名古屋大学大学院工学研究科兼科学技術振興機構さきがけ研究者の山田智明准教授らの研究グループは、物質・材料研究機構技術開発・共用部門の坂田修身ステーション長、東京工業大学物質理工学院の舟窪浩教授、愛知工業大学工学部の生津資大教授、静岡大学電子工学研究所の脇谷尚樹教授、スイス連邦工科大学ローザンヌ校材料研究所のナバ セッター名誉教授らの研究グループと共同で、振動発電の効率向上につながる強誘電体材料の新たな特性制御手法を発見した。
代表的な強誘電体であるチタン酸ジルコン酸鉛の膜を、イオンビームで細い棒(ナノロッド)状に切り出すと、そのサイズによって強誘電体の特性を支配する分極の向きの割合(ドメイン構造)が大きく変化することが明らかになった。
今回の研究成果は、従来から行われてきた材料組成や歪みの制御といったアプローチではなく、材料の形状やサイズ、さらには周りの環境により、電荷遮蔽を制御することで、強誘電体の特性向上が実現する可能性を示している。この新しいアプローチを応用することで、環境中の振動を電気エネルギーとして取り出す発電素子(エナジーハーベスタ)の効率向上による小型化が期待でき、IoTで期待される振動センサーや圧力センサーの自立的な電源として利用できる可能性がある。
現在、自然界にある未使用のエネルギーを電気エネルギーに変換する技術が盛んに研究されている。強誘電体注1) には、優れた機械エネルギーと電気エネルギーの相互変換機能(圧電性)を示す材料があり、これを使用して、環境中の振動を電気エネルギーとして取り出す発電素子の開発が行われている。
圧電性をはじめとする強誘電体の諸特性は、その分極の向きの割合(ドメイン構造)に大きく左右されることが知られている。これまで、材料の組成や歪みを制御することでドメイン構造を操作し、これにより特性を向上させようという試みが広く行われてきた。一方で、材料の表面や界面における分極電荷の遮蔽状態もドメイン構造に影響を及ぼすことが知られていたが、研究例は少なく、これによるドメイン構造の操作指針は明らかにされていなかった。
そこで、名古屋大学を中心とする研究グループでは、強誘電体材料をナノサイズ化すると電荷遮蔽の影響が大きくなることに着目し、特にその中でも異方性が大きな棒状のナノロッド≠対象に研究を行った。
サイズが正確に制御されたナノロッドを作製するために、まず、代表的な強誘電体であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)の膜を基板上に作製し、集束イオンビーム注2) を用いて膜の一部をエッチングすることで、高さが1.2マイクロメートル、幅が最小で200ナノメートル(1万分の2ミリ)のナノロッド形状に切り出した。その後、エッチングのダメージを取り除くために、加熱処理を行った。
この研究成果は、強誘電体の諸特性を支配するドメイン構造が、材料の組成や歪みの制御だけでなく、材料の形状やサイズ、さらには、その周りの環境により、分極の電荷遮蔽状態を制御することで、操作できることを示している。
この新しいアプローチを活用して、強誘電体の圧電特性の飛躍的な向上が達成できれば、例えば、環境中にある微小な振動を効率良く電気エネルギーに変換する小型のエナジーハーベスタの実現が期待でき、IoTに代表されるような、数億から数兆個の利用が想定されるセンサーの自立的な電源として利用できる可能性がある。特に、電源機能を兼ねた振動センサーや圧力センサーへの応用が期待できる。
注1) 強誘電体:圧電体の一種で、自発分極を有しており、外部からの電場で分極の向きが反転可能な結晶。
注2) 集束イオンビーム:細く集束したイオンビームを試料表面で走査することで、試料表面を加工する装置。
注3) 放射光:電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石で進行方向を曲げた時に発生する、指向性が高く強力な電磁波のこと。本研究の実験は、兵庫県播磨科学公園都市にある大型放射光施設SPring−8で行われた。
注4) X線回折:物質に照射されたX線が回折を起こす現象で、これにより物質の結晶の構造やその配向を調べることができる。
<資料提供:科学技術振興機構>