新エネルギー・産業技術総合開発機構、名古屋工業大学

レアアース使用量を半減する高出力密度モーター

図1

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と名古屋工業大学(名工大)はNEDOの次世代自動車向け蓄電池開発プロジェクトの一環として、名工大・小坂卓准教授のグループがレアアース半減を可能にするモーターを試作し、試運転に成功したと発表した。

  従来のハイブリッド自動車に搭載されているモーターには、レアアースを用いたローターの内部に永久磁石を埋め込んだ構造を持つ回転界磁形式の同期モーター(IPMSM:Interior Permanent Magnet Synchronous Motor)が使われている。しかし、レアアースは中国からの輸出が9割を占めるなど資源が偏在している。

  また、需要の増大により価格が高騰してきている。NEDOではレアアース使用量低減のため、「新方式モーターの開発」と希少金属代替材料開発プロジェクトによる「永久磁石材料開発」の2つのアプローチを推進している。

  新方式モーターとして期待されるハイブリッド界磁モーター(永久磁石と電磁石を協調作用させることで磁力を制御するモーター)は、従来のモーターに比べレアアースを半減できる可能性があり、IPMSMに代わるモーター候補として世界的に研究されている。しかし、坂道発進などの低速大トルク時の性能は得られるものの、高速巡航時などの高速低トルク時の効率に課題があった。

  名工大の小坂卓准教授のグループは、現行市販のハイブリッド自動車に搭載されたモーターと比較して、レアアースを用いた永久磁石の使用量を50%に抑えたモーターとしては、同一体格で同一出力密度(最大出力123kW、出力密度3.4kW/kg)という世界最高水準の高出力密度を有するハイブリッド界磁モーターの開発に成功した。

  ハイブリッド界磁モーターにおける永久磁石と、電磁石を効果的に協調作用させるために、SMC(Soft Magnetic Composites軟磁性複合粉材:鉄粉など磁性を有する粒子の表面を絶縁被覆処理したもの)コアと呼ばれる鉄粉圧縮成形および熱処理製造した磁心を使用することにより、従来のモーターには無い新たな3次元磁気回路モーター構造(図)を提案し、3DマイナスFEM(3次元有限要素磁場解析)を用いたCADと試作機=写真=により確認した。

  最適化した3次元磁気回路モーター構造により、レアアースを用いた永久磁石の減量に伴う磁力の減量を電磁石による磁力で補うことで坂道発進などの低速大トルク性能を実現した。また、モーターの高速回転時に生ずる鉄損を低減するために磁石の磁束を微量な電磁石の電流の向きを制御することで打ち消して、高速巡航時のような高速軽負荷時の高効率化も合わせて実現した。

  3次元磁気回路の最適設計は、SMCコアを使用することによって実現した。SMCはこれまでモーターのコア部材にはほとんど使用されていなかったが、粉末を成形することから加工成形性に優れ、複雑な形状でも成形が可能であり、従来の積層鉄心では不可能な3次元的な磁気回路が容易に製造可能となった。

図2

<資料提供:新エネルギー・産業技術総合開発機構、名古屋工業大学>