開発の背景 近年、爆発的に急拡大している薄型TV市場において、特にLCDマイナスTV市場の伸びは著しく、2006年度には5000万台に達すると予測されている。ロームでも早い段階からこの市場に着目し、大型LCDマイナスTVパネルに最適なシステム電源を開発してきた。LCDマイナスTVパネル用電源では、特に低損失、安定動作、安全設計、電源起動シーケンス等が要求されるため、この要求に応えるべくロームが開発したシステム電源IC「BD8160EFV」を紹介する(写真)。 ロームのLCD-TVパネル用システム電源IC「BD8160EFV」 【1】95%高効率と広い安定動作範囲を実現した昇圧DC-DCコンバータ内蔵! BD8160EFVは、LCDマイナスTVパネル駆動用に必要な電圧を低損失で出力する4チャンネルシステム電源である。このICは昇圧DC-DCコンバータ、降圧DC-DCコンバータ、正側電圧出力レギュレーテッドチャージポンプ、負側電圧出力レギュレーテッドチャージポンプが内蔵されている。 まず紹介する昇圧DC-DCコンバータ部は2.6Aの能力を持つNchFETを内蔵しており、高効率・低損失に昇圧DC-DCコンバータを構成することが可能である(図1)。また、LCDマイナスTVパネル用の昇圧DC-DCコンバータでは、入出力電圧差が小さく、最小デューティ性能が入力電圧範囲を制限してしまうため、スイッチングパルスの最小デューティ性能が求められる。 【図1】昇圧DC-DCコンバータ電力効率 大型LCDマイナスTVパネルの入力電圧はおおよそ12Vが使用され、昇圧DC-DCコンバータの出力電圧は15V以上が一般的に使用されている。入力電圧が上昇し出力電圧に近づくと、昇圧DC-DCコンバータはデューティを減少させ、出力電圧を安定するように動作する。 したがって、小さいデューティパルスを実現できるほど、入力電圧が上昇しても出力電圧を安定に保つことが可能である。BD8160EFVでは、スイッチングスピードを従来の2倍に上げることで高速スイッチングを実現し、最小3%を実現した。これにより入力電圧の安定動作範囲の上限が、従来の14V程度から約1V改善した(図2)。
【図2】昇圧DC-DCコンバータ最小デューティ波形
【2】電源起動シーケンスの完全制御回路を内蔵! LCDマイナスTVパネル駆動回路は、主としてソースドライバ回路、ゲートドライバ回路、タイミングコントローラの3つのLSIにより構成されている。ソースドライバは、パネル内各液晶セルに印加する電圧を出力するものであり、一般的にロジック信号電圧(3.3V等)、ソース電圧(15V等)の2電源が必要となる。 ゲートドライバ回路はパネル内TFT素子のON/OFFに使用され、ロジック信号電圧(3.3V)およびゲートON/OFF電圧(ゲートON電圧は通常20V以上、ゲートOFF電圧は通常マイナス5V以下)の3電源が必要となる。これらドライバICは、内部ロジック安定動作およびリセットのために電源起動シーケンスが必要となるが、従来まではディスクリート回路で構成されていた。 BD8160EFVでは、4チャンネルシステム電源プラスシーケンス制御用の回路も内蔵されており、最少の外付け部品で、各ドライバICに必要なシーケンスを制御することが可能である。この付加機能により、部品削減、実装スペース削減、トータルアプリケーション削減といったメリットを実現できる(図3)。 【図3】起動シーケンス波形 【3】アプリケーション部品のショート対策を施した高破壊耐量を実現! TVセットはリビングの主役であるだけではなく、長年の使用にも耐えうるべく、長寿命、高破壊耐量が求められる。これらの信頼性の要求はLCDマイナスTVパネルにも同様に求められている。また、LCDマイナスTVパネルモジュールに使用されるシステム電源では、30点以上の外付け部品とともに使用されるため、これら外付け部品ショート時もICが破壊しないような対策が必要となってくる。 BD8160EFVでは、このフェールセーフに基づき、アプリケーション部品がショートしてもICを破壊から守る電源システムを採用している。一例を挙げると、昇圧DC-DCコンバータ部の出力電圧設定には、帰還抵抗と呼ばれる抵抗分割が用いられ、抵抗比を調整することによって出力電圧値が決定される(図4)。この抵抗がショートした場合を考えると、まず図中R1ならば、帰還入力端子FBに昇圧出力電圧自体(15V以上)が印加されることとなる。 従来のICであれば、帰還入力電圧は1.25V程度で安定するため低電圧素子で構成することになり、15V以上の高電圧で破壊してしまうが、このICでは20V以上の電圧に耐えうるべく高耐圧化を施した。また、図中R2がシュートした場合、昇圧出力は限りなく昇圧しようと動作するため内蔵のFETの耐圧以上まで昇圧を行い、破壊に至ってしまう。そのため昇圧出力自体に過電圧保護回路を導入し、内蔵のFETの過電圧破壊を防止した。 【図4】昇圧DC-DCアプリケーション回路 【4】その他の特徴 BD8160EFVのDC-DC部分はともに高耐圧・大電流FETを内蔵しており、低発熱・高効率で出力を供給することが可能である。フルHDパネル等の駆動電流の大きいパネルに関して、特にメリットを発揮できると考えられる。正負2出力のレギュレーテッドチャージポンプも外付け部品最少で安定した出力電圧を得ることができ、前述のように起動タイミング制御が可能である。 保護回路としては、異常発熱時に回路をシャットダウンする温度保護回路、出力ショート時等過大電流からFETを守る過電流保護回路、昇圧DC-DCの過大電圧を制限する過電圧保護回路、低入力誤動作防止回路を内蔵し、負荷の異常動作時にも対応できる仕様となっている。 また、パッケージは背面サーマルPADの付いたHTSSOPマイナスB28パッケージを採用し、放熱面においても省スペースのまま最大限の放熱性が得られる(図5)。 【図5】外形寸法図 終わりに今後もロームではLCDマイナスTVパネルアプリケーションに最適な付加価値を内蔵したシステム電源を開発し、市場の拡大に貢献していく方針である。 <ローム(株)LSI商品開発本部> |