15−17日に開催された「3Dプリンティング2017」セミナー(東京ビッグサイト)で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)研究開発部門第二研究ユニットの池田博英主幹研究員から宇宙航空開発分野における3Dプリンタ活用事例が紹介された。
国産ロケットで実績のある「H−UA」ロケットの部品点数は約100万点あり、製作では2次下請けを含め約1千社が支えているいわれる。
ロケットでのモノづくりは少量多品種、極限までの軽量化要求、高い信頼性などが求められるため、一般的な大量生産手法には不向きといわれている。
一方、最近の3Dプリンタ技術では、電子ビームやレーザーで金属粉末を選択的に溶融・凝固・積層することが可能となっており、質の高い技術の出現が航空宇宙のモノづくりに変革を起こしている。少量多品種生産では、3Dプリンタの特徴であるCADデータをもとにビーム走査により金型が不要で低コスト・短納期化が期待できる。
世界の航空宇宙分野の動向として、欧米では政府の主導のもと、小型部品から人工衛星やジェットエンジンなどへの試作が始まっていることなどを池田氏は紹介。
11年に打ち上げられた通信衛星のアンテナ部に3Dプリンタ部品が使われた。米NASAの例ではロケット用部品に採用を目指し、燃焼実験を実施。部品点数を大幅に削減した。
また、米国民間企業で開発中のスペースXのスーパードラコエンジンにレーザー積層3Dプリンタで作成した燃焼室外筒を適用していることなど、3Dプリンタの特性を生かしたデザインコンテストを実施。600件を超えるエントリがあったという。
一方、JAXAは航空機・人工衛星・ロケットの国際競争力強化を目的に、3Dプリンタの実用化に取り組む。小型回収カプセルの部品で実用化、衛星用などの研究試作や次期大型H3ロケットの第1段エンジンへ適応計画を立案実施中で、3D造形試作噴射器による日本初のエンジン燃焼試験も実施していることが紹介された。
池田氏は「航空宇宙産業がグローバルな競争の中で競争力を維持していくためには、3Dプリンタの技術を速やかに習得し、新たな産業構造への対応が不可欠。装置開発と実用化の両輪が重要」と語った。