NEDO特別寄稿(第13回)

「出口を見据えた材料研究開発」

 本号から数回にわたり、独立行政法人 新エネルギー・産業技術開発機構(NEDO) ナノテクノロジー・材料技術開発部の研究内容を紹介します。  原則毎月1回、第4週の発行紙に掲載いたします。

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はじめに

 地球温暖化をはじめとするエネルギー・環境問題は、今や世界的に取り組むべき課題となっている。また、今日の厳しい経済情勢の中、日本として産業競争力の強化は必要不可欠となっている。新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下NEDO)は日本最大規模の研究開発マネジメント機関として、産学官の総力を結集し、高度なマネジメントを用いてこれらの課題解決に取り組んでいる。

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【NEDOナノテクノロジー・材料技術開発部の取り組み】
 我が国の材料・素材関連企業の競争力は貿易特化指数(注)で比較すると1990年代から一貫して約0.3を維持し、主要先進国中でも競争力があると言える(OECDデータから分析)。また日本の材料分野の特許・論文のシェアは大きく「科学技術・研究開発の国際比較(科学技術振興機構調査)」における研究者意識でも、日本の材料科学技術力は依然として強い分野との分析がある。他方、諸外国を見ると、米国ではナノテクノロジー研究開発法、欧州ではフレームワークプログラムなどで、今後もナノテク研究を強力に推進する方向であり、アジア諸国、特に中国や韓国では、汎用品分野をはじめとして高付加価値素材分野まで急速にキャッチアップしているのが現状である。

  NEDOナノテクノロジー・材料技術開発部(以下、NEDOナノ材料部)では、ナノテク・材料分野のさらなる国際競争力強化を目指して、企業が行うにはリスクの高い研究開発領域について積極的にプロジェクトを企画・立案している。その研究開発事業は、大きく分けて国が研究開発テーマを定めて実施する『ナショナルプロジェクト』と研究開発テーマを広く一般から募集するテーマ公募型事業である『ナノテク・先端部材実用化研究開発(ナノテクチャレンジ)』の2つからなる。以下ではそれぞれのスキームと特色について説明する。

(注)貿易特化指数:(輸出額マイナス輸入額)÷(輸出額プラス輸入額)
  輸出と輸入が同額ならば0、すべて輸出で輸入がなければ1となる。


【ナノテク材料分野 ナショナルプロジェクトが貢献する3つの分野】
 ナショナルプロジェクトとは、民間のみでは取り組むことが困難な実用化までに中長期の期間を要し、リスクが高く、かつ波及効果の大きい研究開発テーマに関して、産学官が連携し課題解決を図る研究開発事業の総称である。プロジェクト立案当初に基本計画を定め、概ね5年程度の計画で当該産業を支援するものである。

  現在、NEDOナノ材料部では戦略重点分野として3つの分野を設定し、ナショナルプロジェクトを推進している(図1)。

  戦略重点分野の1つ目は、エネルギー・資源・環境分野である。「2020年までに温室効果ガスを25%削減し、2050年までには世界の温室効果ガスを半減させる」という日本の目標を達成するにあたり、産業構造全体に大きな変革をもたらし得るナノテク・材料分野が果たす役割は非常に大きい。また希少金属はエレクトロニクス部品や化学分野の触媒として多くの場面で使われ、ハイテク産業のビタミンとして欠かすことが出来ない材料であるが、埋蔵量が極端に少なく、産出地域も偏在しているものが多い。希少金属の資源供給リスクへの国家的対策の一環として、リスクの高い鉱種について使用量低減技術や代替材料の開発を行っている。このような社会的要請にナノテク・材料分野への期待は高く、NEDOナノ材料部では産学官連携によるナショナルプロジェクトにより、これらの課題解決に取り組んでいる。

  2つ目は情報関連産業分野である。我が国における情報家電産業では、川上マイナス川中の電子材料・部品については日本企業の世界シェアが高く、非常に競争力が高いと言われている。


【ナノテク材料分野 ナショナルプロジェクトが貢献する3つの分野】
 ナショナルプロジェクトとは、民間のみでは取り組むことが困難な実用化までに中長期の期間を要し、リスクが高く、かつ波及効果の大きい研究開発テーマに関して、産学官が連携し課題解決を図る研究開発事業の総称である。プロジェクト立案当初に基本計画を定め、概ね5年程度の計画で当該産業を支援するものである。

