科学技術振興機構
スポーツウェアなどに高伸縮性センサーを形成可能な、世界最高性能の伸縮性導体を開発
科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業において、東京大学大学院工学系研究科の松久直司博士と染谷隆夫教授を中心とした研究チームは、元の長さの5倍の長さに伸ばしても935S/cmという世界最高の導電率を示す伸縮性導体の開発に成功した。
この伸縮性導体は、ペースト状の材料を印刷することによって、ゴムやテキスタイルなど伸縮する素材の上に自由形の配線パターンを形成することができる。また、新素材の構造を高解像度の電子顕微鏡で詳細に調べたところ、ゴムにマイクロメートル寸法の銀フレークを混ぜるだけで、ナノメートル寸法の銀の粒子がゴムの中に均一に自然に発生する現象を発見した。
印刷できる伸縮性導体は、高い伸縮性が要求されるスポーツウエア型のウエアラブルデバイスや、人間よりも高い伸縮性を必要とするロボットの人工皮膚を実現する上で必要不可欠な技術。従来の伸縮性導体は伸長させると導電率が大幅に減少するという課題があったが、この研究で発見した新現象によって解決される。この成果により、スポーツウエアやロボットの関節に簡単に高伸縮性センサーを形成できるようになり、今後ヘルスケアや人工触覚など様々な応用が期待される。
近年、様々なウエアラブルデバイスが実用化され、普及が進んでいることを背景に、伸縮性のある配線やセンサーが注目を集めている。
研究グループは、15年に200%(元の長さの3倍)伸ばしても電気を流す、印刷可能な伸縮性導体を作製し、テキスタイル上に塗るだけでセンサーを作製できる技術を開発した。今回、世界最高性能となる従来比約6倍の導電率と従来比約2倍の伸張性を同時に達成する伸縮性導体の開発に成功した。新しい伸縮性導体のペーストは、マイクロメートル寸法の銀フレーク粉とフッ素ゴム(DAI−EL、ダイキン工業)とフッ素界面活性剤を混ぜるだけで作製される。このペーストをステンシルマスク印刷やスクリーン印刷のような印刷技術でゴムやテキスタイルにさまざまな形の配線パターンを簡単に形成することができる。
伸縮性導体は、伸長前の状態で4972S/cmという非常に高い導電率を示す。この材料は200%(元の長さの3倍)まで伸ばしても、1070S/cmという高い導電率を維持することが示された。さらに400%(元の長さの5倍)まで伸ばしても、935S/cmという高導電率が得られた(図1)。
新素材の構造を高解像度の走査電子顕微鏡や透過電子顕微鏡で観察したところ、ゴムにマイクロメートル寸法の銀フレークを混ぜるだけで、混ぜたフレークの約1000分の1大きさの銀のナノ粒子がフッ素ゴム中で合成される現象を発見した(図2)。
研究グループは、開発した伸縮性導体ペーストによる伸縮性配線を活用して、圧力と温度のセンサーをテキスタイルの上に作製した。まず、センサーは伸縮性の高いポリウレタン基材上に全て印刷プロセスで作製される。このシート状のセンサーはテキスタイル用のホットメルトを用いてテキスタイル基材上に転写される。伸縮性のセンサーがテキスタイル上に簡単に作製できるので、人間やロボットの表面の情報を正確に読み取ることができるようになった。
<資料提供:科学技術振興機構>