特集:コネクタ技術

Micro-USBコネクタの開発動向


【写真1】Micro-USBコネクタ

 昨今のモバイル機器における小型軽量化の要求はとどまることなく、その高機能化ともあいまって、加速の一途をたどっている。当然その搭載部品への仕様要求も厳しいものとなっており、その高さ、体積、搭載面積の縮小化というこれまでの課題に加え、ことに機構部品では、小さくともその堅牢性は従来品に比べて高いこと、という相反した命題が近年の傾向となっている。

  この要求の背景には、いくつかの理由がある。部品をミニチュア化しても、その操作性が損なわれることは工程のコストアップにつながるため、そこに創意工夫が求められるが、操作部が小さくなり物理的に限界がある場合、手荒い作業をしても壊れない(にくい)デザインという方向がコスト維持のひとつの解答となる。

  また、特にインターフェイスのコネクタでは、一般のユーザーが操作をすることになるため、不測の事態を防ぐべく、なるべく頑丈なつくりにするのが大前提であるが、モバイル機器では、可搬であるがゆえに、据え置きとはレベルの違うダイナミックなストレスがインターフェイス連結部にかかってくることも多く、その点への配慮も必要である。初期の携帯電話でのインターフェイスコネクタでは、オーディオジャック、データ交換用ポート、充電用ポート等がそれぞれ個別に搭載されていたが、実装スペース削減のため、その統合が進んだ。

  しかし、そのハイブリッド化された形態が、各メーカーのカスタム仕様であったため、ユーザーはそのために個別にアクセサリ部品を用意しなければならず、またメーカーの部品調達の柔軟性も損なわれる一因となっていた。そこで、大手メーカー数社の提唱のもと、USBコネクタをベースにした共通インターフェイスの検討がUSBマイナスIFで開始されることになった。

  PCだけでなく、様々な民生機器にも幅広く搭載されているUSBコネクタ(現行はスタンダードとミニのタイプ)であるが、次世代のスタイルを検討するに、まさに冒頭に述べた使用環境(ミニチュア、かつ高耐久)に対応することが主眼とされ、今年の1月にその規格策定が終了したのが MicroマイナスUSBである。

MicroマイナスUSBコネクタの製品仕様

 

MicroマイナスUSBコネクタの主な製品仕様としては、電気的特性として、定格電流が電源1.8A、信号0.5A、接触抵抗が初期30mΩ、1万回挿抜後変動値±10mΩである。

  機械的仕様では、挿抜耐久性が1万回、挿入力35N以下、抜去力が1万回挿抜後8N以上などである。機器側に使用されるリセプタクルは、基板上高さ2.5mm(主要胴体部)となっており、従来のミニのタイプと比べても約半分のサイズである。コンタクトは0.65mmピッチの5ピンの構成となり、ピッチもミニのタイプからさらに極小化されている。

 プラグの最終アッセンブリ後のグリップ最大高は、8.5mmの規定とはなっているが、実際各部品メーカーから供給されるものは、低背スリムタイプが主流となるとみている。また、レファレンスではあるが、リセの基板上での垂直方向剥離強度、リセ・プラグ嵌合時の対こじり強度(破壊モード)も推奨され、前述のごとく堅牢性に対する配慮がここでもなされている。

  その他、特にMicroマイナスUSB自体の規格に網羅されない規定については、USB2.0の仕様に準拠することとなっている。

  MicroマイナスUSBでの寸法面での規定は、リセ・プラグの嵌合にかかわる部分、最低限の基板取り付け推奨パッドくらいしか包含しないため、その他の細かい部分では、各サプライヤ独自のアイデアをデザインに織り込む余地がある。この点は、他のインターフェイスの規格と同様である。

MicroマイナスUSBコネクタの強度の検討

  タイコ エレクトロニクスでは、この小型USB規格“MicroマイナスUSB”に準拠した製品を開発するために、主要顧客からの要求仕様のヒアリングを行い、それに伴う様々な試作により検証を重ねてきた。

