【図1】テーマ構成の考え方
【はじめに】
本稿では、NEDO技術開発機構(以下NEDO)が2006年度から2008年度まで推進した「高集積・複合MEMS製造技術開発プロジェクト」(通称:ファインMEMSプロジェクト)の詳細を報告する。
我が国には、材料産業や機能性部品産業といったものづくり産業を基盤とした「高度部材産業集積」があり、これが、我が国の製造業の国際競争力を支えてきたと言える。また、川下(最終製品)、川中(材料・部品・装置)、川上(素材、原材料)の分厚い産業集積に育まれた摺り合わせのネットワークが、新技術の素地となり、次のイノベーションにつながってきたとも言える。
近年の電子部品・デバイスの小型化・高性能化に大きく寄与している技術が、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems:微小電気機械素子)である。
MEMSとは、微細な電気要素と機械要素を一つの基板上に組込んだ部品をいい、半導体製造技術やレーザー加工技術など各種の微細加工技術を用いて製造される。現在、情報通信、医療・バイオ、自動車など多様な分野における小型・高精度で省エネルギー性に優れた高性能のキーデバイスとして期待されている。
経済産業省の「ロボット・新機械イノベーションプログラム基本計画」においても、MEMSは、我が国製造業の「川中」の一角をなす基幹部品の国際競争力強化などの観点から重要な分野と位置づけられている。
そのため、NEDOはこれまで、MEMSプロジェクト(2003〜2005年度)、MEMS用設計・解析支援システム開発プロジェクト(通称:MEMSマイナスONEプロジェクト、2004〜2006年度)や今回、紹介する「高集積・複合MEMS製造技術開発プロジェクト」といった一連のMEMS開発プロジェクトを推進してきた。
これらの取り組みにより、MEMSが既に実用化されている自動車用のセンサーやインクジェットプリンタヘッドにおいて日本企業が健闘している。しかしながら、今後、市場の成長が期待される光MEMSやバイオMEMSの分野では欧米企業が一部先行しており、今後もMEMS産業の国際競争力を確保するためには、製造技術の一層の高度化によりMEMSのさらなる小型化・高性能化を図ることが必要である。
実際、欧米の一部では、MEMSに処理回路を集積したり、MEMS間を結合する高集積・複合MEMSの開発が着手されており、研究開発の時期を逸すると、MEMS関連市場(2015年で国内市場2.4兆円)を海外メーカーに席巻される恐れがある。
このため、次世代の基幹部品を支える高集積・複合MEMSの実用化促進により、我が国のMEMS産業の競争力強化を目指して、NEDOは2006年から、本プロジェクトに取り組むことになった。
【図2】高集積・複合MEMS製造技術開発プロジェクトの分野構成
【図3】高集積・複合MEMS製造技術開発プロジェクトのテーマ構成
【プロジェクトの目標と構成】
本プロジェクトは、今後、成長が期待される市場である自動車、情報通信、安全・安心、環境、医療などにおいて必要不可欠となる、小型・省電力・高性能・高信頼性の高集積・複合MEMSデバイスを2015年頃までに普及させることを目標に、MEMSの集積化や複合化を実現するための製造技術を開発した。
図1に本プロジェクトにおけるテーマ構成の考え方を示す。本プロジェクトでは、高集積・複合MEMSデバイスの早期製品化を狙った実用化研究(助成研究、助成率:50%)を中核に据え、高集積・複合MEMS技術の適用範囲拡大と競争力の強化を狙った基礎的・基盤的研究と開発成果の活用を促進するための知識データベースの整備や設計ツール開発などの知的基盤・標準整備を行い、成果を広く公開することで、新規プレーヤーの参入を促進し、MEMS産業の裾野を広げることを目指した。
図2「本プロジェクトの分野構成」、図3「テーマ構成」に示す通り、本プロジェクトは、「(1)MEMS/ナノ機能の複合」、「(2)MEMS/半導体の一体形成」、「(3)MEMS/MEMSの高集積結合」の3分野にわたるMEMS製造技術とそれらの成果の活用を支援するための「(4)知識データベースの整備」および、「(5)設計プラットフォームの開発」の5分野にわたる17のテーマ(8企業3大学3法人)で構成されている。
【研究内容】
本プロジェクトはテーマ数が多いため、限られた紙面ではすべてのテーマを紹介することは残念ながら出来ないため、本稿では、テーマの一部を抜粋し、その成果を紹介する。
本プロジェクトに関する、より詳しい情報を希望される方は、下記のURLにプロジェクトの紹介パンフレットが掲載されているので、ご参照いただきたい。
http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/pamphlets/kikai/mems.pdf
【図4】カーボンナノチューブを適用した交耐電力RF-MEMSスイッチと可変バンドバスフィルターの試作例
(1)MEMS/ナノ機能の複合技術の開発
本分野では、カーボンナノチューブ(CNT)や特定のタンパク質や脂質などを検出するバイオ材料とMEMSを組み合わせることで、新たな機能を有するMEMSデバイスや従来の性能を凌駕するMEMSデバイスなどの実現を目指している。
◇カーボンナノチューブを適用した高耐電力RFマイナスMEMSスイッチ(三菱電機)
本テーマでは新たな接点材料としてカーボンナノチューブ(CNT)に着目し、CNTが均一に分散された金メッキ膜を形成する技術の開発に成功した。CNT分散金メッキ膜を貫通配線が形成されたRFマイナスMEMSスイッチの接点に適用した(図4)。その結果、スイッチング試験での耐電力性が従来の3倍となる4.5Wを実現している(図5)。
◇ナノ機械構造体形成技術の開発(東京大学)
本テーマでは、SPR(Surface Plasmon Resonance:表面プラズモン共鳴)センサー製作における重要技術として、図6に示す3つのナノ構造形成技術、および、センサーパーツ配置技術の開発を行った。まず、金膜ナノ格子構造を最小50nmの線幅で構成し、SPRセンサーの光学系の設計自由度を高め、センサーの小型化をはかる基礎技術を確立した。
次に、マスク開口面積依存性のシリコンエッチングレート差(RIEマイナスlag)を利用して、最大51°のスムーズな斜面を形成する技術を確立した。また、スタンピング技術を用いて、シリコンのナノギャップ構造を形成し、近赤外光用FabryマイナスPerot干渉器を開発した。
さらに、スタンピング技術を応用し、複数のMEMSパーツを集積対象の基板に高精度に配置する技術を開発した。
【図5】CNTを用いたRF-MEMSスイッチの耐電力性試験結果
【図6】ワンチップSPRセンサーのコア要素技術としてのナノ機械構造体の形成技術
<犬塚 肇:(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構 機械システム技術開発部>
*以下(2)MEMS/半導体の一体形成技術の開発、(3)MEMS/MEMSの高集積結合技術の開発、(4)高集積・複合MEMS知識データベースの整備(マイクロマシンセンター)、(5)高集積・複合MEMSシステム化設計プラットフォームの開発(同)の研究内容紹介は、次号(2月4日付)に掲載します。