NEDO特別寄稿(第11回)

高集積・複合MEMS製造技術開発プロジェクト(下)
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【図7】配線MEMS 構造

(2)MEMS/半導体の一体形成技術の開発

 本分野では、MEMSとCMOSマイナスLSIや受動素子などの半導体デバイスを組み合わせることで、MEMSデバイスの高機能化やMEMSを用いたシステムの小型化を目指した。

◇MEMSをLSIの配線上に集積化した1chip超小型圧力センサー(日立製作所)
  LSIの配線層の上にMEMSを集積化する“配線MEMS技術”を開発した(図7)。本技術では、MEMSのプロセス処理温度を450℃以下に抑え、かつ、一般の半導体回路の材料や製造プロセスとの互換性を確保している。

  図8に、ワンチップ圧力センサーのチップ写真と出力特性を示す。本試作品では、圧力センサーに機能を限定することで0.9mm×0.8mmの世界最小クラスの1チップ圧力センサーを試作し、動作検証をした。MEMSダイヤフラム径を変更することで、測定レンジを任意に調整することが可能である。本試作品の他にも、圧力センサー、温度センサー、高感度検出回路を1.9mm×1.7mmのチップに集積したセンサーの試作にも成功した。

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【図8】ワンタッチ圧力センサーのチップ写真と出力特性

◇3次元貫通配線(フジクラ)
  TSV(Through Si Via)に代表される従来の貫通配線は、DRIE(Deep Reactive Ion Etching)を中心としたSiの深掘り加工により貫通孔を形成しているため、貫通配線は基板面に対して、ほぼ垂直な形状を有しているが、本テーマでは、石英基板内部に屈曲・分岐した構造を有する3次元貫通配線を形成する技術を開発した(図9)。本技術を用いることより、水平方向の端子間の接続や表裏のピッチ変換を基板内部で自由に行うことができるため、より高密度で高機能なパッケージを実現できる。

  3次元貫通配線は、フェムト秒レーザーによる石英基板の改質/ウェットエッチングによる微細孔形成技術と、溶融金属吸引法による金属充填技術により形成する。本技術により、厚さ300μmの石英基板内部に、クランク形状およびY字分岐形状を有する3次元貫通配線を世界に先駆けて試作することに成功した(図10)。

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【図9】3次元貫通配線の特徴

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【図10】Y字およびクランク貫通配線の試作例

(3)MEMS/MEMSの高集積結合技術の開発
新しい機能を有するMEMSデバイスの実現や個別部品を組み合わせて作っていた既存システムの超小型化などを目的に、種類の異なるMEMSや半導体素子を縦方向に積層するための異種材料の接合技術や、異種材料を接合した積層MEMSウエハーを高歩留まりで切断するパルスレーザー支援デブリフリー低ストレス高速ダイシング技術を開発した。

1.異種機能を積層集積したMEMSデバイスの開発(オリンパス)
  本テーマでは、電子部品、光学部品、光MEMS、流体MEMSをウエハー状態で接合する異種材料多層MEMS集積化技術を開発した(図11)。本技術とこのプロジェクトで東京大学が開発したナノ機械構造体形成技術、産業技術総合研究所が開発した分子認識素子および、その固定化技術が融合することで、超小型でありながらも従来機器と同じ機能をする超小型SPR(Surface Plasmon Resonance)センサーの試作に成功した(図12)。

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2.高精度接合技術を用いた波長可変面発光レーザーの開発(横河電機)
  本テーマでは、MEMS技術と光化合物半導体技術を融合し、面発光レーザーとMEMS光共振器を一体化することで、光応用計測、分析、次世代光通信などへ応用可能な可変波長レーザーを実現している(図13)。

  図14にMEMSミラーへの印加電圧とレーザの発振波長の関係を印字することで、静電駆動ギャップにギャップ制御電圧を印加することにより、メンブレンを動かし波長を変化させることができる。波長可変幅が約50nmと広く、電圧による単純な波長制御と、高速に連続波長掃引が可能であることが求められた。
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(4)高集積・複合MEMS 知識データベースの整備(マイクロマシンセンター)
  本プロジェクトの開発成果やMEMSに関する技術情報をデータベースに登録し、マイクロマシンセンターのホームページ(http://www.mmc.or.jp/memspedia/)で、MEMS分野の包括的な知識基盤となる百科事典MEMSPedia(図15)として無償で公開することで、プロジェクト成果の普及と活用の促進を図った。

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(5)高集積・複合MEMSシステム化設計プラットフォームの開発(マイクロマシンセンター)
  MEMSを回路で記述できるMEMS等価回路ジェネレータを開発した。MEMSを回路シミュレータで利用可能なネットリストとして記述することで、MEMSデバイスに駆動回路をつけた場合のデバイス動作と回路解析が可能となる。

 本設計プラットフォームは、マイクロマシンセンターのホームページ(http://MEMSpedia.mmc.or.jp/WebLibrarySystem/)で公開している。

  ユーザー登録をすれば誰でも無料で利用可能なので、関心のある方は試用をお願いしたい(図16)。

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【おわりに】
 本稿では、MEMSの高集積化・複合化による機能向上や適用範囲の拡大を目指す次世代MEMS開発へのNEDOの取り組みを紹介した。  次世代MEMSは、デバイスや材料の組み合わせにより、機能や用途のバリエーションが大きいため、規模の効果が大きいLSIと異なり後発でも市場参入のチャンスがある。そのため、日本や欧米などの先進国だけでなく、中国やベトナム、スリランカなどのアジア諸国でも精力的に開発が進められている。

 日本が今後も、MEMS分野での産業優位性を保っていくためには、川下(最終製品)、川中(材料・部品・装置)、川上(素材、原材料)の間で次世代MEMSに対するニーズやシーズのベクトルを合わせ、強い産業集積構造を形成していくことが必要と思う。

 多くの企業や大学、公的研究機関が参加するNEDOの研究開発プロジェクトを通じて、我が国の産業集積構造の強化に貢献できることを切望している。

<犬塚 肇:(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構 機械システム技術開発部>