特集:モバイル機器用デバイス技術

組込み機器向け 無線LANシステムLSIの開発


【写真1】ロームの無線LANシステムLSI
「BU1802GU/BU1803GU」

無線LAN組込み機器開発者の課題

 ワイヤレス・ブロードバンド時代の本命のひとつである高速無線LAN。店頭に並ぶノートパソコンは標準で無線LAN機能を搭載し、特別な機器を購入することなく、自分の部屋や街のファーストフードショップなどからワイヤレスでネット接続を楽しむことができる。

  無線LANは、PC周辺機器にとどまらず、多くの民生、産業分野の機器へと組込みが本格化し始めている。この動きはDLNA(R)(Digital Living Network Alliance:ホームネットワーク技術の標準化団体)のワイヤレス通信の標準規格を無線LANと定めたことも影響している。

  組込み用途においては、市場競争力の追求から、低コスト、低消費電力を課題としていることが多く、無線LANシステム搭載においても最適化・小型化が要求される。

  しかし、無線LANを組み込もうとしている開発者たちは、ソフトやハードの制約の多いLSIを使用せざるを得ず、組込み機器に最適化されたLSIの開発が待たれていた。

 

【図1】BU1802/BU1803 無線LAN LSIブロックダイアグラム


【図2】無線LANモジュール構成図

組込み機器用無線LANシステムLSIの開発

 ロームは組込み機器用無線LANシステムへの要望を満たすシステムLSIを専用設計に取り組み、このほど、組込み機器に最適なシステムLSI BU1802GU/BU1803GU(写真1)を開発した。

  このLSIの開発で目指したものは、ハードウエア的にもソフトウエア的にも組込みが容易であり、無線LANを簡単に実現することができることである(図2参照)

  本LSIの代表的な特徴を以下に記す。

[特徴1:無線LAN規格準拠]

  IEEE802.11a/b/g準拠のベースバンドプロセッサであり、セキュアエンジンとしてIEEE802.11i準拠による各種暗号プロトコル(64bit/128bit、WEP、TKIP、AESなど)にも対応している。

[特徴:少ない配線数]

  無線LAN通信に必要な機能をLSI内部でマクロ的に実現し、また、外部からは配線数の少ないシリアル通信方式であるSDIO(BU1802GU)またはSPI(BU1803GU)で制御できることから、既存のシステムを大幅に変更することなく、容易に高速無線LAN通信を実現することができる(表1参照)

[特徴3:少ないコードサイズ]

  BU1802GUBU1803GUでは、デバイスドライバーは簡単な設定値と送受信データのやり取りをするだけといっても過言ではない。

  デバイスドライバーのコードサイズもコンパクトになる。

  また、ソフトウエアとして、ITRON、Windows Mobile(R)、Linux(R)に対応したデバイスドライバーを用意している。

  もちろん、それ以外のOSまたはOSレスシステムへのデバイスドライバー移植サービスも行っている(図3参照)

  以上のように、ロームの無線LANシステムLSIは、ハードウエア的にもソフトウエア的にも組込みニーズに対応しており、システムへの組込みをする開発者の負担を大幅に軽減することができる。

[表1]ホストインターフェイス信号表(SPI)

ホストCPUと の少ない配線数

  無線LANの組み込みに際して、まずハードウエア面での接続について記す。

(1)BU1802GU:SDIO(配線数:9本)インターフェイス対応

 PDAをはじめとしたSDIOインターフェイス搭載機器への組込みに対応できるように、BU1802GUではSDIOインターフェイスを内蔵している。転送モードはSDIOの全モード、4ビットパラレルモード、1ビットシリアルモードおよびSPIモードをサポートしている。

(2)BU1803GU:SPI(配線数:8本)インターフェイス対応

  市場に流通している多くのCPUが持っている同期型シリアル通信インターフェイスと接続できるように、BU1803GUはSPIインターフェイスをサポートしている。SPI通信では、マスターであるホストCPUからのポーリングがない限りスレーブとの通信を行うことができないため、リアルタイム性が確保できないという問題があった。

  BU1803GUでは、この問題を解消するためホストCPUへのイベント通知用信号線を設け、無線データ受信時に即時にホストCPUへデータ転送できるようにした。また、リセット信号も用意しており、ホストCPUからデバイスをリセットすることもできる。


【図3】ホストCPU側のソフトウェアスタック構成


ソフトウエアスタックとの接続

  組込み機器では総じていろいろな資源に制約があり、無線LANを搭載するためだけに高速CPUの搭載や大容量メモリーの増設などは、事実上不可能である。これまでの無線LAN用LSIは、デバイスドライバーに無線LAN規格準拠部分の処理を分担させていた。それに対して、ロームのBU1802GUBU1803GUは、規格準拠部分の処理のほぼすべてをLSI側で行っているため、ホストCPUは簡単な設定値と送受信データのやりとりしか行わない。

  そのため、デバイスドライバーのコードサイズは動作環境により若干の差異はあるものの、従来の110程度で収めることができる。

  また、BU1802GUBU1803GUには、ホストCPUからのファームウエアのダウンロード以外に、外付けのシリアルフラッシュメモリーからのダウンロード機能を設けている。

  つまり、わざわざホストCPUからファームウエアデータをダウンロードすることなく、無線LANシステムLSI側を自己起動することができる。そのことにより高速、高機能のCPUへの設計変更や新たな採用をすることなく無線LANの導入が可能となる。

組込み機器への導入サポート

  ロームは、組込み機器への導入に際して、無線LANシステムLSIの評価を素早く行うための開発キットを用意している(写真2)。この開発キットは無線LANシステムLSI用リファレンスモジュール、アンテナ、ホストCPUボード、マニュアル各種およびサンプルのCソースコードで構成されている。このキットのみですぐに無線LANシステムの構築および無線LANを介した通信評価を行うことができる。

  ホストCPUボードはCPUにARM7TDMI(R)を搭載し、リアルタイムOSであるITRONを移植済みである。また、サンプルのCソースコードはITRON、プロトコルスタック、無線LANシステムLSI用デバイスドライバーおよびホストインターフェイス用のペリフェラルデバイスドライバーで構成されている。

  さらに、開発キットに同梱されているサンプルのCソースコードをリファレンスとして、機器開発者自身によるデバイスドライバーのソフトウエアへの組込みも容易にできる。



【写真2】ロームの無線LANシステムLSI開発キット

今後の取組み

  無線LANシステムLSI技術は、高速大容量通信を目指しての次世代通信規格IEEE802.11n対応や、高速なホストインターフェイスの搭載、さらにはメッシュネットワーク・デバイスを目指してのIEEE802.11s対応へと高度な技術トレンドを描いていく。

  応用上では、エンタープライズ、PCおよび民生機器へと、無線LANはネットワークの実現に向けて拡大を続けていくと考えている。そこで、我々は難しい技術を難しく感じさせない、使いやすいロームの無線LANシステムLSIを、ユーザーへの優しさを維持しながら進化をさせ続けることで、さらにユビキタス・ネットワーク社会に貢献していく。

<ローム(株)LSI商品開発本部>