小型化・高速化で広がるIrDA


近年、移動体通信の中核をなす携帯電話はますます多機能化が進み、カメラ・音楽プレヤー・インターネットブラウザ・ラジオ・JAVAアプリケーション・テレビ受信・電子決済など、進化し続けている。

携帯電話の多機能化が進むに従い扱われるデータ量も増加し、各メディア間のデータ通信方法も重要な要素となっている。データ通信の方法にはフラッシュメモリーを直接他の機器に持ち運ぶ方法や、USBケーブルを使ってPCに接続する有線を用いた方法の他に、赤外線や電波を使った無線通信でデータを移動する方法がある。なかでも無線通信はケーブルレスという利便性からモバイル機器との相性がよく、多くの携帯電話に何らかの無線通信モジュールが搭載されている。

■IrDAとブルートゥース

現在、携帯電話に搭載されている主な無線通信には、赤外線を利用したIrDAや2.4Gヘルツの周波数帯電波を利用したブルートゥースなどがある。

IrDAとブルートゥースはそれぞれに特徴があり、それらを生かした利用方法で併用されている(表1)。

〔表1〕IrDAとブルートゥースの特徴


とくにIrDAは市場への普及が進んでおり、汎用性の高い部品となっている。このIrDAの特徴とアプリケーションの動向について以下に述べる。

■IrDAの仕様と特徴

IrDAとは1993年に設立された赤外線通信の業界標準化団体“Infrared Data Association”の総称であり、赤外線を利用した通信の応用などについて技術的な検証や、あらゆる機器での相互利用を実現化するための共通規格をはかっている。

以下に、IrDA Physical Signaling Layer Ver.1.4で規定される「通信距離」、「通信速度」について示す(表2)。

〔表2〕Ver.1.4に規定される「通信速度」と「通信距離」
通信速度 SIR 2.4kbps〜115.2kbps
FIR 2.4kbps〜4kbps
VFIR 2.4kbps〜16kbps
通信距離 Standard ≧1cm
LowPower ≧20cm

また、IrDAでは通信の角度についても定められており、15度の立体角を有効通信範囲としている。指向角を規定し、直進性が強い赤外線を用いることにより、IrDAはセキュリティ性が高い通信を可能としている(図1)。


〔図1〕IrDAの通信角度規格

■IrDAモジュールの技術的動向

IrDAはPCや携帯電話のみならず多くのアプリケーションで利用されており、それらが使われる環境もさまざまである。

例えば、FA機器内部において複雑な配線が必要となるケーブルの代わりにIrDAを用いる場合、IrDAモジュールはFA機器内にある他の電子部品から出る多くの電磁ノイズにさらされることとなる。「電磁ノイズ」は、PINフォトダイオードとLSI受信回路間をつなぐ金ワイヤ(図2のA部)がちょうどアンテナの役割を果たすことによって回路内部へ侵入し、通信不良の原因となる。


〔図2〕受信系ブロック図

そこでロームのIrDAモジュールでは「電磁ノイズ対策」として、PINフォトダイオードから入ってくる波形信号と、ワイヤに乗ってくる電磁ノイズをダブルワイヤリングでLSIの受信回路に差動入力させ、ワイヤに乗る電磁ノイズのみを同相除去する工夫を行っている(図3)。


〔図3〕ローム製IrDAの耐電波ノイズ設計

他にも屋外に設置されている自動販売機内の在庫状況をIrDA通信でハンディターミナルを使って抽出する場合は太陽光に、血圧計や体重計のデータをIrDA通信でワイヤレスにレシーバ機器に送る場合は蛍光灯や白熱灯など、それぞれさらされることとなる。

太陽光・蛍光灯・白熱灯などの外乱光にIrDAモジュールがさらされると誤作動の原因となる。

ロームでは、この外乱光に配慮した設計を行うことにより、リーク電流の発生や、外乱光の影響によるBER(ビットエラーレート)の増大を抑えることに成功した(図4)。


〔図4〕ローム製IrDAの耐外乱光ノイズ設計

■市場の動向とロームの製品予定

現在、市場から求められるIrDAモジュールの動向としては、大きく「小型化」と「高速化」の2つがある。以下にその詳細を述べる。

1.小型化
携帯電話の多機能化に伴い内部に搭載される部品点数も増加する傾向にあり、従来どおりの電子部品サイズのままでは筐体に収まりきらなくなってきている。そこで、筐体のサイズを変えずに多機能化を進めるためには、電子部品を小型化する必要がある。

ロームではこのたび、リモコン送信機能付きSIR規格IrDAとしては“世界最小サイズ”となる「RPM841-H11」の量産を開始した。「RPM841-H11」は、従来機種との容積比が約50%となる超小型パッケージである。

小型化することにより、今まで設置が困難であった筐体の端にも容易にモジュールを収めることができるようになり、他の部品を実装するためのスペースも広く取れるようになった。これにより、セットメーカはより自由度の高い筐体設計をすることが可能となった(写真、図5)。


〔写真〕従来品(右)とRPM841-H11(左)のサイズ比較


〔図5〕小型IrDAのサイズメリット

また、モジュールの位置がセットの端に置かれる傾向から、外部からの静電気に対する配慮も求められる傾向にあり、製品の小型化も単に小さければよいとはいえない。

2.高速化
IrDAにとって小型化に加え、もう一つのトレンドとなるのが高速化である。現在国内で使用されているIrDAはSIR規格が主流となっているが、来年度中にもFIR規格へと徐々に移行していくと予想されている。FIR(4Mbps)への移行は、多機能化が進み、扱われるデータ量が飛躍的に増加した携帯電話市場への必要条件になりつつある。

このような移動体通信の高速化は、データ通信に膨大な時間を要し辟易してきたユーザーを満足させるばかりでなく、これまで小型かつ容易な無線通信では不可能と考えられてきたアプリケーションの広がりを実現している。例えば、DVDやTVといった民生機器との通信や、データ量の大きい動画や音声の通信などが検討され始めている。

また、一方でハードウエアの高速化だけでなく、ソフトウエアでも「IrSimple」と呼ばれるIrDAの新しい規格が高速化に一役買っている。「IrSimple」とは“IrDAで煩雑だったプロトコルを効率化することによって、ソフトウエアへの負荷の増大を最小限に抑え高速化を実現する”規格である。図6はデジタルカメラの画素数としては一般的な2Mピクセル相当の画像データを送るのにかかる時間を各規格で分類したグラフである。


〔図6〕高速化に向かうIrDAモジュール

IrDAモジュールのFIR対応における最も大きな課題のひとつが『消費電力の増加』である。IrDAモジュールを高速化に対応させる場合、応答性を早める必要がある。応答性を早めるためには、大量の電流を流す必要があり、これが結果として消費電力の増加に繋がっている。

FIR対応IrDA「RPM971-H14」は、これまでのFIR対応IrDAモジュールと比べ約1/2の消費電力に抑えることに成功した。

3.ロームの製品ラインアップ
ロームでは主に消費電力を抑えた「Low Power規格」に準拠したIrDAモジュールをラインアップしている。次にロームのIrDAモジュールのラインアップを示す(表3)。

〔表3〕ロームの商品ラインアップ


■まとめ

市場におけるIrDAの「小型化」「高速化」のトレンドはこれからも続いていくだろうと予測される。このトレンドが加速すれば、今まで以上にIrDAの搭載機器は増え、その用途は広がりを見せるだろう。ロームはこれからも、市場のけん引役として魅力的な製品を提供し、市場の発展に貢献していく予定である。
 
<ローム(株)ディスクリート・モジュール生産本部>