〔写真1〕車載向け耐サージチップ抵抗器ESRシリーズ(2012サイズ、3216サイズ) <車載電装の動向> 多くの産業の中で、自動車産業は今後さらに発展する代表的なものであり、世界の自動車生産台数も7,000万台に近づきつつある。現在の自動車においてはエレクトロニクス化が進み、エンジン制御や駆動、姿勢制御の高性能化やカーナビゲーションの情報通信の普及などが実現している。また、今後、衝突などの事故を回避する予防安全機能のための車載カメラやレーザーレーダーなどの搭載も普及していくと見られる。 最近では、環境や原油高の問題からハイブリッド車の普及もより加速され、さらに電気自動車などの開発にともない、ますますエレクトロニクス化が進む傾向にある。 自動車にはエンジンコントロールはもとより、50〜60製品にもなる多くのコンピュータやセンサーが搭載されており、自動車走行の大部分は電装製品により制御されている。 また、これらの電装製品は1,000個を超える電子部品から構成されているものもあり、1つの部品のトラブルにより重大な故障を引き起こす可能性がある。このため電子部品には高い性能や信頼性が要求される。 これらの電装製品は室内空間確保のため車室内よりもエンジンルームなどに設置されることが多く、電子部品は大きな温度変化や高い湿度、腐食雰囲気などの過酷な環境にさらされることになる。また、部品にかかる負荷は雰囲気だけでなく、電気的にはサージの発生などが考えられる。このような使用環境を想定し、近年チップ抵抗器においてもさまざまな要求があげられている。 チップ抵抗器にも車載環境を想定した性能向上の要求が高まっており、特に以下に示す性能が重視されている。 (1)繰り返し温度変化における高い接合強度 <耐温度サイクル特性> (2)サージ電圧に強い<耐サージ特性> (3)硫化環境に強い<耐硫化特性> ((1)耐温度サイクル特性について) 車載環境において、温度変化は低温マイナス55℃〜マイナス40℃、高温プラス105℃〜プラス155℃、低温マイナス高温間の繰り返しを1000〜3000サイクル程度と想定されている。このような環境下において、3216サイズ〜6432サイズの汎用チップ抵抗器は実装基板とのハンダ接合部でクラックの発生する可能性が高いといわれている(図1)。 〔図1〕温度サイクルによる接合部クラック(5025サイズ) これは実装基板とチップ抵抗器との熱膨張係数の差に起因しており、温度変化のサイクルにより繰り返し応力が発生し、ハンダ接合部にクラックが発生すると考えられている。このメカニズムから接合している電極間距離が長いほどハンダ接合部にかかる剪断応力が高くなる(図2)。 〔図2〕ハンダ接合部に発生する応力モデル 逆に電極間距離が小さい、すなわち、小型品であればクラックの発生を低減できることになる。 このような理由から、車載用としては3216サイズより大きいチップ抵抗器の使用が制限される傾向にある。しかし、小型になるほど使用できる定格電力、最高使用電圧や耐サージ特性が低下するため、使用範囲が制限されることとなる。すなわち、温度サイクルに対する接合強度と電気的性能は相反する特性であることがわかる(図3)。 〔図3〕温度サイクルに対する接合強度と電気的性能 温度サイクルに対する接合強度の向上には、接合する電極間の距離を小さくする必要があるが、これを実現するために、従来は製品の短辺側に形成していた電極を長辺側に形成する方法がある。長辺電極化により電極間距離が小さくなるため発生応力が低減し、さらに接合面積も増加するので同じ製品サイズであっても温度サイクルに対する強度が向上する。 このことにより、車載使用での高い接合信頼性が実現可能となる(図4)。 〔図4〕温度サイクル評価 5025サイズ(-30℃/+105℃ 3000CYC) しかし、電気特性面では電極間距離が短くなるために耐サージ特性が低下する傾向にあるが、後に述べる耐サージチップ抵抗器の技術を応用することにより、耐サージ特性を向上させることが可能となっている。ロームでは、長辺電極品は現在LTRシリーズとしてサンプル対応中である。 ((2)耐サージ特性について) 一般的なチップ抵抗器の場合、レーザーを使用し抵抗体幅を減少させることにより抵抗値調整を行う方法が一般的であるが、抵抗体幅が減少した部分に負荷が集中することにより耐サージ特性が低下する(図5)。 〔図5〕抵抗器調整後のトリミング設計 耐サージ特性の向上のためには抵抗値調整を行わないことが有効であるが、抵抗値許容差が±10〜20%と大きく、近年の高精度の要求には対応できない。 このため、ロームは、新たに抵抗体への電圧の局部集中をなくす抵抗体形状およびトリミング形状を設計し、高精度印刷と高精度トリミング技術を用いることにより耐サージ特性が高く(静電気破壊特性 3KV)、高精度な抵抗値(±0.5〜5.0%)を実現した。 これらの製品はすでに開発を終え、ロームの耐サージチップ抵抗器ESRシリーズ(2012サイズ、3216サイズ)として提供中である(図6)。 〔図6〕耐サージチップ抵抗器ESRシリーズ ((3)耐硫化特性について) 硫黄の存在する環境であった場合、1次電極部分が硫化され、断線する可能性がある。一般的に電極として使用される材料はAg(銀)系材料であり、チップ抵抗器の一般的な構造から、抵抗体と外部とを接続している1次電極は、外部雰囲気にさらされやすい(図7)。 〔図7〕一般的なチップ抵抗器構造と硫化個所 電極部分が硫黄雰囲気に触れた場合、銀が硫化され硫化銀となり断線する。このようにチップ抵抗器の硫化は電極材料とその構造に起因することから、材料的には1次電極を硫化しない材料に変更する。構造的には1次電極を外部雰囲気にさらされない構造に変更するといった方法により耐硫化特性の向上を図ることができる。 硫化しない1次電極材料としてはAu(金)系材料があり、信頼性がもっとも高いといえるが、高価な材料なため、製品価格も高くなり、コスト的には使用が難しくなる。硫化しない構造としては1次電極が外部に露出しないように保護層を導入するなどがある。1次電極にAg系材料を使用する限りは硫化の可能性があり、1次電極をAu系材料とした場合に比べて信頼性は低いといえる。しかし、汎用品に比べれば高い耐硫化特性が得られ、Au系材料を使用するよりもコスト的に有利である。 耐硫化に関しては、顧客の求めるコストや耐硫化特性のレベルに応じた製品設計が必要となる。現状ではAu系材料ではコスト面が厳しく、オーバースペックであるという考えから、Au系材料を使用しない方法での耐硫化要求も出始めている。 環境問題や石油価格の高騰といった深刻な問題を受けて、ハイブリッド車の需要の高まり、また、東京モーターショーではブレーキやステアリングを電気信号で接続する技術や多くの燃料電池車、電気自動車の展示など、車のエレクトロニクス化のさらなる進展がみられている。それにともない電装製品、電子部品へのさらなる高性能、高信頼性の要求が高まっていくと考えられる。 ロームは従来からチップ抵抗器のパイオニアとして、世界最大の生産量の維持、確保に努めており、ユーザーニーズにいち早く対応した製品開発を行ってきた。これからもロームのクリエイティブな創造性、デバイス技術等を十分に発揮し、さらに開発の速度を上げて顧客の要求に応えてく方針である。 <ローム(株)ディスクリート・モジュール生産本部>
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