様々な機器のデジタル化が進展するなかで、アナログマイナスデジタルコンバータ(ADC)、デジタルマイナスアナログコンバータ(DAC)といったデータコンバージョン(データ変換)デバイスの役割が大きくなっている。スマートフォンや自動車などに象徴されるように、機器へのセンサー搭載数の増加や、無線通信対応が、データコンバージョンの重要性をより高めている。
デジタル機器はデジタル信号を演算、処理する。だが、機器に入力・出力される信号の多くは、連続した信号であるアナログ信号であり、アナログ信号を「0・1」のデジタル信号に変換する「データコンバージョン」が必要となる。その変換には、変換前と変換後が確かかどうかという「忠実性」、変換に遅延のない「リアルタイム性」が要求される。この忠実性、リアルタイム性は、機器全体の性能を大きく左右する要素となる。
例えば、テスターや計測器、医療器など測定が主機能である用途では、ADC/DACの精度、性能が機器性能に直結する。民生機器の分野でも多機能化など進化に従い、ADC/DAC搭載数は増加し続けている。スマートフォンや携帯電話では、無線通信部に加え、タッチパネルセンサーをはじめ、液晶画面制御用の照度センサーや加速度センサー、地磁気センサー、セキュリティ用の指紋認証センサー、GPS、TV受信用のアンテナなど、アナログ信号をデジタル化する必要性が増している。
精度と性能に加えマルチチャンネル対応なども
データコンバージョンICに求められるニーズの1つが、変換速度、変換精度といった基本的な特性、性能を高めることがある。またそれと並行して、消費電力の低減や、1つのICでより多くの信号を変換できるマルチチャンネル対応への要求も用途を問わず高まっている。
データコンバージョンICメーカー各社はこれら多様なニーズに応えるべく、主に4つあるADCの基本的なアーキテクチャを使い分けたり、性能・特性を大きく左右する製造プロセス分野で独自技術を開発したりしている。
ADCには、一般に次のようなアーキテクチャが採用されている。
(1)パイプライン方式 (2)デルタ・シグマ(ΔΣ)方式 (3)逐次比較型(SAR)方式 (4)フラッシュ方式
これら4つのアーキテクチャは、それぞれ長所と短所があり、用途やニーズに応じて使い分けられる。主にフラッシュ方式を除く3方式で、新製品開発が盛んに行われている。
(1)パイプライン方式:もっとも広帯域をカバーし、高速な変換レートを実現する方式。ただし、分解能は14〜16ビット程度までに限られる。主なアプリケーションとしては、無線通信基地局や超音波、ビデオ処理、試験/検査装置などとなっている。
(2)デルタ・シグマ方式:24ビット程度までの高分解能が特徴で、帯域も広い。また出力のデータ・レートを上回る速度でサンプリングする「オーバーサンプリング」を行う。そのほか、折り返し雑音を遮断する技術「アンチ・エイリアス」でも優位性がある。用途は、ベースバンドのデータ交換や通信機器、化学分析機器、試験・検査装置など。
(3)逐次比較方式:優れた直線性を持ち、遅延時間なしでマルチプレクサ(=2つ以上の複数信号を1つの信号として出力する機構)との組み合わせが容易。デルタ・シグマ方式の分解能や、パイプライン方式のサンプリングレートには匹敵しないが、精度とスピードをバランスよく組み合わせできる。工業用プロセス制御、解析用計装機器など主として産業機器で使用される。
ロジックデバイスへの内蔵も増える
データコンバージョン機能は、マイコンなどロジックデバイスに内蔵されるケースが増える。16ビットの高い分解能を持つADC内蔵マイコンなども登場している。また、ADCやDACに、オペアンプやフィルターといった周辺アナログ回路を集積した多機能デバイスも増えている。特定のセンサー後段のアナログ処理、データコンバージョンを1チップ化したアナログフロントエンド(AFE)デバイスなどが発売されている。これらのAFEデバイスなどの一部には、簡易的なプロセッサを搭載し特性を動的に変更できるなど新たな機能も搭載されている。
ただ、高集積化とともに、高精度、高速を要求される分野では依然として、精度、性能を追求した単体のデータコンバージョンICへの需要は根強く増加している。各メーカーでは、先端製品の開発、機能複合化データコンバージョンIC開発とともに、機器の設計時間を短縮し、開発コストを削減する評価ボードの提供やシミュレーション環境などの提供にも積極的に取り組んでいる。