【図1】新しい非鉛圧電材料BZT-50BCTの状態図
(独)物質・材料研究機構 センサ材料センターの任暁兵氏らは、鉛を使用せず環境に優しい、高性能な圧電材料の開発成功を発表した。今回の開発により、非鉛系圧電材料が従来広く使用されている有害物質である鉛圧電材料の性能を初めて超えた。
圧電材料は電圧の印加により伸縮し、逆に力を印加すると電圧が発生するエネルギー変換機能を有し、様々なセンサーやアクチュエータに使用されている。しかし、現在使用されている圧電材料の大部分は鉛系材料(PZT:チタン酸鉛とジルコン酸鉛の混晶)であり、世界的に規制の対象となっている有毒元素の鉛を含有していることが課題となっている。
従来、高い圧電効果を得る方法として、圧電材料の状態図上で2種類の強誘電相を形成させ、この境界(MPB)組成で高い圧電効果が得られていた。PZTの高い圧電効果もこの境界組成で得られていたが、非鉛圧電材料においてはPZTにはるかに及ばなかった。
今回、新たな「三重臨界点を持つMPB理論」を提案し、これに基づき非鉛圧電材料系を設計した結果、PZTを凌駕する特性が得られた。三重臨界点とは不連続相転移が連続相転移に変わる臨界点を示す。この理論に基づき新しい非鉛系BZT−BCT(Ba(Zr,Ti)O3−(Ba,Ca)TiO3:チタン酸ジルコン酸バリウムとチタン酸バリウムカルシウムの固溶体)を設計した。この系の状態図(図1)には「三重臨界点によるMPB」が存在しており、MPB組成の50%BCTでは室温での圧電乗数d33は620pC/Nという大きな値が得られた。この値はこれまでの非鉛圧電材料より2倍以上大きい。また、従来の最高圧電特性を持つソフトPZT(PZT−5H)よりも優れた特性を示している(図2)。
【図2】新開発非鉛圧電材料(BZT-50BCT)と従来の圧電材料の圧電定数d33