車載用半導体デバイス

 車載用半導体デバイスの進化が加速している。従来、車載用半導体は、信頼性を確保するため、産業機器や民生機器で実績ある成熟技術が使用される傾向が強かった。しかし、ハイブリッド車(HEV)や電気自動車(EV)などに代表されるように車の電子化が急速に進展。半導体メーカーは、需要拡大、技術革新が続く自動車分野に対し、信頼性を確保しながら最先端技術を導入した製品を開発投入している。

【マイコン】
自動車1台あたりに50―100個搭載されるマイコン。様々なECU(電子制御ユニット)の頭脳としての役割を果たす。車載マイコンに要求されるニーズは「高い処理性能」「より多くの機能集積化」、そして「高い安全性」だ。

例えば、モーター制御用マイコンでは、高速処理を実現することで、より細かに効率的なモーター回転制御が実施でき、車の燃費やEVの走行距離の改善に直結する。また従来、2―3つのデバイスで実現した機能を1デバイスに集約することで基板サイズ、基板重量を軽減し、燃費・コスト面で貢献できる。

半導体デバイスの高速化、高集積化を実現する最も有効な技術は、製造プロセスの微細化であり、昨今、車載マイコンの微細プロセス化の進展が目覚ましい。最近では、55ナノや40ナノプロセスを採用した車載マイコンの製造が開始された。産業用や家電用の最新マイコンの製造プロセスルールは90ナノクラスであり、最先端の技術が車載分野に投入されている。

機能集積では、微細化技術を生かした多機能化とともに、アナログ回路を処理用のロジック回路と一体化させる技術も進んでいる。安全性の確保では、同一処理を2つのプロセッサーで行い、結果を照合し誤動作を防ぐといった仕組みを導入。マイコンとして機能安全規格対応をうたう製品も登場している。

【EV/HEV向け半導体】
HEV/EVでは、エンジンに代わる動力となるモーターと、電気エネルギーを蓄えるバッテリが大きなキーパーツとなり、モーター、バッテリを制御駆動する半導体デバイスも新たに必要となっている。
モーターはミラーやワイパーなどを駆動させるデバイスとしてこれまでも多く自動車に搭載されたが、EV/HEVの動力モーターでは、より大きな電力、高速な回転、絶対的な安全性が要求される。モーターの制御を行うマイコンでは、大型モーターの回転を監視するレゾルバセンサー(角度センサー)からの信号を直接処理可能な製品の開発が相次ぐ。

モーターの駆動を担うパワーデバイスも、より大きなモーターを駆動させるための大容量化や、走行距離の延長につながる高効率化に向けた進化を続ける。特に従来のシリコンに比べ、電力損失を10分の1以下に低減できる炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)による新パワーデバイスは、EV/HEVを大きく進化させる可能性を秘め、実用化開発に大きな期待が集まっている。

バッテリでも、半導体が重要な役割を担う。EVは、民生機器では1―3セルのバッテリが搭載されるなか、100セル程度の大型品を搭載する。リチウムイオン電池は、各セルの状態を精密に計測し、均等に充電することが長寿命化に直結するため、電池セルを監視するモニターICが重要なデバイスになっている。1つのICでより多くのセルを監視するため、高耐圧プロセス技術を適用し、1ICで12セルの電圧を1%以下の高い精度で計測できる製品などが開発されている。

【運転支援システム向け半導体】
自動車の走行制御系統がエレクトロニクス化されることで、車載情報系統との連携も図りやすくなるため、車載情報系統でも新たな変化が始まっている。

現在、車載情報機器は「走行支援機能」の搭載が活発になっている。なかでも、車載カメラの画像を車載情報端末で認識、解析し運転支援に役立てる「画像認識技術による走行支援機能」の実現されつつある。画像認識システムは、1秒間に10枚上の画像をリアルタイムで処理する必要があり、従来にない高度な並列処理技術が必要となっている。

既に100個を超えるプロセッサを搭載した画像処理LSIや、ナビゲーション用LSIに画像認識回路を搭載した製品が登場。白線検知などの運転支援機能が実用化され、今後は、昼間の歩行者認識などより本格的な運転支援システムが登場する見込みとなっている。

さらに走行支援機能を補完、強化する目的や自動車の利便性を高めるため、車外の車や路面などのインフラ、インターネット網と接続する通信技術の開発も進む。欧州では、GSMなど携帯電話通信網を活用したテレマティックスシステムによる緊急通報システムの搭載を義務化する動きを受け、関連半導体製品にも注目が集まっている。