Wi-SUN FAN対応無線機の基礎開発に成功

京大、ローム、日新システムズ

画像1

 京都大学情報学研究科 原田博司教授の研究グループは、ロームの研究グループと共同で、数kmに存在する数百のセンサーからの情報をIPv6によるマルチホップを利用して、低消費電力で伝送可能なIoT(モノのインターネット)向け新国際無線通信規格Wi−SUN FAN(Field Area Network)注1)  に対応した無線機の基礎開発に成功した。

 これまでのマルチホップ可能な無線センサーネットワークの技術は、製造ベンダー間で相互接続可能な技術仕様化はされていない独自仕様であったため、自由に機器開発、アプリケーション開発ができず、IoT実現のための障壁になっていた。

 今回開発した無線機は、1カ月2000オペレーションで最大10年間、センサーからの情報を収集可能であり、PM自らが副議長として制定したIEEE802.15.4g注2)  技術を核に、IPv6方式およびIPv6でマルチホップな方式を融合し、製造ベンダー間で相互接続性があるWi−SUN FAN仕様を初めて無線機の形で実現したものである。そのため、アプリケーション開発が非常に容易になり、マルチホップを利用したIoTがより促進されると期待される。

 無線によるIoTネットワーク実現のためには、高品質で長距離かつ安全でかつ消費電力の低いネットワーク技術が必要となる。こうした中、京都大学 原田研究室は低消費電力でIoTを実現する無線通信方式を開発し、米国IEEE802.15.4gにおいて国際標準化をした。また、ロームはこの規格に準拠した通信モジュールを開発してきた。両者はIEEE802.15.4gをベースにした無線通信規格の技術適合性・相互接続性認証を行うWi−SUNアライアンス注3)  を理事会メンバーとして構築し、国内外100社以上の企業と本技術の普及促進を行っている。

 このWi−SUNアライアンスにおいては2016年5月16日に新国際無線通信規格Wi−SUN FANの仕様書を発表した。Wi−SUN FANは電気・ガス・水道のメーターリング、環境、人の行動等を管理、制御するスマートシティ、そして工場、医療用センシングを構築する様々なIoTアプリケーションにおいて、IEEE802.15.4g規格の低消費電力無線伝送技術とIPv6によるマルチホップ技術を利用した、相互運用可能な低消費電力IoT無線通信技術である(図1)。このWi−SUN FANは、米国IEEE802.15.4/4g/4eを無線伝送部に持ち、米国IETF 6LowPAN注4)  を介してIPv6パケットの伝送を可能とし、米国IETF RPL(IPv6 Routing Protocol for Low power and Lossy network)注5)  によるマルチホップ技術、米国IEEE802.1xの認証方式を利用した、通常の無線LANと同様の手軽さでIoTを実現できるシステムである。

 しかし新規格に対応した無線機の基礎開発はまだ十分行われておらず、その有用性を広く伝えることができていなかった。また、現状の製造ベンダーごとに独自開発されているIoT無線通信技術は通信仕様がオープン化されておらず、アプリケーション開発が難しいという問題があった。

画像1
【写真1】開発した無線機の外観および基本仕様
(左:アクセスポイント、右:端末)
周波数は920MHz帯、変調方式はFSKを利用。
伝達速度は50Kbpsもしくは100Kbps

画像1
【写真2】開発した無線機を用いたマルチポップ実験
アクセスポイントから2台の端末に接続し、
その2台からマルチポップで伝送

<研究の内容>

 今回、Wi−SUN FANに対応した基礎無線機(写真1)を開発し、同無線機を複数台用いて、マルチホップを利用したIP通信を行う基礎実験に成功した(写真2)。  本無線機は、IEEE802.15.4/4g/4e技術を核に、WiFi™システムで導入実績のあるインターネット接続用国際規格、およびIPをベースに無線機間のマルチホップを実現する国際規格を統合した機能を搭載している。そのため、WiFi™システムと同様にアプリケーション開発が簡単にでき、スマートシティ、スマートメータリングを構成する各種センサー、メーター、モニターを手軽にインターネットに接続できる。  本成果は、IEEE802.15.4/4g/4eの標準化・開発実績のある京都大学の原田研究室が本仕様に対する無線機の基本設計を行い、ロームが本仕様に対応した通信モジュールの開発および無線伝送部の基礎ソフトウエアを開発し、日新システムズが基本設計にもとづき本仕様に対応した通信ミドルウェアの開発を行った。

<今後の展開>

 今後、3者はWi−SUNアライアンスが主催するWi−SUN FAN相互接続性仕様検証イベントに参加し、Wi−SUN FAN規格の技術適合性・相互接続性認証仕様作成に貢献するとともに、本無線機を仕様に完全準拠するための開発を京都における産学連携コンソーシアム「次世代Wi−SUN共同研究コンソーシアム・京都」を基盤として推進する。また、工場の制御機器、医療機器にも接続して、超ビッグデータの創出実験を行う予定。

【用語解説】

 注1) Wi−SUN FAN(Field Area Network):Wi−SUNアライアンスが制定するスマートメータリング、配電自動化を実現するスマートグリッドおよび、インフラ管理、高度道路交通システム、スマート照明に代表されるスマートシティを無線で実現するためのセンサー、メーターに搭載するIPv6でマルチホップ可能な通信仕様。2016年5月16日にバージョン1が制定。Wi−SUN FANワーキンググループで制定。物理層部にIEEE802.15.4g、データリンク層にIEEE802.15.4/4 e、アダプテーション層にIETF 6LowPANそしてネットワーク層部にIPv6、ICMPv6、トランスポート層にUDP、そして認証方式としてIEEE 802.1xを採用している。また製造ベンダー間の相互接続性を担保するための試験仕様等も提供されている。

 注2)IEEE802.15.4g:屋外で利用可能なセンサー、メーター等に搭載し、エネルギーマネジメント等を行うために必要となる無線通信伝送部(物理層)の国際標準規格。1ホップ最大1km程度のマルチホップが都市部でも実現でき、低消費電力にIPv6等の情報を伝送できる特徴を有する。米国IEEE802.15委員会で制定。京都大学の原田博司氏は、この標準化委員会の副議長であり、フレーム同期部コードが強制規格に採用される等技術的なメジャーコントリビュータである。

 注3)Wi−SUNアライアンス:IEEE802.15.4g規格をベースにエネルギーマネジメント、防災、工場等の各種アプリケーションを実現するために他のオープンな国際標準規格と融合させ、製造ベンダー間で相互接続可能な国際無線通信規格「Wi−SUN Profile」を制定する任意団体。現在会員企業は全世界に100社以上。スマートメーターと宅内エネルギー管理システム(HEMS)との間の通信規格「Wi−SUN ECHONET」は全国の電力会社に採用。現在既に当該仕様が搭載されているスマートメーターは700万台以上出荷。今後は東京電力管内で2000万台以上出荷される予定。

 注4)IETF 6LoWPAN:IEEE802.15.4で標準化された物理層、MAC層方式で効率的にIPv6のパケットを伝送するためのインターフェイスをするための仕様。IETFで規格化されている。IPv6はアドレス等を記載するヘッダ部分の情報が大きく、センサー系の無線システムで伝送するために負荷がかかる。そのために、ヘッダ部分を圧縮することを行う。また、IPv6のデータ部分の情報部分が大きくなった場合は、分割して伝送することを行う。

 注5)IETF RPL(IPv6 Routing protocol for Low power and Lossy network):ネットワーク層でIPをベースに機器間をマルチホップでデータ伝送する仕様。米国IETFで規格化されている。

<資料提供:科学技術振興機構>