東北大学電気通信研究所はこのほど、耐災害性の高い情報ストレージ基盤技術を開発した。この技術により甚大な災害時でも継続的な情報サービスを提供できるようになる。1日に東京都内で会見したプロジェクトリーダーの村岡裕明教授は「東日本大震災における教訓を生かし、災害による情報喪失をなくすために開発した。技術は確立できているため、採用に向けた提案をしていく」と述べた。
耐災害性ストレージ基盤は、50%の機器損壊であっても90%の情報保全を目標に開発した。開発されたストレージは多拠点の災害リスクを考慮し、独自アルゴリズムで複製を配置するとともに、残存ストレージとネットワークの再構築により早急にシステム復旧できる。
ストレージシステムは日立製作所が、実証試験用のアプリケーションは日立ソリューションズ東日本が行った。
システムはHDDとネットワークの高速化によるストレージ間の高速データ転送技術により迅速な復旧ができる。同時被災リスクを最小化するアルゴリズムを新たに考案し、80拠点で3千倍に高速化して高可用性と高速複製先の決定を両立。データへのアクセスができる可用性は98.6%を実現している。
試作システムは日立と共同で東北大の3キャンパス(青葉山、片平、星陵)4棟にストレージ装置を分散配置し、仙台市近郊の108の医療機関に装置を設置した状態を模擬して構築した。
日立ソリューションズ東日本と共同で開発したスマホ用投薬情報アプリケーション「電子お薬手帳」を使い、100万人規模を想定した実証実験を実施。目標を上回る90%以上の情報保全を確認した。
ストレージは東北大が開発した次世代の垂直磁気記録により、二つのトラックを同時に読み出しながら正しくデータの復号を行い、140%の転送レートの高速化を実現している。「万が一の災害時でもデータ類を高速で退避できる」(村岡教授)とみる。
今回開発したシステムにより「従来のディザスタリカバリでは実現できなかったインターネット断絶下におけるデータ復元ができるようになった」(村岡教授)という。
この仕組みは、仙台市内や宮城県内の近隣地域内で情報を分散して持ち合うようにするもの。被災後でも、残存機器に残る情報で継続してサービスができるようになる。大野英男所長は「従来に比べ、飛躍的に性能が高まっている」と話している。
開発したシステムは既に実用できる段階に来ており、現在は自治体などに向けて提案を始めている。村岡教授は「通常より1.3―1.4倍のストレージ容量が必要になるが、この仕組みを採用してもバックアップシステムの構築における全体費用は大きくは膨らまない」としている。
技術開発は文部科学省委託事業「高機能高可用性情報ストレージ基盤技術の開発」プロジェクトにより行った。成果は9日、片平キャンパスで開催する第3回シンポジウムで詳細が報告される。