALERT」の情報の流れ。放送設備を担当するVIP社が自治体住民に地方自治体からの情報を放送伝達する。
第4図が「V―ALERT事業」の仕組みで、第5図が「V―ALERTの高度化事業」の概要を示している。いずれも、国の財政措置による支援が受けられる。
現在、各地に導入されている防災無線放送や家庭に配った防災受信ラジオも、デジタル化が進められていて、22年までのデジタル移行が促され、各自治体は順次更新を始めている。一方、防災無線を導入していない市町村もあり、加古川市では最新のV―Lowマルチメディア放送を代わりに導入。
情報放送設備はノートPC。アンテナはテレビ用のものが使え、指定緊急避難場所の鍵を収納した箱の開閉や扉への誘導灯の隔操作もできる(写真1―3参照)。新旧防災対策のハイブリッド化を推進すれば、安全性はより高くなりそうだ。
JMBは車載向けのビジネスをさらに加速するため、「車載推進本部」を設立。5月からi―dio受信機能を備えた車載端末のプロトタイプを実装した自動車で走行実証事業を始めた(写真4参照)。