科学技術振興機構(JST)が実施している研究成果展開事業(スーパクラスタープログラム)の「京都地域スーパークラスタープログラム」が国内外から注目されている。先進のパワー半導体として有望視されているSiCパワーデバイスの本格普及と社会実装が京都地域を核に長野、福井、滋賀の3地域との広域連携により着実に成果を挙げ、産学、産産学、産産公学の連携による革新的イノベーション創出プログラムの成功事例になっている。
文部科学省は企業や大学では実現できない革新的なイノベーションを産学連携で実現することを目指し、13年度から「革新的イノベーション創出プログラム」を実施している。
革新的イノベーション創出プログラムのビジョン実現のために、JSTがこれまで各地域で取り組んできた地域科学技術振興施策の研究成果を生かしつつ、社会ニーズ、マーケットニーズに基づいて国際競争の高い広域連携によるスーパークラスタープログラムを京都地域と愛知地域で推進。
京都地域は革新的SiCパワーデバイスの社会実装を促進し、エネルギーを無駄なく利用するシステムの構築により、環境負荷が少なく、高効率で快適な社会の実現を目指す。
愛知地域はGaN(窒化ガリウム)などのパワーデバイスの開発、蓄電池、燃料電池向け電極、導電材料の開発などにより当地域に集積する次世代自動車の高度化、競争力強化につなげることを目標とする。
ともに中核をなす「コアクラスター」とこれと連携する「サテライトクラスター」とが共同で製品・システム開発における難関のブレークスルーを図り、新たな市場開拓、国際競争力強化および地域活性化の実現に取り組んでいる。プログラム期間は13―17年度の5カ年。
京都府、京都市および京都高度技術研究所(ASTEM)が進める京都地域スーパークラスタープログラムは、開始から4年目。SiCパワーデバイスの基礎・応用技術の開発が進むだけでなく、同プログラム参画企業から社会実装に向けた製品化事例が次々に生まれ、国内外から注目されている。
1970年代から京都大学が世界に先駆けてSiCの研究に取り組み、京都地域の産学官連携体制で推進した「知的クラスター創成事業」(02−13年)でSiCの研究開発を加速、ロームが10年に世界初のプレーナ型SiC MOSFET、国内初のSiC SBDの量産化に成功した。12年には世界初のフルSiCパワーモジュールの量産を開始するなど、SiCパワーデバイスの地域優位性を生かしてパワーエレ応用回路・システムの研究開発を促進してきた。15年にはロームが世界初のトレンチ構造SiC MOSFET(650V/118A、1200V.95A)の開発に成功。従来のSi品の10分の1の体積に仕上げ、SiCの社会実装を加速した。
日本電産、ローム、ニチコン、大阪大学、立命館大学の産学連携では、SiCモジュール搭載の機電一体SRモーターシステムを開発、試作した。従来のSiモジュール搭載システムに比べ32%小型化、69%軽量化、低損失、レアアースフリーを実現。日本電産が家電、車載、産業分野の機電一体モーターシステムとして実用化する。日本電産の機電一体型SRモーターの電装化技術、ロームのインバータ用SiCパワーデバイス、ニチコンの平滑用フィルムコンデンサ、大阪大学開発の駆動用SiCインバータ、立命館大学開発の制御用コントローラを持ち寄った。
ニチコン、ローム、京都大学の産学連携は、SiCパワーデバイスを用いた1MHz、1kW出力のDC─DCコンバータを開発した。Siパワーデバイス採用の従来品に比べて37%小型化、30%軽量化。ニチコンが家庭用蓄電システム、分散型電源、V2Hシステム、EV用急速充電器、車載充電器、医療用加速器電源に展開する計画だ。
また、製品開発力のあるベンチャー企業・中小企業を積極的に発掘(京都、福島、埼玉、大阪、広島)。産産学連携による試作支援体制を整え、ベンチャ―企業、中小企業も取り込んだ産産学連携によるオープンイノベーションを先導。多様な機能の製品試作や単機能よりシステム重視の製品開発が進んでいる。
アイケイエス(京都市)は大阪大学とオールSiCパワー制御システムで直流/交流変換するSiC搭載パワーコンディショナを開発。太陽電池/リチウムイオン蓄電池/EV車を統合したスマートパワーグリッド統合システムへの応用を図る。
京都ニュートロニクス(京都市)/福島SiC応用技研は京都大学と高電圧パルス発生器、SiC MOSFETを直列×並列に接続したスイッチユニットを超小型加速器やプラズマ発生用パルス電源向けに実用化を進める。
京都地域スーパークラスタープログラムは今後も産学、産産学、産産公学の連携を強め、SiCパワーデバイスの社会実装を加速。将来のクリーン・低環境負荷社会を実現する高効率エネルギー利用システム構築に貢献していく。