特集:フィルタ・水晶デバイス技術
A/V機械用VCXO内蔵クロックジェネレータ



[開発背景]

近年のデジタル技術の飛躍的進歩に伴い、ほとんどのA/V関連機器がデジタル化へと進んだ。デジタル記録機器、特にDVD・HDDレコーダ、デジタルスチルカメラ(DSC)などの進歩が著しく映画に代表される大容量のA/Vデータも画像、音声の劣化がなくデータ圧縮及び記録が可能となった。同様にTVもデジタル化とフラットパネル化が進み、液晶TV、PDP-TVが大画面化を競っている。

また、デジタル機器においても従来からあるアナログA/V機器からの信号も高画像同様に高画質を考慮してデータを取り込む必要がある。フラットパネルのデジタルTVやDVD・HDDレコーダなどのデジタル信号機器においても、外部からのアナログA/V信号に精度良く同期を取り、データをサンプリングし、高品質のデジタル信号に変換して、記録もしくはTVに表示できなければならない。高画質、高音質を実現するためには、外部入力信号に同期したA/Dのサンプリングクロック及び内部信号処理用に同期した精度の高いクロックが必要である。また、デジタル放送に使用されるMPEG2-TSの基準周波数27MHzに対し、高精度に同期した信号処理が必要となる。

これらデジタル記録機器で代表されるDVDレコーダやデジタルTVでは、このため高精度に信号同期をとる技術としてVCXO(電圧制御型水晶発振器)の需要が高まってきている。MPEG2の信号を処理する上では複数のクロックが使用され、かつ高画質、高音質が各セットメーカーの特色を出す重要な要素であり、それらを左右する処理クロック自体にも、それぞれが高いC/N(キャリア/ノイズ)比、低ジッタが要求される。なかでも録画、表示画像の画質への影響が大きいビデオクロックの高C/N比とデジタル放送信号との同期を実現するために、各社ビデオ用クロックの扱いには細心の注意を払っている。

システム上複数のクロックを必要とするデジタルAV機器において、これらクロック間の同期を実現するためにクロックジェネレータに代表される複数のPLLを搭載したクロック生成ICと、単品VCXOおよびこれに必要な可変コンデンサを使用してシステムを実現していたため、部品点数が多くなっていた。ロームではA/V機器用途、特にDSC、DVDプレヤー、DVDレコーダなどで実績のある高C/N、低ジッタクロックジェネレータのシリーズ化を行い、さまざまなシステムに対応できるようにしている。今回、この技術を用いて従来別々に開発していたクロックジェネレータとVCXO機能を1chipに搭載したAV記録機器用VCXO内蔵クロックジェネレータ「BU2365FV」を開発した(写真)。


ロームのVCXO内蔵クロックジェネレータ「BU2365FV」

[機種概要]

BU2365FVはデジタルビデオ信号を受信するDVDレコーダ用に最適な製品である。従来、高価なVCXOを使用して実現していた同期システムを一般のクロックジェネレータ回路に使用されている安価な水晶振動子1つを接続することで実現可能である。VCXO部に使用する水晶振動子の周波数は27Mヘルツで、PLLで生成できるクロックは、54.0000MHz(ビデオクロック)、33.8688MHz(44.1kHz CDオーディオクロック)、36.864MHz、24.576MHz、18.432MHz(48kHz DVDオーディオクロック、DVクロック、システムクロック)、27MHz(VCXOダイレクト出力)の計6種類。さらに、DVDシステムで使用頻度が高い27MHzクロックを分配できる駆動能力のあるBuffer回路も搭載している(図1)。


〔図1〕VCXO内蔵クロックジェネレータ「BU2365FV」のブロック図

・PLLブロックの特徴

各クロックの生成にはローム独自のPLL技術を採用し、高C/N、低ジッタの高性能化を実現した。デジタルビデオ信号は、映像のデジタルデータをD/Aすることでアナログビデオ信号に変換される。ビデオ信号の評価基準である輝度のS/N、色のA/M、P/Mノイズ特性のうち、色のP/MノイズはD/Aするクロックの性能(C/N)で決定される。BU2365FVのビデオクロックを使用することにより高画質の目安となる色のP/Mノイズ-65デシベルを容易に実現可能である。

デジタル音声信号はデジタルデータをD/A変換している。変換されたアナログ音声信号は通常、数kヘルツの周波数に再生されるため、D/A用のクロックのLong-Term-Jitter(例えば1000クロックごとのJitter)が重要なパラメータとなり、その値は音声の評価基準である歪率を大きく左右する。BU2365FVのオーディオクロックは、歪率0.002%以下が十分実現可能な高精度のクロックである。また、これらのオーディオクロックはCD/DVDクロックの切り替えシステムが内蔵されている(図2、3)。


〔図2〕高C/Nクロック
(画像用PLL 54MHz出力)



〔図3〕低Long-Term-Jitterクロック
(音声用PLL 36.864MHz出力)

・VCXOブロックの特徴

VCXOは水晶振動子を使用した場合、VDD=3.3V、T=25℃で周波数感度(周波数引き込み範囲)は±45ppm(typ)、周波数感度線形性(引き込み動作の感度)は±10ppm(max)であり、周波数安定度は±15ppmを実現。VCXO外付け部品は、従来のクロックジェネレータと同様の周波数微調整用のコンデンサと励振レベル調整用の制限抵抗のみで、高価な可変コンデンサは不要である(図4)。


〔図4〕VCXO入力電圧特性-出力周波数特性

・Bufferブロックの特徴

高駆動能力Bufferは50pF駆動可能な出力を2本搭載しており、システム全体へ27MHzクロックを分配するため部品の削減に貢献できる。出力delayは8nsec以下、skewは同一負荷駆動時±500psec以内を実現した。

・その他の特徴

IC自体は3.3V単一電源動作。動作消費電流は出力無負荷時で55mA、パワーダウン時は1μA以下である。また、電源投入後1msec以内に自動的に安定動作状態となるので、電源の立ち上げ状態などに左右されることなく安定に動作スタートできるため、Power-Onリセットなどのシーケンスは全く不要である。また、1chipで必要なクロックすべてをPLLにて生成することで、部品点数削減、システムの簡略化、Low-Cost化のメリットに加え、PLLならではのすべてのクロックの完全同期が実現でき、とくにAudio/Video信号の同期処理に最適なシステムが簡単に構築できる。

・パッケージ

IC形状としては、鉛フリーパッケージに対応した24ピンSSOPで提供する(図5)。

・SSOP-B24
〔図5〕外形寸法図

[今後の展開]

これからもDVDレコーダやデジタルTVなどのデジタル機器は一段と進化し、高画質・高音質に対する要求も非常に厳しくなっていくことが予想される。ロームは高C/N、低ジッタクロックジェネレータのラインアップを強化し、市場の要求に合致した新製品開発を継続していく方針である。

<ローム(株)Multimedia LSI商品開発部>