  現在、NEDOナノ材料部では戦略重点分野として3つの分野を設定し、ナショナルプロジェクトを推進している(図1)。

  戦略重点分野の1つ目は、エネルギー・資源・環境分野である。「2020年までに温室効果ガスを25%削減し、2050年までには世界の温室効果ガスを半減させる」という日本の目標を達成するにあたり、産業構造全体に大きな変革をもたらし得るナノテク・材料分野が果たす役割は非常に大きい。また希少金属はエレクトロニクス部品や化学分野の触媒として多くの場面で使われ、ハイテク産業のビタミンとして欠かすことが出来ない材料であるが、埋蔵量が極端に少なく、産出地域も偏在しているものが多い。希少金属の資源供給リスクへの国家的対策の一環として、リスクの高い鉱種について使用量低減技術や代替材料の開発を行っている。このような社会的要請にナノテク・材料分野への期待は高く、NEDOナノ材料部では産学官連携によるナショナルプロジェクトにより、これらの課題解決に取り組んでいる。

  2つ目は情報関連産業分野である。我が国における情報家電産業では、川上マイナス川中の電子材料・部品については日本企業の世界シェアが高く、非常に競争力が高いと言われている。

 また、将来的なユビキタス社会や高度情報化社会の実現に向けて、材料・部材の分野は大きな貢献が期待されている。
  このような社会情勢の下、NEDOナノ材料部ではディスプレイ、光学部材、ストレージ、半導体基板材などの分野におけるキーデバイスをNEDOの他の関連部署と連携や技術戦略マップなどを活用しながら効果的に支援している。図2はその一例であるが、平成18年から推進している『超フレキシブルディスプレイ部材技術開発』プロジェクトで作られたフレキシブルディスプレイ部材である。この部材の生産方式であるロール to ロール方式とは、薄い機能材料を積層し連続的に生産していく製造法であり、フレキシブル化以外にも低コスト化、製造工程の大幅な省エネが期待できる。

  この製造法を確立するため、次世代モバイル用表示材料技術研究組合(TRADIM)において、材料メーカー・部材メーカー・パネルメーカーがノウハウを共有する形で研究開発が進められている。図3に超フレキシブルディスプレイ部材の応用分野を示す。


 
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 3つめは高付加価値材料・部材分野である。
 この分野の基盤技術開発を国が支援することは、材料産業のみならず、幅広い分野における産業競争力強化への貢献につながると期待されている。例えば、平成18年度から平成22年度までの計画で実施している『先端機能発現型新構造繊維部材基盤技術開発プロジェクト』では、世界で初めてナノファイバーの大量生産方式を確立し、注目を集めている。ナノファイバー化技術は、従来、爆発などの危険性から大量生産が避けられてきたが、東京工業大学の谷岡教授らのアイデアを元に電界紡糸技術等の共通基盤技術をナショナルプロジェクトとして支援することで、太さが数十〜数百nmの極細繊維(ナノファイバー)の連続生産技術を確立した。ナノファイバーは、従来の繊維にない抗菌性や高い電気伝導性など優れた特性を有し、また、空気抵抗が極めて小さくなること等の新しい現象が徐々に明らかになっており、新しい高機能・高性能繊維素材として注目されている。図4、5はナノファイバープロジェクトの応用例である。本プロジェクトでは、ナノファイバー化により初めて発現する様々な特性を生かし、『薄く曲げられる電池』やウイルスなどを除去でき、空気損失の極めて少ない『高性能フィルター』や『快適で治療針が刺さりにくい医療用具』などに応用されようとしている。

  ナショナルプロジェクトの運営にあたりNEDOナノ材料部では、NEDOが研究資金を100%負担する委託事業と、実用化を目指す参画企業が負担金を半分拠出する事業を組み合わせるという特徴的な研究体制を構築している。この研究体制のメリットは(1)共通基盤技術の拠点の研究インフラを参画企業が共通して活用可能な点、(2)ナショナルプロジェクト実施期間中においても参画企業が自社開発分のノウハウを取り込みながら研究を実施できる点、(3)共通基盤技術開発で発見された学術的な知見の素早い情報享受が可能である点などが挙げられる。材料開発が開発だけで終わらずに、実際に使われることを目的とした技術開発を常に心掛け、国際競争力強化の一助になる仕掛けとして期待している。

