【図1】電力変換用パワーデバイスの具体的な応用分野
京都大学、東京エレクトロン、ロームの3者はこのほど、共同実施してきたSiC(シリコンカーバイド、炭化ケイ素)パワーデバイスの研究開発において「量産型SiCエピタキシャル膜成長試作装置」によるSiCウエハーの複数枚一括処理技術を国内で初めて確立した。「将来のSiCパワーデバイスの実用化に向け大きく踏み出した」(3者)。
シリコン(Si)50%、炭素(C)50%で構成されるSiCは、パワーデバイス用材料として期待されている。高温動作可能な広い禁制帯幅、高い絶縁破壊体制による高耐圧/低損失特性、高い電子走行速度による高い電流駆動力、高い熱伝導度による優れた放熱性など、従来パワーデバイスに使用されるSiやGaAsに比べ優れた特性を持つ。電力インフラをはじめ、鉄道、産業機器、自動車など幅広い分野への応用が検討されている(図1)。新エネルギー・産業技術総合開発機構委託による「次世代パワー半導体デバイス実用化調査」の報告書(平成15年3月)によると、高性能SiCパワーデバイスの実用化が進めば、2020年には原子力発電所数基の年間発電量に相当する「年間約200億キロWh」の省エネが実現できると予測されている。
ただSiCは融点が1600度Cを超え、融点が1100度C程度のSiなどに比べ加工が極めて難しいという欠点がある。そのため、SiC基板を加熱処理して形成するエピタキシャル成長膜形成工程で結晶欠陥を少なく量産する技術が、SiCデバイスの実用化に向け不可欠となっている。
京大、東京エレクトロン、ロームの3者が発表した技術は、SiCにおける世界的第一人者である京大大学院工学研究科本恒暢教授の指導のもと、東京エレクトロンの量産装置開発技術とロームのプロセス・デバイス評価技術を融合し、昨年8月からエピタキシャル膜成長装置の試作機を使い約10カ月程度で確立したもの。SiCデバイス開発に必須であるSiC基板上の「SiCエピタキシャル膜」を、SiCウエハー複数枚に対し同時に高品質に生成する。
試作装置は300ミリSiウエハー対応装置をベースに開発されているため、4インチウエハーであれば8枚程度、6インチウエハーであれば4枚程度、同時に処理できる。また、対応するSiC基板の傾斜角度としてはエピ膜成長に適した「8度」よりも小さい「4度」に対応し、生産性を高めた。
■シミュレーション技術を駆使
SiCのエピ膜成長に必要な1600度C以上の加熱処理は、最新のシミュレーション技術を駆使した独自の加熱制御システムを開発、導入。さらにコイル形状やガス導入ノズルに新技術を盛り込み、誘導加熱を用いて均一な加熱制御を可能にした。その結果、信頼性、歩留まりを左右する膜圧とドーピング濃度で高い均一性を達成した(図2、3)。品質面も、鉄、銅、ナトリウムなどの不純物成分を0.1ppm以下に抑えた高純度の成膜環境や、0.13マイクロメートル以上のパーティクルが60個以下という低パーティクル性を実現している。
【図2】新規エピ装置を用いて作成したエピ膜の面内均一性
【図3】今回の装置を用いて作製したショートキーバリアダイオードの耐圧分布
SiCデバイスは、高耐圧、低損失性という特徴を持ち、次世代のパワーデバイスとして期待を集めている。ロームでは既にSiCショットキーバリアダイオードとSiCMOSFETを組み合わせた30A(アンペア)インバータモジュールなどを開発。「現在、産業用途や自動車用途向けでSiCデバイスのエンジニアサンプルを出荷中。(ユーザーからは)良い評価を得ている」(ローム)。
3者では「共同開発をさらに推し進め、さらなる結晶欠陥の低減、成膜の生産性向上によって高い品質と低コストを実現したい」としている。
<京都大学・東京エレクトロン・ローム>
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