ダイナミックD-1000シリーズコネクタの技術

 産業装置専用の電源用コネクタとして開発されたダイナミックシリーズは、お客様の強いご支持のもと、約20年という年月を経てもなお、産業装置における標準コネクタとしてご愛顧いただいているロングセラー製品である。

  この間、台湾、韓国の低価格装置の台頭、中国での自動車産業の伸長による熾烈なシェア争いといった経済変化が劇的に繰り広げられ、国内の産業装置の実装形態は時代とともに様変わりしてきた。勝ち組、負け組みがはっきり分かれ、シェアを確保した企業は、その購買力を武器に生産方法そのものを変えることに成功した。

  これまで主流であったユニットの購入から内製製作への変更、組み立て作業性の向上を目的とした、端子台からコネクタ化の導入へと変貌を遂げたのである。

  このような背景から既存のダイナミックシリーズからも様々な派生シリーズが生み出され、昨年「生産効率に最も適した実装形態の御提案」を信号系に絞り開発した製品が、産業機器用信号用コネクタ、ダイナミックD-1000シリーズである。

  産業装置は、メカトロニクスの塊である。情報をセンサーが読み取り、高性能なCPUでデータを処理し、アクチュエータ側にその信号を伝える。これをリアルタイムかつシームレスに処理し続けることで安定した制御を維持している。最近では、安全性も重要なテーマとなっており、処理すべき情報は増加の一途をたどっている。ダイナミックD-1000シリーズは、産業装置が要求する品質の高い信号の結線を、センサーからCPU、そしてアクチュエータへの信号出力に関するソリューションをすべて兼ね備えた製品である。

■豊富な種類

  前述した機能を提供するためには、実装に合わせ豊富な種類を持つことが必要になる。コンタクトは1種類で、同一コンタクトを多様なハウジングに適用することがダイナミックの思想である。民生品と比較すると、数量のまとまらないコンタクトの生産量をまとめることで量産効果を生み出し、結果として手ごろな価格でご提供できる仕組みである。1000シリーズは現時点で、4つのシリーズから構成されている。もちろん、すべてのシリーズで同一コンタクトが使用可能である。
 
◆D-1100シリーズ
  標準的なシリーズで多極用途として開発。その仕様用途から適用電線範囲はAWG22までとし、結果的に2.0mmピッチの小型化を実現、極数は10〜40Pまでを準備している(写真1)。



【写真1】D-1100シリーズ



◆D-1200シリーズ
  AWG18まで適用可能な幅広いレンジに対応のシリーズで、ピッチは2.5mmである。産業装置の内線規定は、規格を見てもAWG18は必須であるところが非常に多い。D-1200シリーズは盤内での結線用途にも適用できるスペックである。UL1007まで適用可能なことから、十分ご満足いただけるシリーズとなっている。極数は、2〜20Pと比較的小極数をカバーしている(写真2)。




【写真2】D-1200シリーズ


◆D-1500シリーズ センサー・アクチュエーター用途
  3Pの信号をモジュールとして、基板側コネクタに集合結線させる方式のコネクタで、すべてのコンタクトレンジに適用可能である。ピッチは少し大きい3.5mmでありながら、基板コネクタに外壁があるため、指等の金属部への接触を防止している。

  基板側のコネクタは、2列、3列タイプを標準的に開発しており、今後需要に合わせてラインアップを整えていく(写真3)。



【写真3】D-1500シリーズ



◆D-1900シリーズ スプリングタイプの併用
  端子台からコネクタ化に変貌を遂げた盤内配線ではあるが、対お客様とのインターフェイスに一部専用工具不要な結線が要求される場合もある。これに応えるべく、スプリングクランプタイプをご用意。同一基板側コネクタに、スプリングクランプタイプと同様に、通常の圧着タイプコネクタの嵌合が可能な製品を提供する。これにより制御装置メーカーは、同一基板レイアウトで、アプリケーションによる結線方法の選択が可能であり、より現実的にコネクタ化を進めることができる。製品は、8P、12P、22P、36Pをラインアップ。今後もお客様のご要求に従い、ラインアップを充実させる(写真4)。



【写真4】D-1900シリーズ


 現時点ですべてのシリーズが出揃っているわけではないが、制御機器内部において多くの実装が可能となる。今後の新たなシリーズ展開に是非ご期待いただきたい。


■接触信頼性の高い接触コンセプト

  民生品でよく見られるのは、角ポスト構造。価格だけを考慮すれば必然とも思われる選択を、D-1000シリーズはあえて捨てている。接触信頼性を考えると幅の広いエリアでの接触が望ましいからである。コンタクトはタブ・リセ方式で、完全にボックスに囲まれた内部のバネにより接触をしているダイナミックおなじみの構造をとっている。適用電線レンジもAWG30-18と幅が広い。錫メッキ製品も合わせてラインアップしているので、信号品質とコストから、最適なコネクタの選定が可能である。

■扱いやすさの探求

  扱いやすさは、コンタクトを圧着してから嵌合にいたるすべての工程に関係する。コンタクトをとるためのランスは、ハウジング内部にあるため、コンタクト同士が絡むことを防いだ絡み防止機構や、圧着コンタクトをハウジングに装着する際のはっきりとした装着感覚は、半装着等の事故を未然に防ぐ。さらに、コネクタの嵌合時の明快なロックフィーリングは、価格優先コネクタと一線を画す仕上がりとなっている。

  また、隣接極数(例えば、20Pと22P)同士で誤って嵌合しないようにコネクタをデザインしており、万が一誤って嵌合を試みても、コンタクトのピンにすら触れないデザインを踏襲している。当然のことながら、嵌合方向性を誤った場合も同様である。より確実な結線を実現するために、ダイナミックはキーコンセプトを採用しているが、D-1000シリーズではより積極的な提案をしている。

  キーコンセプトは、同一極数においても2種類の使い分けが可能(X、Yキー)を意味しており、XキータイプはYキータイプには決して嵌合しない。同じ極数にも関わらず、である。

  さらに今まで導入を見送っていた、色による積極的な識別にも踏み切った。標準色の黒以外に、ナチュラル(白系統)、黄色をご用意している。キーとの組み合わせで6種類の使い分けが可能となる。今後もご要求に合わせてラインアップの拡充を図る考えだ。




【写真5】圧着ツール



■圧着工具にも一工夫

  通常、コネクタは専用工具が必要である。ダイナミックD-1000シリーズも例外ではない。しかしながら、より低価格の工具(特にサービス、メンテナンスで必要な手動工具)の販売を実現するため、新たにダイセット交換タイプの圧着ツールを導入し、好評を得ている。

  このツールは、D-1000シリーズのみならず、D-1000シリーズからD-4000シリーズ(1コンタクト23A程度の大電流用コネクタ)の圧着を一つのハンドルで対応できる。ダイスの交換は必要ではあるが、保管スペースを最小化でき、ダイスを含めた工具単価はこれまでの約半額と破格なため、初期コストも非常に抑えられるといった利点もある。

  D-1000以外のダイナミックコネクタの圧着が可能であることから、すでに導入されている工具のリペアの際に本工具を導入いただくことを考えれば、現時点でのD-1000シリーズ導入によるハンドルの導入は、未来に向けた投資と考えても大きな負担にはならないはずである(写真5)。

 <三村泰幸:タイコ エレクトロニクス アンプ   (株)インダストリアル本部マーケティング部>