特集:EMC・ノイズ対策技術
小型薄膜コモンモードフィルタの技術


はじめに

現在、コンデンサ、コイル等の電子部品の小型化に対する要求が非常に高い。

これはノート型PC、デジタルカメラ、携帯電話等に代表される電子機器の小型化、薄型化の動向によるものである。当然、この電子部品の小型化動向はコンデンサ、コイルのみではなく、EMC対策部品であるコモンモードフィルタにおいても例外ではない。

また、これらの電子機器は小型化のみではなく、同時に高画質データや動画等の大量データ処理も必要とされている。

その結果、電子部品にとっても形状の小型化のみではなく、当然ながら特性に対する要求も高くなっている。

今回はこれらの市場要求に対応し、現状品と同等の特性を維持し、小型で高密度実装に対応するEMC対策部品である小型薄膜コモンモードフィルタTCM1005シリーズについての技術紹介を行う。
小型薄膜コモンモードフィルタTCM1005シリーズ

製品概要

現在コモンモードフィルタとしては2.0mm×1.2mmサイズ(2012サイズ)が主流であり、小型タイプとしても1.25mm×1.0mmサイズ(1210サイズ)が一般的である。

今回紹介する小型薄膜コモンモードフィルタTCM1005シリーズは1.0mmL)×0.5mm(W)、厚さ0.42mm(T)のサイズであり、現状の小型タイプの1210サイズに比較しても、実装面積で約40%程度と大幅に小型化が実現されている。

1210サイズ(当社製品TCM1210シリーズ)との比較図を図1に示す。
〔図1〕製品形状

比較図から明確なとおり、製品面積で40%(60%ダウン)の小型化と同時に、製品厚で約70%の薄型化も実現している。このTCM1005の製品外観を写真に示す。

また、製品の端子電極ピッチは現状の1210形状品とおよそ同等の0.5mmとしており、ICのピンピッチと同様であり、PCBパターンの配線上使用し易い形状となっている。

このように製品サイズは大幅に小型となっているが、使用しやすい端子電極形状をそのまま維持した構造となっている。

電気的特性

◇静特性

部品の小型形状のほかに特性も重要なポイントである。TCM1005シリーズでは、製品の小型化実現(面積40%、厚70%)のほかに、現状形状品1210同等の電気的特性も同時に実現している。

図2に1210形状品TCM1210-900-2Pとの電気的特性の比較グラフを示す。

図2-1はコモンモードノイズの除去効果を表すコモンモードインピーダンス周波数特性の比較グラフである。
〔図2-1〕コモンモードインピーダンス特性

TCM1005はTCM1210とほぼ同等の特性が得られていることが確認できる(高周波帯域ではTCM1210に比較しTCM1005が若干優れた特性である)。

図2-2には信号への影響を表すディファレンシャルモード伝送特性の比較グラフを示す。このグラフは伝送信号の減衰レベルを表したものであり、ディファレンシャル信号伝送に関してもTCM1005はTCM1210同等の特性が得られている。
〔図2-2〕ディファレンシャルモード伝送特性

信号伝送の特性を表すカットオフ周波数(減衰量-3dBの周波数)を比較しても、1210サイズの小型コモンモードフィルタとしては業界トップクラスの特性であるTCM1210-900-2P同等の3.5Gヘルツを実現しており高速伝送への対応も可能である。

◇実使用例

前項では電気的特性(静特性)を記載したが、ここでは実際の電子機器にTCM1005-900-2Pを搭載し評価した結果を紹介する。

デジタルカメラのUSB2.0ラインにTCM1005-900-2Pを搭載し、アイパターン評価を行った。

図3はコモンモードフィルタ搭載なし、TCM1210-900-2P搭載、TCM1005-900-2P搭載の各条件でのアイパターン評価結果である。

〔図3〕アイパターン評価結果

TCM1005搭載時においてもTCM1210同等の良好な結果が得られており、信号への悪影響を与えていないことが確認できる(むしろコモンモードフィルタ搭載なし時に比較し、信号波形の改善効果が確認できる)。

次にTCM1005-900-2Pを搭載することによる輻射ノイズの低減効果を図4に示す。
〔図4〕輻射ノイズ測定結果

評価機器はアイパターン評価同様デジタルカメラ(USB2.0ライン)を使用している。コモンモードフィルタが搭載されていない状態において一部の周波数で発生していたノイズ成分が、TCM1005-900-2Pの搭載により大幅に除去されていることが、この輻射ノイズ測定結果より明確である。

今回の用途例はUSB2.0の場合であるが、他のインターフェイス(IEEE1394、LVDS等)でも、TCM1005シリーズを使用することにより、大きなノイズ除去効果が得られることは確認済みである。

前述のとおり、TCM1210-900-2Pとの特性比較(静特性)、電子機器搭載時のアイパターン評価結果、および輻射ノイズの低減効果から、TCM1005-900-2PはTCM1210-900-2P同等の特性であることが確認できる。

小型実現のための技術

現状コモンモードフィルタとしては巻線タイプ等の別工法のコモンモードフィルタも一般的であるが、小型化の点では限界が考えられる。

薄膜タイプはこの小型化に最も適していると工法と考えられえる。しかし、薄膜工法でも1005のような現状品1210サイズの40%の小型を実現するためにはチップに形成されている導体パターンのファインパターン化が大きな課題となる。TCM1005ではこの課題となる内部導体パターンをTDK独自の薄膜磁気ヘッドのパターンニング技術を活用している。薄膜磁気ヘッドでは2μmピッチの導体形成が一般的であるが、この工法を活用することで内部の導体をファインパターン化することが可能となり、容易にコモンモードフィルタの小型化を実現した。

まとめ

電子機器は今後もさらに小型化、多機能化、高性能化が進むと考えられる。また、市場動向としては今後一層EMC対策の必要性も高まると考えられる。これによりコモンモードフィルタにも一層の小型、薄型の省スペース化が要求され、同時に特性に対する要求も高くなることが考えられる。

TDKではこれらの要望に独自のEMC設計理論や評価技術、そして薄膜磁気ヘッドのファインパターンニング技術を有効に活用することで、コモンモードフィルタに代表される高性能のEMC対策部品およびその他電子部品を開発していく所存である。

<伊藤知一:TDK(株)回路デバイスB.GrpインダクタGrp巻線EMC部製品技術課>