新技術 

「光変換効率15%のフレキシブルCIGS太陽電池サブモジュール」
産総研が富士フイルムと共同で開発

 産業技術総合研究所(産総研)太陽光発電工学研究センター先端産業プロセス・高効率化チームの石塚尚吾主任研究員らは、富士フイルムと共同で、ステンレス箔を基板とした高効率な集積型構造のフレキシブルCIGS太陽電池サブモジュール(写真)を開発した。

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 産総研では、各種太陽電池の高性能化・高機能化技術や評価技術の開発に取り組んでいるが、その一環として、CIGS太陽電池の研究開発を進めている。CIGSは銅(Cu)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、セレン(Se)からなる多元系化合物半導体Cu(In、Ga)Se2を意味する。太陽電池はCIGSを光吸収層に使う。InやGaなどの構成元素の比率や硫黄などの混合によってバンドギャップなどの物性を制御できるのが特徴。CIGS太陽電池は薄膜系太陽電池の中で最も高い光電変換効率が得られ、以前から次世代型の太陽電池として注目されていた。

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 現在市販されているパネル型CIGS太陽電池モジュールは、1枚のガラス基板上に複数の太陽電池が直列に接続された集積型構造になっている(図1)。1枚の基板上に裏面電極層やCIGS光吸収層、表面透明電極層のパターンを作りこむことによって個々の太陽電池間の接続を行う。そのため太陽電池表面のグリッド電極や導線が不要となる。また、1枚の基板で高い電圧が実現できる。産総研ではこれまでに、フレキシブル型のCIGS太陽電池モジュールでは難しかった集積型構造の形成技術や、極薄ケイ酸塩ガラス層を基板表面に形成することでアルカリ効果による性能向上を実現するなどの技術を駆使して、高性能なフレキシブルCIGS太陽電池を開発してきた。

 また、基板材料として、チタン箔やモリブデン箔、セラミックスシートを適用した研究を行ってきた。しかし、実用化には大面積材料の供給やコストに問題があった。

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研究開発の内容
 今回、富士フイルムとの共同研究により、これまでに培った技術をさらに発展させて、大面積材料が安価に得られるステンレス箔を基板に用いた高性能な集積型フレキシブルCIGS太陽電池モジュールの実現に挑んだ。

 金属基板の場合は、その成分が太陽電池の高温成膜時にCIGS層に拡散する問題がある。さらに集積型にするためには電気的な絶縁層を形成する必要がある。今回は、ステンレス箔の上にまずアルミニウム層を形成し、表面を陽極酸化法によって酸化アルミニウムへと変化させた。この酸化アルミニウムの層は、電気的な絶縁層であるとともに、金属基板成分のCIGS層への拡散を妨げる障壁層としても働く。図2に、今回のCIGS太陽電池で利用したフレキシブル基板断面の模式図を示す。このフレキシブル基板は、富士フイルムによって試作された。CIGS太陽電池では、ナトリウム(Na)などのアルカリ金属を添加することで高い光電変換効率が得られるアルカリ効果と呼ばれる性能向上効果が知られている。

 アルカリ効果はソーダ石灰ガラスを基板に用いる場合は自然に実現するが、フレキシブル基板などの場合にはアルカリ効果を得るために高精度なアルカリ制御技術が必要となる。これまでの技術を応用し、酸化アルミニウム層の上に、厚さを制御した極薄のケイ酸塩ガラス層を形成することで、高精度に制御されたアルカリ添加を行いアルカリ効果による高性能化を実現した。

 1枚の基板上に16個の細長い短冊状の太陽電池を直列接続した今回作製のCIGS太陽電池サブモジュールの外観を写真に、また特性の測定結果を図3に示す。開放電圧(Voc)10.54V、短絡電流密度(Jsc)33.39mA/cm2、曲線因子(FF)0.683、光電変換効率(η)15.0%という結果を得た。この性能は、従来のフレキシブルではないCIGS太陽電池と比較しても大きな遜色がなくフレキシブル太陽電池サブモジュールとして極めて高性能である。これにより高性能と軽くて曲げられるという機能性を併せもった低コスト太陽電池が実現し、新しい用途の開拓が期待される。

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 さらなる大面積基板への応用や、より低コストで高性能な集積型フレキシブルCIGS太陽電池モジュールの実現とその生産技術の開発など事業化に向けた研究開発の推進を計画している。

<資料提供:産総研>