独自の「MSDL」技術
折り畳み式携帯電話の省配線とEMI対策に威力


はじめに

ロームは携帯電話向けに音源LSIや画像処理LSIなど各種ASSPを供給するトータルソリューションプロバイダとして顧客の信頼を得ている。その具体的な開発例として、複雑化の進む折り畳み式携帯電話のヒンジ部の配線本数を大幅に削減するソリューションとして開発された、ローム独自のMobile Shrink Data Link(以下、MSDL)を紹介する。

MSDLは、液晶パネルの高精細化により増加する携帯電話の画像データ伝送による配線本数や、高速伝送によるEMI対策をはじめ多くの課題を解決し、折り畳み式携帯電話のアプリケーションに大きく貢献する。

高機能(折り畳み式)携帯電話の課題

近年、携帯電話はメガピクセルカメラの標準搭載化から、さらにカメラの高解像度化への展開を見せている。このため携帯電話の内部で処理されるデータ量が大幅な増加傾向にあり、なかでも液晶パネルやカメラの高画質化、高精細化によって画像データの量が飛躍的に増大している。

とくに動画データを取り扱う場合、一定時間内に必要量の画像データを更新する必要がある。このため高解像度化、多色化は画像データ量を著しく増大させる要因となる。

これら画像データの配線は、折り畳み式の携帯電話ではヒンジ部を経由してアプリケーションプロセッサと液晶パネル、カメラ間に配線される場合が多く、この場合次の2点が問題となる。

(1)ユーザに対して訴求力のあるデザインが求められるなか、折り畳み式携帯電話で回転式や2軸ヒンジ部を持つ機種が次々に登場している。これらの機種では、筐体構造の複雑化が進んでいる。また、液晶パネル側にはカメラが搭載され、より一層の配線本数の増加が進んでいる。配線本数の増加が機構設計の困難さや信頼性に影響を与えており、この解決が大きな課題となっている。

(2)ヒンジ部の映像信号のデータ配線は高速でデータ伝送を行うため、EMIの原因となる。この影響を低減するため、RF(無線)特性の劣化対策強化が必要になる。従来のパラレルデータバス配線によるヒンジ部のデータ配線から放射されるEMIは、データ伝送レートが増加するにつれて増加する。ヒンジ部はアンテナの直近に配置される場合が多くRF(無線)特性への影響を低減するため、遮蔽(シールド)やフィルタ挿入などの対策を強化しなければならない。

MSDLの技術開発

ロームは従来、パーソナルコンピュータや液晶テレビ向けの液晶パネルモジュールのイン ターフェイスとして、事実上の標準仕様になっている、LVDS(Low Voltage Differential Signaling)方式の差動インターフェイスの分野で、高速かつ低EMI、低消費電力で業界トップクラスの技術、ノウハウを有している。それらの技術と携帯電話用のシステムLSI化技術を組み合わせることで、折り畳み式携帯電話の課題を解決する新しい差動シリアルデータ伝送インターフェイスであるMSDL技術を開発した。

MSDLは電流モードの差動伝送技術で、伝送信号の差動振幅は数10mVという非常に小さい振幅で信号伝送を行う(図1)。

上:MDSL_CLK(54MHz)
下:MDSL_DATE(108Mbps)
Vdd=2.8[V]

DSO:TDS7404B
Probe:P7330
〔図1〕独自方式による低振幅電装(差動配線の電圧振幅±40mV)

高速伝送に適しており、伝送速度はチャネルあたり100Mbpsを実現できる。また、EMI特性に優れ、放射されるノイズレベルは従来のCMOS伝送と比較して約10dB低減できる(図2)。

電界プローブによる不要幅射測定結果
(ESV-3000による)

CMOS_CLK(6MHz,1.8V)
MSDL_CLK(6MHz)
CMOS_DATE(66MHz)トグル
スペクトル(30MHz〜400MHz)
〔図2〕電流モード電装によるEMI低減


このEMIノイズの低減により得られる効果は2つある。RF(無線)の特性に悪影響を与えないことと、セット設計期間の短縮につながることである。EMIノイズの低減が設計期間の短縮にもつながるのは、EMIノイズ対策のための工数が軽減できるからである。

通常、セットメーカーはEMIノイズを抑えるため、フィルタやフェライト・ビーズ、シリーズ抵抗といったノイズ対策部品を配線に実装することがあるが、設計の当初段階で正確にEMIノイズの影響を見積もるのは難しいため、場合によってはフィルタ特性の調整や配置場所の変更といった繰り返し作業が必要になり、多大な時間とコストがかかっているからである。

BU7285GUはMSDL技術を採用したトランシーバ(パラレル・シリアル変換IC)で、アプリケーションプロセッサから液晶パネルへ伝送されるパラレルデータをシリアル変換し、MSDL伝送に置き換える。折り畳み式携帯電話の液晶側基板と本体側基板にそれぞれ1個ずつ搭載して使用する。

BU7285GUは、画像データをMSDL伝送化することにより、例えばQVGAサイズ(240×320画素)のRGB18ビットカラー、タイミング制御信号(水平同期信号、垂直同期信号)のインターフェイスを持つ液晶パネルモジュールで、制御信号を含め従来22本必要だった液晶画像用配線を7本に削減することができる(図3、4)。

〔図3〕BU7285GUシステム例

・パッケージ:VBGA063T050
 -5mm□,Tmax=1.0mm
 -0.5mm□,Tmax=1.0mm
・LCD I/F:RGBストリーム対応
 -Data,HS,VS,DCLK
 -VDD(I/O)=1.65〜3.15V(レベルシフタ対応)
・PLL内蔵
 −シリアル伝送クロック生成

〔図4〕BU7285GU仕様


このBU7285GUシリーズの主な特徴をまとめる。

<BU7285GUシリーズの主な特徴>

1.差動シリアルインターフェイス方式(MSDL)の採用で
 液晶パネルとCPU間の配線数を大幅低減(22本→7本)
 例)LCDインターフェイス:
 データプラス制御信号線20本
 インターフェイス制御線2本
 が差動インターェイスでは6本+制御信号1本のあわせて7本で実現可能

2.18ビットカラー、QVGAサイズまでの液晶パネルに対応(60fpsまで伝送可能)

3.配線からのEMIノイズをCMOSインターフェイスより10dB低減

4.携帯電話に最適な小型・薄型パッケージ VBGA063T050パッケージを採用

今後の展開

ロームではQVGA18ビットカラー対応のBU7285GUに引き続き、他のデータ伝送へのシリーズ展開、さらなる高解像度の液晶パネルへの対応、カメラモジュールのインタフェース対応を行い、より高速なデータ伝送をサポートするデバイスの開発を行っている。今後さらに、新しく開発する携帯電話向けLSIやLCDドライバの内蔵インターフェイスとして搭載していくことで、高速伝送、省配線数、低EMI、低消費電流という顧客ニーズに貢献する予定である。

<村田信:ローム(株)INFORMATION LSI商品開発部>