【図1】従来の光伝播の記録方法と考案した方法 JSTと京都工芸繊維大学は、光が伝播する様子の3次元像の動画記録と観察に成功した。 【図2】フェムト秒光パルス伝播の3次元像の動画を記録するための実験システム 光パルス伝搬の3次元像の観察 光パルスの伝播の3次元像を観察するためには、伝播している光パルスの全体から拡散光を発生させる拡散体を用いて記録する必要がある(図1(b))。研究グループでは、このような光学系を考案・作製しフェムト秒光パルスの伝播の3次元像を記録した(図2)。伝播する光パルスを拡散させる拡散体を構成する媒質として、ゼラチンで作製したゼリーを用い、ホログラムで光の伝播を記録するための適度な拡散性を得るために、ゼリーにはゼラチンと水と蔗糖を適切な割合で配合し媒質を製作している。レーザーは224フェムト秒の時間幅を持つパルス光を発するフェムト秒パルスレーザーを実験に使用している。 この光パルスとホログラム記録材料との交差する点に、伝播する光のある時点の3次元静止画像が記録される。光パルスが進んでいくとホログラム記録材料を横切る部分が時々刻々と移動していき、その移動時間に観察対象とする光が進んでいく様子がホログラムの異なる場所ごとに記録される。 観察は、記録したホログラムに対して、光を連続的に発するレーザーの光を広げて参照光パルスと同じ方向から照明している。ホログラムから回折された光の中で観察者が肉眼でホログラムのある1点を見つめると、伝播している光のある時点での3次元静止画が観察できる。 さらに光パルスがホログラムを横切ったのと同じ方向に視線を動かすと、その動きに応じて光が伝播する3次元の様子のスローモーション動画像を観察でき、観察者が移動する速度と同じ速度で伝播する光が再生される。 平行光に広げたフェムト秒光パルスの伝播の3次元像の記録・観察を行っている。光パルスの伝播は連続した動画として観察される(写真1)。写真は動画の中から4シーンを取り出した画像とその一部を拡大したもの。 また、光パルスの伝播の様子をわかりやすくするために、「光」という文字パターンを切り抜いた薄板を通過させた後のフェムト秒光パルスを記録している。得られた動画では、236ピコ秒で起こっている現象をスローモーションで観察している。また、平行光にしたフェムト秒光パルスが凸レンズによって1点に集光した後、広がっていく3次元の様子を記録・観察している(写真2)。写真は動画の中から6シーンを取り出したもの。 時間間隔は15ピコ秒で、得られた動画では259ピコ秒で起こっている現象を3次元像のスローモーションで観察できたとのことで、いずれも光が伝播する様子の3次元像の動画像記録と観察に世界で初めて成功した。 応用と今後の展開 新技術は、超高速光通信システムを構成する素子の評価やレーザーによる微細部品加工、光造形用の光パルスの評価、生物細胞のレーザーナノ手術用の光パルスの評価など、超高速計測・評価の幅広い分野で役立つと期待される。今後は、記録材料をCCD(電荷結合素子)に置き換えてコンピュータで再生することにより、3次元画像のデジタル処理を可能とする研究を進める計画。これに成功すると光の伝播する3次元の様子のリアルタイム記録と観察、立体表示、通信伝送や伝播する光の定量的な解析が可能となることから、応用分野の研究開発をさらに大きく前進させることが期待される。 光の速度は速過ぎて、これまでの技術では光を撮影・観察することはできなかったが、今回、光という画像情報の描かれた光の塊が空間を飛んでいく様子の3次元像が動画観察できたことにより、誰も見たことのない超高速の世界を見ることに成功した。 <用語説明> *フェムト秒パルスレーザー=10兆分の1秒程度以下の時間だけ光を放つことができるレーザー。1フェムトは1000兆分の1。 *ホログラフィ=光の干渉・回折を利用して物体のすべての情報を記録・再生する技術のこと。記録には主にレーザー光を使う。 *超短パルスレーザー=ピコ秒パルスレーザーやフェムト秒パルスレーザーのこと。 *ピコ秒=1ピコ秒は1兆分の1秒。 *ホログラム=ホログラフィで記録された物体のすべての情報を記録した媒体。 <独立行政法人科学技術振興機構(JST)> |