MEMS(Micro Electro Mechanical System、微小電子機械システム)を用いたデバイスの需要が拡大している。特に高機能なスマートフォンの普及、自動車の電子化に支えられ、近年、その需要は急速に拡大している。MEMS技術も、より小さなサイズで、多くの機能、新たな機能を実現するため、急速な進化を遂げ、MEMSの応用領域はさらに拡大し、今後も需要はハイペースで拡大していくと見られている。
MEMSは、半導体微細加工技術を用いて作製するセンサーやアクチュエータなどの微小な機械要素を持つデバイス。さまざまな機械構造を、ナノレベルの加工が行える半導体製造技術で作ることにより、機械を大きく小型化できるほか、新しい機能を持ったデバイスを実現できる。また量産性を重視する半導体の製造技術の応用により、大量生産、低コスト生産が行えるといった利点もある。
MEMSは、1980年代から応用が始まるなど長い歴史を持ち、その応用範囲は広がり続けている。現在、最も応用が進んでいるのが「センサーデバイス」分野だ。圧力を加えると電気抵抗が変化するシリコンの性質を用いた「圧力センサー」をはじめ、重力や振動などの力で可動し可動に応じて変化する電気信号から検知する「加速度センサー」「ジャイロ(角速度)センサー」など多数のMEMSセンサーが実用化され、さまざまな機器に搭載されている。
自動車向けやスマホ向けがけん引
特に、これまでMEMSの応用をけん引してきたのが。自動車だ。80年代にはエアバッグシステムでMEMS加速度センサーの搭載が始まり、その後、油圧や空気圧などの検知用、タイヤやステアリングの角度検知用などで多くのMEMSセンサーが用いられ、昨今では自動車1台に100個程度のセンサーが搭載されているという。
また近年、大きくMEMSデバイスの需要をけん引しているのが、スマートフォンだ。MEMSによる加速度・ジャイロセンサー、磁気センサー、気圧センサーといった複数のセンサーが搭載され、スマートフォンの急速な拡大に合わせて、MEMS市場も拡大を続けている。
マイクロマシンセンターの調べによると、現在のMEMS国内市場規模は、10年度実績で7227億円。その応用分野は自動車と、携帯電話などを含む情報通信機器分野とされる。そして、2015年には市場規模は1兆5500億円超と5年で倍増する見込み。さらに2020年には、3兆円を上回る見込みで需要の急拡大は長く続く見通しとなっている。
今後の需要拡大も、自動車、情報通信関連機器が中心を担う。自動車では、電気自動車など電子化の動きが加速し、より多彩な安全・安心に向けた機能搭載が進み、1台あたりのセンサー搭載数の増加が予想される。情報通信機器では、機器の普及台数の増加とともに、センサー以外のMEMSデバイスの採用拡大も進む。
例えば、マイクや高周波フィルター、スイッチといった従来デバイス分野へのMEMS技術応用があり、次第にMEMS技術への移行が進んでいる。また微細な鏡を構成するMEMSミラーを応用した超小型プロジェクタ機能がモバイル機器に搭載されるなど、新機能実現のキーデバイスとしても需要が増える見込みだ。
自動車、モバイル機器以外への応用も拡大する。その1つが医療・ヘルスケア分野。圧力センサーなどが、世界的な需要拡大が見込まれるヘルスケア機器の普及とともに需要増となるほか、MEMSを用いたDNAや血液などの分析チップなどの実用化も期待されている。
需要拡大、用途拡大が見込まれる中、MEMS技術は、さらに加工精度を高めるための技術進化や、さまざまな素材を加工するための製造技術開発が活発に行われている。
特に、MEMS特有の加工技術である深い溝を構築するディープエッチング技術やデバイス同士を貼り合わせる工程に向けた技術開発に力が注がれている。またMEMSデバイスの利便性を高めるため、MEMSと半導体集積回路の集積化技術も注目される。センサー部と信号処理回路部を1つのデバイスで実現することで、システムの小型化やセンサーの高性能化につながる技術であり、MEMS分野と半導体分野が連携した開発が進められている。