自動車用部品技術
高信頼性の小型整流ダイオード


<市場動向>

近年、自動車のエレクトロニクス化には目を見張るものがある。快適性、安全性、環境への配慮が主な訴求要因である。エンジンはコンピュータにより精密に制御され性能が格段に向上した。また走行支援システムであるACC(アクティブ・クルーズ・コントロール)の導入や高度道路交通情報システム(ITS)の導入で車内情報の収集や、外部からの情報収集のネットワークの高度化が進んでいる。エアバッグも当初1ないし2チャンネルであったものが現在では16チャンネルまで増加している。また、ハイブリッドカー、燃料電池車、電気自動車等、次世代の自動車はモーターを動力にしており、ここでもエレクトロニクス化は着実に、しかも劇的に進んでいる。

結果として、自動車内に搭載される電子デバイスの数量も飛躍的に増加しており、回路もより複雑になってきているのである。このような市場の動向に即し、半導体デバイスにも次のような性能が求められている。

<半導体デバイスの要求特性>

車載向けのディスクリート半導体デバイスで基本的な電気的特性に加え、特に重要視されている性能として、小型化と高信頼性の2点があげられる。具体的内容については以下に示す。

・小型化:部品点数の増加に伴い、高密度実装とともに部品自体の小型化への要求が強い。回路基板の設置も車内だけでは間に合わず、エンジンルーム内への設置も必要とされている。さらに今後はパッケージングされたデバイスではなく、ベアチップを用いたモジュールタイプの部品への要求もあり、小型化、省スペース化への要求は依然強いものがある。

・高信頼性:従来からも同様であるが、自動車という過酷な条件での使用を前提としている部品には、高信頼性であることが重要である。高温(低温)下での使用、長期間の使用、外的な静電気やサージ電流に対する耐量、振動や湿度、粉塵に対して強固であること、誤動作を起こさない等があげられる。

<車載向け整流ダイオードの現状>

整流ダイオードの特性についても同様のことがいえるが、付加的に定格値以上の特性を求められることが多い。車載用の整流ダイオードは一般に回路の保護を目的として用いられている。仕様定格も大半がIo=1A/VR=400Vであり逆接防止、サージ吸収を目的として使用されている。ラインごとに使用されるため、その数は飛躍的に増加しており、自動車1台あたり1,000個以上が使用されている場合もある。小型化への移行も顕著であり、4526サイズであった製品が現状では2616サイズが標準となってきている。耐サージ電流、静電気についても明確な基準はないものの、現状より強い製品、より余裕のある製品が求められている。

<ロームの車載向け高信頼整流ダイオード>

これらの要求に対して、ロームは小型化、高信頼性を同時に満たした画期的な製品で、小型パッケージ、2616サイズの車載向け高信頼整流ダイオード「RR264M-400」を開発に成功し、現在量産中である(写真)。

高信頼整流ダイオード「RR264M-400」

製品外形としてはランド寸法が共通の2616サイズであるが、高さは業界最薄の0.8mm(max値)としている(図1)。


〔図1〕外形寸法図(PMDSパッケージ)

ベーシックな4526サイズが2.0mmであるから、実に1/2以下の薄さになっている。両面実装でのパッケージ高さの制約が往々にしてある中で、このサイズではほとんど問題にならないと考えられる。

次に高信頼性についてだが、従来の整流ダイオードでは、高信頼性を示す電流サージ強度、電圧サージ強度のどちらか一方に対してのみ優れた強度を示す傾向があった(図2)。


〔図2〕ESD強度-電流サージ相関図

この図が示すように、電流サージが強いものは電圧サージが他の製品と比較して劣り、また、逆に関しても同様のことがいえた。そこで、ロームはこの2つの信頼性強度について、両立した製品を開発することに着手し、製品化に成功した。

具体的には、電圧サージ、電流サージに起因する条件を再度洗い出し、それらについて最適な条件を得るため、材料選定、拡散プロセスについて、莫大な組み合わせから、この2つの信頼性強度が従来の製品よりも優れた実力を得る条件を導き出し、業界トップクラスの高信頼性強度を得ることができた(図3、4)。

〔図3-1〕温度特性(VF-IF)

〔図3-1〕温度特性(VF-IF)

〔図4〕電圧サージ強度比較と電流サージ強度比較

具体的数値としては、電圧サージが5.80kV(印加条件C=200pF/R=0Ω・1回印加・typ値)・電流サージについては43.9A(印加条件 f=60ヘルツ・1cyc・typ値)と、ともに高い強度を示しており、実際にサージ保護として使用する場合、非常に安心できる実力があるといえる。このような市場要求を満たす小型・高信頼性の整流ダイオード「RR264M-400」は、市場で高い評価を得ている。

<今後の展望>

今後も製品への要求特性は現状と同様の内容で進んでいくと考えられる。その中でも小型化かつ高電流化が一層必要となると思われる。現状の整流ダイオードは4526サイズでIo=1.0A、2616サイズではIo=0.7Aが一般的である。規格の条件の差はあるが、この値は各社とも遜色ないのが実情であるが、まずは2616サイズでIo=1.0Aというのが市場の要求であろう。パッケージサイズとIoの値は、チップのVF値とパッケージ自体の放熱性でほとんど決まってしまうものであり、これらを大きく改善していくことが重要である。チップについては、耐圧、信頼性、漏れ電流値などの制約があり改善も困難な状況ではあるが、パッケージについてはまだ自由度があり可能性は十分にある。フレーム材料や樹脂の材料、フレームやパッケージの形状などの変更によりさらに改善されていくものと思われる。

その先にはベアチップの搭載があると思われる。先にも述べたように、部品点数の増加、実装面積の小型化などが進めば、ベアチップが台頭してくるであろう。現状では組み立ての方法も一定ではないようで、車載各社で模索をしている段階であると思われるが、ある程度の規格なり標準化が進めば一気に広がる可能性もある。少々混沌としている部分もあるが、市場の要求がいかなるものになろうとも、ロームはタイムリーに新製品を供給していく所存である。ロームのダイオードは従来から独自の設計技術、デバイス技術、さらに自社開発による生産技術などを駆使し、市場ニーズにいち早く対応した製品開発を行ってきた。今後も小型化・高信頼性といったユーザーサイドの視点に立った開発を進めていく方針である。
 
<下嶋正寿:ローム(株)ダイオード製造部商品設計一課>