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【ナノテクチャレンジ】(図6)
 ナノテクノロジーは、情報家電、エネルギー、医療等の様々な分野にイノベーションを引き起こす可能性があるものの、実用化までの期間が長い、出口(応用分野)が多岐にわたるため特定の出口との関連が弱い、という特徴がある。従って、NEDOナノ材料部では、国が課題設定するナショナルプロジェクト以外にも、大学・企業等の優れたナノテクノロジーを速やかに実用化するためのスキームとして、テーマ公募型事業「ナノテク・先端部材実用化研究開発(ナノテクチャレンジ)」を推進している。この制度は、制度趣旨に合致する研究開発テーマを毎年広く一般から募集しており、ナノテクノロジーを活用し、テーマ終了後3〜5年で実用化を目指すテーマを採択し、企業等の研究開発を支援している。この制度は2つの大きな特徴を持っている。

  まず1つめは、研究開発実施体制としてナノテクノロジーのシーズ技術を有する川上機関(大学、材料メーカー等)とその実用化を担当する川下機関(製品メーカー等)が一体となった垂直連携体制を応募要件としていることである。
  あらかじめ研究開発の実用化シナリオを設定し、その実現に向けて川下機関と川上機関が密な連携を取りながら研究開発を行う。これにより、ナノテクノロジーの特徴である特定の出口との関連の弱さを克服し、基盤技術からデバイス化、製品化まで滞りなく推進することが狙いである。

  2つめは、研究開発期間を前半のステージT(先導的研究開発)と後半のステージU(実用化研究開発)に分け、ステージT終了時に絞り込み評価(ステージゲート)を行うことである。ステージゲートでは、ステージTを終了したテーマを実用化シナリオの実現性、技術の優位性などの観点から評価し、実用化へ有望なテーマを選抜して後半のステージUへ移行している。これによりステージTではナノテクノロジーのシーズ技術を広範囲にわたり支援しながら、ステージUでは実用化に向けて有望なテーマのみ重点的に支援が出来るため、実用化に向けた研究開発の加速および効率的な研究開発資金の運用が可能となる。

  図7にナノテクチャレンジのテーマ事例を示す。

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【シーズニーズマッチングを通じた成果普及】
 ナノテク材料分野の成果普及に向けた大きな課題のひとつは、技術シーズとユーザーニーズのマッチングである。NEDOナノ材料部ではこの課題に対し、試行的な取り組みを行っている。その1つとして、サンプルマッチング制度がある。サンプルマッチングとは、NEDOの事業(ナショナルプロジェクト・テーマ公募型事業など)により得られた成果物(サンプル)を活用して、用途展開や実用化ないし製品化のアイデアを有する企業が、その実現性を見極めるための試験をNEDOが負担する制度である。

  具体的にはサンプル提供者には作製費を補助し、サンプルを試験するサンプル評価者には試験費用を補助するものである。新規材料は、製品としての信頼性や特性などのバックデータが既存の材料に比べて不足しているために、製品化してからも、市場への浸透に時間を要するのが通例である。そのため、早期にユーザー側の評価を受け、製品としての信頼性や特性を把握することで、上市に向けての実現性を見極め、その普及を支援することがこの制度の狙いである。
  現状のサンプルはNEDO事業の成果に限られるが、サンプルを試験するユーザーは広く一般から募集している。4月上旬からNEDO公式ウェブで公募する予定であるので、ご活用頂けると幸いである。

  また、NEDOナノ材料部では、年に一度、研究開発の成果普及の一環として、「nano tech 国際ナノテクノロジー総合展・技術会議」に出展している。この展示会はナノテクに関する世界最大規模の展示会であり、最新技術動向や産業動向を把握する絶好の機会として、世界各国から多数のナノテク関係者が参加する。この展示会に出展することで、多くのユーザーサイドの企業との接点を持つことができ、プロジェクトの成果普及を効果的に進めることができる。今年度は2月17日から19日まで、東京ビッグサイト(東京都江東区)で展示会が開催され(来場者数約4.2万人)、NEDOから63事業の最新成果を発表した。例として、衣料用材料・産業用部材などへの実用化を目指すナノファイバー技術や、セラミックス材料を用いた超断熱壁材料・窓材料などを展示し、日本発のナノテクを実用化へとつなげる取り組みを国内外の関係者に伝えることができた(図8)。

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【最後に】
 本紙では、NEDOナノ材料部の主な取り組みについて紹介した。今回紹介したナショナルプロジェクトとナノテクチャレンジの詳細なテーマとその成果については、次回以降で詳しく報告する。日本発の材料技術開発が、いままさに更なる飛躍の瞬間にあることを感じて頂ければ有り難い。

<木内 茂:(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構 ナノテクノロジー・材料技術開発部>