高インピーダンス積層チップビーズの技術

吉野真:TDK(株)回路デバイスB.Grp インダクタGrp積層製品技術部



  ◆はじめに
 TDKが進める、超小型・積層チップビーズの高インピーダンス化のロードマップは図1に示すとおりであるが、ここでは2004年4月に商品化した「超小型・積層チップビーズ MMZ0603の高インピーダンス・シリーズ」の開発経緯および開発技術について解説する。
近年、携帯電話やデジタルカメラ(DSC)などのポータブル機器は著しい進展を遂げている。携帯電話を例にとれば、カメラ機能やTV・FM受信機能などの付加による多機能化、100万画素を超えるカメラや高画質液晶ディスプレイなどの高性能化、そしてこれら多機能化・高性能化しながらも携帯性を追求した薄型・小型化を実現している。
多機能化・高性能化となることで、搭載される部品の点数は増加するのに対し、セットの薄型・小型化、これに相反したディスプレイの大型化により、部品の搭載スペースは小さくなるため、高密度実装や搭載部品の小型化が必要不可欠となっている。
搭載部品には、TDKが扱っているEMC対策部品も含まれており、市場からの小型化への要求は強いものがある。

図1
クリックしてください。
製品および設計トレンドのロードマップ

  ◆製品開発
 このような市場要求に対応すべく、TDKでは2003年6月に「超小型・積層チップビーズ MMZ0603シリーズ」を商品化した。形状寸法は0.6×0.3×0.3mm(図2参照)であり、素体に用いているフェライト(磁性体)の持つ抵抗成分により、ノイズを熱変換して吸収するEMC対策部品である。それまで最小形状であった1005形状と比較すると、底面積では64%の削減、体積では約80%の削減を実現している。
製品ラインアップは図2および表1に示すように、インピーダンス周波数特性の異なる2つのシリーズを製品化した。1つは一般信号用向けのSタイプであり、インピーダンスはおよそ10MHzから上昇しブロードな周波数特性を有するものである。アイテムはインピーダンス値(at100MHz)が80Ω、120Ω、240Ωの3種類ある。もう一方は高速信号用向けのDタイプであり、およそ100Mヘルツからインピーダンスが急峻に立ち上がる周波数特性を示すものである。アイテムはインピーダンス値(at100MHz)が33Ωの1種類である。
 現在では、実装に関する技術の構築もなされており、携帯電話に搭載される電子部品は1005形状に取って代わり0603形状が主流となってきている。
しかし、1005形状の電子部品すべてが0603形状に切り替えられてきているわけではない。形状が小型になることにより、電気的特性(チップビーズではインピーダンス)の高特性取得が困難になるため、1005形状での特性をカバーし切れず置換出来ないという問題がある。製品形状別にラインアップされているインピーダンス値(at100MHz)の範囲をまとめたものを表2に示すが、1005形状ではインピーダンス値が高いもので1500Ωまで(最も需要が高いのは240〜600Ωであるが)ラインアップされているのに対し、0603形状では240Ωまでしか取得出来ていない。
 このような状況において市場からは、小型かつ高インピーダンスを有するチップビーズの要求が増しつつある。TDKではその要求に迅速に応えるため、早くから開発に取り組み、そして2004年4月に商品化に至った。ラインアップは、一般信号用向けのSタイプで、取得インピーダンスが従来製品最大である240Ω(以下、従来製品と記す)の約2倍にあたる470Ωと、2.5倍にあたる600Ωの2種類である。高インピーダンスであるため、高いノイズ除去効果が得られる製品である。
インピーダンス周波数特性を図3に、電気的特性一覧を表3に示すが、図3より大幅な特性向上が見て取れる。

  図2
クリックしてください。
  表1
クリックしてください。
  表2
クリックしてください。
製品形状およびインピーダンス周波数特性
電気的特性一覧
製品形状別特性ラインアップ範囲
  図3
クリックしてください。
  表3
クリックしてください。
インピーダンス周波数特性
電気的特性一覧


  ◆製品開発技術
 この高インピーダンス・シリーズを製品化するにあたっては、TDK独自の蓄積された材料技術と多層積層技術、そして最新の要素技術を駆使している。積層チップビーズは、フェライトシートからなる積層体に内設された導体(Ag)パターンが、スルーホールを介してらせん状に周回し、コイルを形成しているが、より高いインピーダンスを得るために、シミュレーションによる構造の最適化を行った結果から、導体パターンの細線化とコイル巻き数の増大化を図った。
導体パターン幅を従来製品の約35μmから約30μmへ約85%の細線化をしているが、部材選定・管理の強化とそれに適正となる導体塗布条件を見いだしたことにより、ファインパターン形成が実現されている。また、コイル巻き数の増大化は、必要となる巻き数を得るためフェライトシートの薄膜化を行っているが、薄膜化だけを取ってもコイル長が短くなることから特性向上効果があり、高インピーダンス化において相乗効果をもたらしているのである。
 従来製品の約10μmから約7.5μmへ約75%の厚みとしているが、この場合、コイルの間隔(層間)が狭くなるため、絶縁性の維持・向上が重要なポイントとなる。その方策として取られた手段は、フェライトシートを緻密(高密度)にすることである。
フェライトシートは、フェライト粉とバインダーとを溶剤中で混錬・分散させペースト状にしたものをフィルム上に塗布しシート状に成形するが、ペースト作製の段階で分散性をより高めたことで緻密なシートが得られている。
以上のような開発技術と完全モノリシック構造により信頼性の高い製品となっている。そしてこの技術は従来製品にフィードバックされ、従来製品の更なる高信頼性に寄与している。
環境対策面にも配慮しており、従来製品と同様に、鉛および鉛化合物は一切製品には含まれておらず、鉛フリーハンダにも対応した完全鉛フリー製品である。また、RoHS(欧州危険物質使用制限指令)にも対応している。



  ◆今後の動向
 高インピーダンス・シリーズ開発で得た技術を踏まえ、新たにインピーダンス周波数特性の異なる0603形状のチップビーズの開発に取り組んでいる。100MHz以上の帯域でのノイズ除去を目的とした高帯域対応タイプ(Yタイプ)であり、アイテムはインピーダンス値(at100MHz)が120Ω、240Ω、470Ωの3種類をラインアップし、2004年夏に商品化する予定である。Yタイプ240ΩとSタイプ240Ωのインピーダンス周波数特性比較を図4に、Yタイプ3アイテムの電気的特性一覧を表4に示す。
また、さらなる小型化の要求にも対応すべく、0402形状の極小・積層チップビーズの開発も行っており、Sタイプ品が2004年秋には商品化される予定である。TDKでは、今後も進展してやまぬポータブル機器の多機能化・高性能化、そして小型化に伴う、EMC対策部品への市場からの要求に、迅速かつ幅広く応えていくよう、新製品の開発を進めていく所存である。

図4
クリックしてください。
  表4
クリックしてください。
インピーダンス周波数特性
電気的特性一覧

最新トレンド情報一覧トップページ