アルプス電気は、FDD用スピンドルモーター開発やHDDヘッド駆動用VCM(ボイスコイルモーター)開発などストレージ事業で培ってきた電磁駆動技術を駆使して、新たなアクチュエータの商品開発に挑戦し、新しいビジネスを創出することを目的としてきた。そして、このほどフィードバック市場に向けたデバイスの商品化にメドをつけることができた。(写真、表) フォースリアクタ 〔表〕フォースリアクタの主な仕様
現在、スイッチのON/OFFやデータの入力、または情報の付加の際のフィードバック(含む知覚)方法として、音(声)や光・色、形状(凹凸、ザラザラなど)、熱、においなどがあげられる。 ゲーム機用コントローラや携帯電話の着信機能で用いられている偏心振動モーターによる振動によるフイードバック(含む知覚)は、今や標準化してきている。 最近、タッチパネルや静電センサー、フェザータッチセンサーなどのタクティール感のない入力センサーが搭載されたセット製品が増えてきている。一般に、これらの入力センサーは、入力したことに対してフィードバックがないため、実際に入力できたのかどうか判別が目視する以外ではできない。そこで入力に対する触感によるフイードバックを付加することにより、より使い易いものとなる。 さらに確実な入力だけでなく、視覚に頼らないことによる安全性の確保やユニバーサルデザインの観点から、フィードバックデバイスのニーズが高まっていきている。 当社はこうしたフィードバック市場に日を向け、短振動フィードバック技術を開発して、既存の偏心振動モーターでは得ることのできない感触の出せる振動デバイス、フォースリアクタの製品化を進めてきたのである。 振動感をいろいろ変えたり、タクティール感を付加したりするためには、入力に対する振動応答性を速くすることが必要である。偏心振動モーターによる振動は、モーターの回転開始から振幅が最大になるまでの時間が長いため応答性が遅くなる。 また、回転開始から停止までのトータルの時間(振動収束時間)が長い。この振動収束時間が長い場合には、振動感触としては"重さ"を感じるものの、"キレ"は感じられない。 当社の調査では、100ms以下という収束時間がキレのある振動感触上、重要なポイントであることが分かった。 当社は、偏心振動モーターのような長い振動収束時間に対して、100ms以下の短時間で収束する振動を"短振動"と定義付けた。 振動開始から停止までの一連の流れが振動感触を生みだし、キレのある振動感触を生み出しているのである(図)。 フォースリアクタは、偏心振動モーターのような回転型やスピーカ駆動に代表されるボイスコイル型でもなく、電磁石型アクチュエータを採用して速い応答性と短い振動収束時間を得ている。振動子であるコア付きコイルを片持ちの格好でスプリング(板バネ)によって支え、コアの両側にエアギャップを置き、2極のマグネットが配置されているという大変簡単な構成である。コイルに電流を流すと振動子は、電磁石となり磁気的に安定する方向へ移動し、電流を切った後はスプリングによる自由振動を行う。 また、この2極のマグネットが磁気バネとしてスプリングの自由振動を抑制する方向に働くことで短い振動収束時間を実現した事が、短振動フィードバック技術の大きな要素になっている。 さらに、このスプリングンの固有振動数(共振周波数)に同期した電気信号によって駆動させることで大きな振動新幅となり、結果として大きな加振力を得ることができる。原稿では1.5ms間隔(Duty50%)のパルスを基本振動信号としている。 現在量産されているフォースリアクタは、外形寸法が7.5×5.0×35.0mmと細長い形状をしており、タッチパネルの額縁部に実装が可能で一般的なモーターなどの円形形状に比べ実装自由度が高いものになっている。 振動素子としては、電磁アクチュエータ以外に圧電アクチュエータがある。しかし、一般に圧電アクチュエータは駆動電圧が高いために携帯機器には向いていない。この点、フォースリアクタは3〜5Vの駆動電圧ですむことも電磁アクチュエータを選択した理由のひとつである。 また、圧電アクチュエータは、圧電素子以外に専用の駆動回路が必要となり、トータルコストが高くなってしまう。フォースリアクタは、単純なパルスで駆動できるため、基本的にはトランジスタ1個を回路に準備するだけですむため、圧電アクチュエータに比べて大幅に下回る価格を実現できる。 現在量産中のフォースリアクタは、タッチパネルを例にすると、3.5インチ型から10インチ型に対する振動フィードバックをサポートできるため、PDAやカーナビケーション、複合機(複合コピー機)などの幅広いセット製品に適しており、入力の際の確実性はもちろんのこと、視覚に頼らない安全性の確保やユニバーサルデザインの観点からのフィードバックのニーズの応えることができる。 また、従来の偏心振動モーターにはない新しい振動感触を、携帯ゲームや据置ゲーム用コントローラに発生させ、より臨場感のあるゲームを演出することが可能となる。 タッチパネルやゲーム以外にも、短振動フィードバックによる多彩な振動感触が出せる特徴を生かして、さまざまなアプリケーションへの展開が期待される。 当社の最終目的は、直接的な操作の手がかりを提供することのできる触感フィードバックをヒューマン・マシン・インターフェイスの一つとして定着させることである。 人に優しい触感フィードバックの実現のためには、短振動技術を深耕していくことが必要であるが、単に振動して情報を伝達するだけでなく、情報の内容、状況の変化(場面)で振動の強さやパターンを変えることによって情報の伝達ができれば、さらにさまざまな用途が想定されるため、それらの駆動方法についての最適化技術の開発が重要な課題となってくる。 また、現行のフォースリアクタは、比較的サイズの大きな機器を想定しているが、携帯電話やデジタルカメラなどの携帯機器に向け、小型薄型を図る必要もある。 加えて、短振動フィードバックだけでなく、偏心振動モーターに見られるような連続的な振動も駆動可能とするデバイスの開発や、入力センサーとの組み合わせによって、今までにない、より良い操作性が得られるユニット(モジュール)も開発中である。 <斉藤幸一:アルプス電気潟yリフェラル事業部開発部> |