家電製品から産業機器、鉄道車両用機器などで使用されるパワーエレクトロニクス機器では、さらなる高効率・小型化が求められている。このニーズに応えるために、パワーエレクトロニクス機器のキーパーツであるパワー半導体モジュールの素子に従来のSi(ケイ素)パワー半導体素子に比べ、抵抗が少ないSiCパワー半導体素子を採用し、電力損失の低減を実現する動きが加速している。SiCの高効率化を向上させるためには、今まで以上に抵抗をさらに低く抑える技術が必要となる。
三菱電機と東京大学は世界で初めてパワー半導体モジュールに搭載されるSiCパワー半導体素子の抵抗の大きさを左右する電子散乱を起こす3つの要因の影響度を解明するとともに、要因の一つである電荷による電子散乱の抑制により、界面下の抵抗が従来比3分の1に低減することを確認した。SiCパワー半導体素子の低抵抗化によるパワーエレクトロニクス機器のさらなる省エネに貢献する。
SiCパワー半導体素子の低抵抗化をさらに進めるためには、界面下の抵抗特性を正しく理解することが必要。これまでは抵抗の大きさを左右する電子散乱を起こす要因である(1)界面の凹凸、(2)界面下の電荷、(3)原子振動――の3つの影響度を分離して測定することが困難だった。
今回開発した独自技術では界面下の抵抗に影響を及ぼす要因を個別に測定することにより、電子散乱は界面下の電荷と原子振動による影響度が大きいことを世界で初めて解明した。
今回の開発では、まず界面下の電荷による影響を確認するため、電子が流れる領域を界面から数十ナノメートル遠ざけたヨコ型の抵抗評価用素子(SiC−MOSFET)を作製。原子振動に着目し、SiC界面近くの電子散乱を東京大学の評価技術で測定した。
SiCの抵抗を左右する電子散乱を起こす3つの要因(界面の凹凸、界面下の電荷、原子振動(図1)のうち、界面の凹凸の影響は小さく、界面下の電荷と原子振動の影響が大きいことを実験により世界で初めて解明した(図2)。
横型の抵抗評価用素子において、界面下の電荷から電子の流れを遠ざけることで電荷による電子散乱を抑制し、界面下の抵抗を従来比3分の1に低減することを確認した。これによりSiCパワー半導体素子の低抵抗化につながると見込まれ、さらなる省エネ化、高効率化を実現する。
今回の開発はSiCパワー半導体素子の高性能化を目的として、三菱電機と東京大学が界面下の抵抗評価技術に関する共同研究により開発した成果。
三菱電機は横型の抵抗評価用素子の設計、製造、および抵抗要因の解析を担当し、東京大学は横型の抵抗評価用素子における電子散乱要因の実測評価を担当した。
今回開発した成果をデバイス構造に反映させることにより、より一層抵抗の少ないSiCパワー半導体素子の実現を目指す。