日本大学 内木場文男理工学研究所長

MEMS研究の最先端現場を訪ねる

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【写真1】日本大学 理工学部
内木場文男 理工学研究所長

 日本大学理工学部(千葉県船橋市)は、同大内木場文男理工学研究所長を中心とするメンバーが最新のMEMS(Micro Electro−Mechanical Systems)研究に取り組んでいる。同校は、クリーンルームが配置され、大型真空装置やプラズマ微細加工装置(写真2)などが装備された「マイクロ機能デバイス研究センター」(写真3)を有している。MEMS研究は、このセンターを中心に行われている。

 今回は、内木場研究所長に「MEMS技術の現状と将来についてご自身の研究を中心にお話頂いた。

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【写真2】マイクロ昨日デバイス研究センターに
装備されているプラズマ微細加工装置
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【写真3】研究拠点のマイクロ機能デバイス研究センター
(日本大学理工学部船橋キャンパス)

【応用範囲の広いMEMS】

──最近、MEMSがエレクトロニクスの分野で注目されていますが、ずいぶん応用範囲が広い技術ですね。本来のMEMS技術とはなんでしょうか。

A:大雑把にいってしまえば、半導体集積回路の技術をZ軸方向に拡大し、微細な機構と電子回路を組み合わせたデバイスを作る技術ということです。

──だから、応用範囲が広い?

A:そうですね。電子部品、ロボット機械、光学、化学材料、医薬品分野などなど非常に幅広いです。

──その中で先生のご専門は?

A:現在は、主にマイクロ・ナノデバイス、知能機械学・機械システム、機能材料・デバイスなどを研究しています。

──MEMSと知能機械学や機能材料は、どう関係するのでしょうか。

A:具体的には、MEMS技術を使いAIを搭載した自律型マイクロロボット(写真4)や積層セラミックコアによるマイクロタービン発電機(写真5)の研究を行っています。

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【写真4】MEMS技術で作られた6足歩行
ロボット。ニュートラルネットワークICを用い
て、電源供給だけで歩行する。大きさはわずか
9mmほど、上面にICが搭載されている。
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【写真5】MEMS技術で作られたマイク発電機と
その部品。5mmほどの大きさだが、
最大2.5mWほどの出力が可能。
小さいが基本構造は大きなものと
変わりなく、ブレードも見える

──もう少し、先生の研究について教えてください。

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【写真6】
セラミック材料で形成された発電子。
白っぽい部分がコイル。

A:自律型マイクロロボットは、人間の脳神経の働きを模倣したニューラルネットワークICを搭載したものです。アナログ型AIの研究とMEMS技術を組み合わせています。将来は、こういったロボットをさらに小型微細化し、医療用に使えるもの、例えば狙ったガン細胞のみに抗がん剤を届けるようなドラッグデリバリーロボットなどの開発につなげたいと考えています。マイクロタービン発電機は、MEMS技術を使って、薄い磁性セラミック材料中にコイルを形成し、これを重ね合わせて発電コア(回転子)( 写真6 )を作り、発電機とします。発電には、それ相応の力を加える必要はありますが、5mm程度のマイクロ発電機で2.5mW程度の出力が得られます。

──結構出力が取れますが、どのような用途が考えられますか。

A:現在注目されているIoT対応のエナジーハーベスト用や発電機は電圧を加えるとモーターになるので、マイクロモーターとしてモジュール内に組み込む用途も考えられます。CPUの回路中に組み込んだら、将来、外付けのCPUクーラーが不要なものができるかも知れません。

【産学協同研究に期待】

──先生はMEMSが一般的に普及する前から研究をなさっていますが、普及までにはどのような課題があったのでしょうか。

A:MEMSに相当する研究の歴史は古く、1950年代からあります。特に1987年の「トランスデューサーズ87」でマイクロギヤやタービンが発表され、注目が集まりました。ただ、その後、10年ほど、進展があまりなく、「歯車作っている場合じゃない」などと研究者も危機感を抱いていました。その後、デバイスの量産技術の進歩などで、テキサスインスツルメンツ(デジタルミラー)やアナログデバイセズ(6軸ジャイロ)などが素子・センサー製品を開発、普及が進みました。日本でもエプソンやキヤノンといったメーカーがインクジェットプリンタヘッドをMEMSの技術で開発しました。

──現在は、どうでしょうか。特に日本では?

A:現在、IoTなどで注目されているセンサー関連が研究・開発の中心になっています。面白いところでは、流体(液体)や光回路など微細加工の特長を発揮した技術開発もあります。日本は、量産技術では、外国勢に後れを取っているものの、アイデア面での技術開発では健闘しているようです。さらに産学協同を進めて、成果が出ると良いと思います。

【今後の研究課題】

──先生の今後の研究課題を教えてください。

A:いくつか、ありますが、注目しているのは生体応用ですね。先ほどのドラッグデリバリーもそうですが、生体内にマイクロロボットを入れて治療に役立てるとか、ハードルが高いですが、害虫駆除用に虫の体内に微小機械を組み込んで、個体制御して、駆除などということも考えています。

──ありがとうございました。

《取材協力:日本大学理工学部精密機械工学科 内木場・齊藤研究室》


内木場文男教授(博士(工学))
略歴:1959年生まれ
早稲田大学理工学部応用物理学科 1983年卒業
電気通信大学大学院電気通信学研究科 物理工学博士課程前期修了
TDK株式会社 1985年4月〜2003年3月
マサチューセッツ工科大学 客員研究員 1988年12月〜1990年11月
工学博士(早稲田大学) 1996年
研究分野:
マイクロ・ナノデバイス、知能機械学・機械システム、機能材料・デバイス、電子・電気材料工学、電子デバイス・電子機器、無機材料・物性、構造・機能材料、材料加工・処理
所属学会・協会:
電子情報通信学会、電気学会、American Ceramic Society、American Society of Mechanical Engineers、IEEE
主な役職:
日本大学理工学研究所長、電子情報通信学会 集積回路研究専門委員会専門委員、エレクトロニクス実装学会展示委員会および電子部品・実装技術委員会、International Journal of Advanced Robotic Systems Editorial Broad Member、 Micro/Nano Robotics、日本大学理工学部教授