  規定されたコネクタのサイズが小さく、それ自体の剛性に期待できないため、各構成部品の取り合い全体で堅牢性を高めるように考慮し、各部品の製造・組み立て精度もそれに合わせて策定した。

  まず、リセプタクルの基板取り付け強度であるが、規格で示されたパッド以外の部分にもホールドダウンを追加して強化している。

  しかしながら、単にハンダ付け部を増やすのではなく、それによりコネクタ挿抜時の負荷、特にシェルへのモーメントのかかり方がどのように変化し、影響を受けるのか、測定する必要があった。この検証は、コジリ挿抜に対する耐久性を考慮するために重要であり、そこからシェル自体のジョイントのデザイン、内部サブアッセンブリの寸法、配置、係止方法等に立ち戻り、総体的に解となるデザインを決定していった。ここまでは、通常のアプローチであるが、リセプタクルにもオンボードタイプ、切り欠き基板搭載タイプ等のバリエーションがあり、機械的な使用環境も異なるため、多くの試作を行い、実証する必要があった。

  プラグについても同様のアプローチを行い、機械的強度も初期のものから3割程度上昇した。

  その次に取り組んだのが、導通を維持しながらのインターフェイスケーブルに負荷されうるストレス荷重への対策・改善である。これは、モバイル環境では特に重要な項目であり、クリアできるストレス値が高くなるほど、信号の瞬断による交信エラーを防げるマージンは当然大きくなる。

  この改善をするときには、通常はリセプタクルとプラグのコネクタ端子の嵌合力を高くし、対瞬断の体力アップを図るのであるが、ピンの挿抜によるメッキの磨耗の観点からみると、あまりに固い嵌合は、10K回挿抜保証の性能(本規格中のもうひとつの重要な項目である)に悪影響を及ぼす懸念もあるため、むやみにその方法はとれない。

  そこで、いろいろなモードに振った嵌合状態の断面を観察、設計変更を施し、応力の集中する部分を極力排除した。コネクタ全体でそのストレスを吸収し、嵌合が不利な角度に至るのを防ぐようにしたのであるが、ここでは主にプラグコネクタのデザインが見直された。

  この検証をするときに想定されたストレス荷重としては、コネクタ嵌合後にリセプタクル側を固定し、プラグのコネクタ胴体部にいろいろな方向の負荷をかけたものや、より現実的な使用状態で測定したいという意図から、プラグコネクタのケーブル端に荷重をかけ、通電の保持を見るといった方法が適用された。

 

【写真2】ケーブル負荷試験例

MicroマイナスUSB製品の課題

 以上、タイコ エレクトロニクスでは、ここまでに述べてきた検討方法により、現況市場から想定される機械的強度に合致したデザインを創出してきたのであるが、最後に、MicroマイナスUSB製品全体の課題として互換性の点があげられる。このシステムがグローバルスタンダードのインターフェイスとして、セットメーカーの垣根を越え広く採用されていくためには、どのサプライヤのコネクタを混在使用しても、同等なレベルで最新の要求を満たすことが求められる。

  共通デザインとして広く業界に開示されるため、検証の不十分な製品が市場に流出する可能性も高くなり、これまでのカスタムのインターフェイスのような、囲い込みのコントロールによる管理も目が届かなくなってくる。

  USBマイナスIFではこのために、これまでのUSBコネクタで施行してきた部品認定制度をこのMicroマイナスUSBにも適用していくことになる。

  しかしながら、コネクタサプライヤも1社1社が、他社製品との混在使用が行われても、自社製品側での不具合で全体の性能を落とすことがないよう十分なデザイン検証を施し、互換性を維持するための継続的な努力が必要である。

  タイコ エレクトロニクスでは、リセプタクルは標準的なオンボードタイプのBタイプ品、OTG対応のABタイプ品、プラグではAタイプ品、Bタイプ品から量産を開始しているが、様々なアプリケーションに対応した他のバリエーションも順次市場に投入していく計画である。

  <植野 良:タイコ エレクトロニクス アンプ(株)>