マグネット(永久磁石)は、電子機器などの小型・軽量化や高性能化のカギを握る重要な素材。多くがモーターやアクチュエータの部品として使用され、強力な磁石の開発が電子機器の小型・薄型・高性能化を促進している。
マグネットの種類には、フェライト系、希土類系、アルニコ系などがある。機器の高性能化を支える高性能磁石として特に需要が拡大しているのが、Nd―Fe―B(ネオジム―鉄―ボロン)やSm―Co(サマリウム―コバルト)などの希土類焼結磁石。フェライト磁石も市場要求に合わせた特性改善が進められている。同時に、希少金属(レアメタル)の使用量低減に向け、省希土類技術やリサイクル技術の開発にも力が注がれている。
「希土類磁石」
希土類磁石は、サマリウムコバルト磁石とネオジム磁石とに分かれる。サマリウムコバルト磁石は、強力な磁力に加え、錆びにくい、高温に強く減磁しにくい、という特徴を持つ。キュリー点はネオジ磁石の320度Cに対し、サマリウムコバルト磁石は750度C。ネオジ磁石は一般には150度C程度までの耐熱性能といわれるが、サマリウムコバルト磁石は300マイナス350度Cまでの高温環境に対応可能。磁力の面ではネオジム磁石に次ぐ強力な性能を持つ。保持力が大きく、小型化が可能。
サマリウムコバルト磁石は、これらの特性により、各種センサーをはじめ、スピーカ、モーター、光アイソレータなどのアプリケーションで採用され、耐腐食性により医療機器などでも使用される。
ネオジム磁石は、現行マーケットにでている中では世界最強といわれる強力磁石で、強力な磁場を作り出す。
ネオジムマイナス鉄マイナスボロン焼結磁石は、ハイブリッド車(HV)駆動モーターやEPS(電動パワーステアリング)、HDD用ボイスコイルモーター(BCM)、FA用モーター、エアコンコンプレッサモーター、さらに、DVDレコーダなどのデジタル家電向けに需要が増加しており、今後も、自動車のEV化の進展や家電の省エネ技術の行動化などに伴い、長期的な需要増が見込まれる。同磁石には、高温環境下での磁力低下を防止するために希少元素のジスプロシウム(Dy)が添加されるが、高価なジスプロシウムの使用量を低減するための技術開発に力が注がれている。
希土類磁石の次世代ニーズに対応するため、一層の残留磁束密度向上を追求した研究開発も進んでいる。
「フェライト磁石」
フェライト磁石は、保磁力が高いため減磁がない。焼結磁石(セラミック・マグネット)なので耐蝕性に優れ、平面的な型状に適しているが、半面、割れやすい欠点がある。用途はオーディオ用スピーカやヘッドホンのほか、技術革新による軽量化(従来の2分の1から3分の1)により、自動車用のモーター用・発電機用としての需要が伸びている。原料の酸化第二鉄が豊富に存在するため、現在の磁石では一番安価での提供が可能である。
「ボンド磁石」
ボンド磁石は、磁性粉にプラスチックやゴムなどの結合材(バインダ)を少量混ぜ合わせ、射出成型や圧縮成型などで成型したもの。複雑な形状のものも製造ができ、使いやすくコスト的にも有利なため、OA機器向けのリジッドボンド磁石や小型モーター、自動車向けの希土類ボンド磁石などの需要が増えている。
ボンド磁石用の磁性粉は、フェライトやサマリウム・コバルトボンド磁石では焼結磁石を粉末にしたものを使用するが、ネオジム磁石は液冷空冷法による非晶質(アモルファス)リボンから熱処理によって得られる等方性磁性粉が主に使われている。
また、異方性ネオジムボンド磁石を作る方法としてHDDR処理法が開発されている。このHDDR法は、ネオジウム・鉄・ボロン合金を水素ガスと反応させて磁気特性の再現と異方性化を同時に行う。
世界のマグネット市場では、中国をはじめとするアジア系材料メーカーなどの参入も目立っている。日系メーカーとしては、次世代ニーズを見据えながら、最先端技術や品質面での差別化を促進し、事業の付加価値向上を図っていくことが求められている。
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マグネットの主要用途である小型モーター需要は、グローバルで年々増加が続いている。日本国内の小型モーター生産量はピーク時と比較して大幅に減少しているが、日系小型モーターメーカーの海外生産を含めたグローバル生産は好調に拡大している。