科学技術振興機構(JST)の研究グループはこのほど、多層膜に覆われたガラス基板上の研磨痕や多層膜成膜中に混入した異物に起因する位相欠陥の3次元像観察が可能な極端紫外線(EUV)顕微鏡を開発。これを用いて極端紫外線リソグラフィ(EUVL)用マスク上の微細な位相欠陥像の観察に世界で初めて成功した。 半導体製造技術は、2年に4倍の速度で高密度化が進み、2009年には32ナノメートルの最小線幅をもつLSIの実用化が予想されている。半導体デバイスの微細・高密度化は露光光源の短波長化によって実現されてきている。現在は、波長193ナノメートルのArF(フッ化アルゴン)レーザーが用いられている。その先の短波長光源としてはF2レーザーが期待されていたが、光学系を構成する材料CaF 2に複屈折性の問題があるため、最近は波長13.5ナノメートルの極端紫外線リソグラフィが注目されている。 EUVL露光装置はすでに実用化の見通しが立っているが、EUVL用多層膜を形成した反射型マスクの無欠陥化に多くの技術的課題を残している。32ナノメートル世代のマスクの多層膜表面と吸収体部分の最小欠陥サイズは30ナノメートルとされている。さらに多層膜に特有な問題として、ガラス基板上の研磨痕や成膜中の異物に起因する位相欠陥の検査が必要となる。 多層膜表面の欠陥については従来の真空紫外光(VUV)の散乱による測定の高度化で検査ができると考えられているが、多層膜に覆われた深い部分の異物などに起因する位相欠陥の検査は、従来法では不可能である。このため、EUVL用マスクの表面・吸収体パターンの欠陥のみならず、多層膜内部の欠陥の高速かつ高分解能な検査法が求められている。 同様な研究は、つくばの半導体MIRAI研究所で進められており、レーザープラズマからのEUV光のマイクロビームを被検査面に照射し、その暗視野像を20倍のシュバルツシュルト光学系により拡大してX線CCDカメラで観察するという試みが行われている。しかし、この検査法は散乱光を検出する方式のため、欠陥の有無を知ることはできるが、欠陥のサイズ、種別などの情報は得られないとのこと。 この研究で開発を進めているEUV顕微鏡システムは図1のようなもの。 〔図1〕EUVマスク検査のための極端紫外線顕微鏡の構成 この装置は、30倍のシュバルツシュルト光学系と200倍までの像拡大が可能なX線ズーミング管で構成され、露光光と同一波長の13.5ナノメートルのEUV光で直接マスクの像を拡大観察する。光学系の理論的な解像度は20ナノメートルで、マスク面上の30ナノメートル以上の欠陥の観察が可能である。 また、波長13.5ナノメートルの光は一部多層膜を透過するため、これによりガラス基板上の研磨痕や異物に起因する位相欠陥の形状・大きさなどの多層膜構造内部の3次元構造を検査することができる。 基板に擬似欠陥を設け、その上に多層膜を形成した時の断面が図2で、擬似欠陥の高さやサイズによっては最上層への影響が消えてしまう。 〔図2〕擬似欠陥の模式図 図3は今回検査に用いたガラス基板にあらかじめ作成した擬似欠陥の断面の透過電子顕微鏡像。 〔図3〕擬似欠陥の透過電子像 基板に形成した高さ5ナノメートル、幅90ナノメートルのパターンの上に多層膜を形成すると、最上層部では表面での散乱光を検出できないほどのなだらかな突起となっている。 図4(a)は開発した装置による擬似欠陥の観察結果。擬似欠陥はどれも高さ5ナノメートル、長さ400マイクロメートルで、図の上部から幅90、100、110ナノメートルに対応しており、きれいに観察できている。図4(b)は幅90ナノメートルの擬似欠陥の拡大像。
100nm、110nm(高さ5nm、長さ400μm)の欠陥(b)幅90nmの観察像 図5は幅500ナノメートルの擬似欠陥の観察例で2本のラインとして観察されている。これは線幅が広く、擬似欠陥の両サイドのエッジで生じた位相変化をとらえているため。 〔図5〕500nmの擬似欠陥観察像 この研究では、EUV顕微鏡を用いて擬似欠陥の観察を進め、初めて多層膜内部の位相欠陥像の観察に成功した。EUV顕微鏡では表面の形状に依存することなく、内部の反射率分布をとらえることが可能なことを示している。 今回の成果は擬似欠陥であるが、多層膜内部の欠陥を表面の形状に依存することなく検出可能なことが明らかになり、多層膜表面上の欠陥も多層膜に厚く覆われたガラス基板上の欠陥も検査可能であることを明らかにした。 今後は装置メーカーと共同で、高速・高解像度な検査装置の開発を進めるとともに、埋め込み欠陥がどこまでデバイスに影響を与えるかについての定量的な検討を行い、EUVL用マスクの無欠陥化を進めるとしている。 <資料:科学技術振興機構>
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