電源用半導体・パワーデバイスは、節電・省エネ化に向けて様々な技術進化を遂げている。スマートフォン、携帯電話などモバイル機器の利便性を高める面でも電源用半導体の役割は大きく、先端技術を用いたデバイスに注目が集まっている。
[パワートランジスタ]
MOSFET(金属酸化膜半導体・電界効果型トランジスタ)は、スイッチの機能を実現し、ゲートに印加する電圧により、「ON」「OFF」動作を行う。従来のバイポーラトランジスタに比べ、オン抵抗が大きいという課題がある。このためプロセスの微細化、最適化などによりオン抵抗低減の技術開発が進む。耐圧を犠牲にすることなくオン抵抗を抑えるトランジスタ構造として「スーパージャンクション構造」が実用化され、パワーMOSFETに大きな進化をもたらしている。IGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)でも、これまでのプレーナ型から、よりオン抵抗の低いトレンチ型が主流となってきた。
構造の見直しによる、高耐圧、低オン抵抗化進んできたパワートランジスタだが、物理的な性能限界が近づき、革新的な進化を遂げるため、材料レベルからの見直しが進められ、これまでの「シリコン(Si)」とは異なる、新たな半導体材料の適用に向けた開発が活発化している。
その中で注目を集めるのが、SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)の化合物半導体だ。いずれも、従来のシリコン材料に比べ、高速スイッチング性能や高耐圧といった特徴があり、パワーデバイス用途に向く。各社は、SiCやGaNを用いたダイオード、MOSFET開発を実施。ダイオードについては、10マイナス12年に製品化、量産化が相次ぎ、実用段階に入った。新材料を用いたトランジスタについても、本格的な製品化時期を迎えつつある段階。世界で初めて1ミリΩ・平方センチメートル以下のオン抵抗を実現したSiCを用いたトランジスタなども開発されている。
製品化段階に入ったSiCや、GaNを使った次世代パワーデバイスの次の課題は「普及」だ。現在のところ、SiC/GaNは、純度が高く、欠陥の少ないウエハーを生成することが極めて難しく、ウエハー価格が高い。さらに、ウエハーの加工も、シリコンではなかった高温処理工程が必要になるため、製造コストも割高となり、デバイス価格はシリコンの数倍から数十倍となっている。
エレクトロニクス業界の多くで、激しい価格競争が繰り広げられる中で、コストダウンに向けた技術開発が必須となっている。また価格差を上回る次世代パワー半導体の長所、利点を打ち出すことが、パワーデバイスメーカーの課題となっており、デバイス開発だけでなく、モジュール/システムレベルでのソリューション構築も活発化してきている。
[DC―DCコンバータIC/レギュレータIC]
電子機器の電源システムの主流は、従来の電源トランスによる昇降圧方式から、スイッチング電源やDC―DCコンバータへと変わっている。特にバッテリを電源とするモバイル機器ではDC―DCコンバータ/レギュレータが多用されている。DC―DCコンバータICは直流を昇降圧するものであり、基板上で電圧を変更する場合に使用される。低電圧/大電流化への対応や、小型化につながるスイッチング周波数の高速化とともに、実装面積の省スペース化を実現するため外付け部品点数を抑えた製品などが活発に開発されている。
特に、プロセッサやFPGAなどナノメートル級の微細プロセスを採用したデバイスは、1V程度の低電圧動作となり、電源ICにはより安定した電源の供給が求められる。最新のレギュレータ製品では、0.7Vの電源を誤差±1.0%以下の範囲で安定供給できる製品が投入されている。
最新のプロセッサや各種システムオンチップ(SoC)といったデバイスは、消費電力を最大限に抑えるため、処理量に応じて負荷電流を急速に増減させる。そのため、DCマイナスDCコンバータは負荷電流の変化に高速に対応し、安定した電圧を供給する「高速応答性」も不可欠となっている。
DC―DCコンバータ/レギュレータでは、多チャンネル化やモジュール化の流れも強まっている。部品実装スペースが厳しく制限されるモバイル機器を中心に、部品搭載点数の削減ニーズは強く、1つのICパッケージで、複数の電圧の電源を供給できるマルチチャンネル電源ICでの利用が拡大している。昨今では、電源系以外の信号系アナログ機能も集積したデバイスなども登場している。機能複合化の延長として、電源IC周辺に必要なインダクタなどの電子部品をパッケージ内に格納したモジュール型デバイスも多く登場してきている。モジュール型製品は、省スペースかつ、軽い設計負担で高効率電源を設計できるとあり、産業機器や通信機器を中心に利用が増えつつある。