物質・材料研究機構(NIMS)物質研究所は、白色発光ダイオード(LED)向けに緑色蛍光体の合成に成功した。これにより先に開発した赤色、黄色の蛍光体と合わせて白色LEDに必要な基色となる3種類の蛍光体がそろったことで様々な発色のLEDを提供することが可能となる。また、これらの蛍光体を用いて自然な発色(演色性)の白色LEDの試作に成功した。 現在の照明は蛍光灯が主流であるが、LEDは消費電力が少ない、水銀を使用しないといった環境面から将来はすべてLEDに置き換わると予想されている。しかし、現行のLEDは青色と黄色の光を混ぜて発光しているため、緑色と赤色の成分がない不自然な光となっている。 この白色LEDは、自然な発色が求められる商品照明や食卓などの屋内照明には不向きで自然な光を放つ照明用LEDが求められている。 白色LEDの演色性を改善するには、不足する色成分の光を出す蛍光体を添加する方法で行うが、既存の蛍光体は可視光を当てても光らず、発光効率が悪いという問題がある。 そこで今回、緑色成分を補うのに必要な可視光で光る緑色蛍光体を開発した。 緑色蛍光体は、これまでにブラウン管に使われている亜鉛とケイ素の酸化物(Zn2SiO4)を母体とする物質が知られている。これは電子線や紫外線では光るが、可視光を当てても光らない。また、白色LEDに用いる蛍光体は、高輝度の励起光に長時間照射されるため高い耐久性が要求される。 現行の蛍光体は、酸化物や硫化物のホスト結晶に希土類イオンを固溶させたもので、結晶の安定性がそれほど高くないために使用中に劣化して輝度が低下する問題があった。 NIMSでは、耐熱材料として実績のある窒化ケイ素関連物質をホストとした蛍光体の開発を進めており、2002年にYAG蛍光体よりも発光特性に優れるαマイナスサイアロン(α-sialon:Eu)黄色蛍光体の開発に成功している。この蛍光体は、青色光を吸収して黄色光を発光する蛍光体で発光効率が高く、しかも安定性に優れた特徴を持つため、YAGに代わる白色LED用の黄色蛍光体として注目されている。さらに2004年8月には、純窒化物であるカズン(CaAlSiN3:Eu)赤色蛍光体の開発に成功している。今回開発した蛍光体は、窒化物をホストとする蛍光体に関する一連の研究の中で発見したもので540ナノメートルの緑色光を発生する。図1左が今回開発された緑色蛍光体、真ん中が発表ずみのサイアロン黄色蛍光体と、右がカズン赤色蛍光体である。 〔図1〕NIMSで開発した蛍光体粉末に365ナノメートルの紫外線を照射して撮影。左がβ-サイアロン 緑色蛍光体。中央と右は発表済みのα-サイアロン黄色蛍光体とカズン赤色蛍光体 合成方法としては窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ユーロピウム粉末を混合したものを窒化ホウ素製のルツボに入れて、10気圧の窒素中、1900℃で反応させることにより、ユーロピウムが固溶したβマイナスサイアロン蛍光体粉末を合成して作製している。 また、図2が新規蛍光体の発光特性となっている。 〔図2〕Euを添加したβ-サイアロン蛍光体の発光特性 得られた粉末は波長が300nmから500nmの光を吸収して540nmの緑色を発光する蛍光体である。LEDを光源として利用する場合は、400nm以下の紫外LED、405nmの紫LED、450nmの青色LEDの光を利用することができる。様々なLED光源との組み合わせが可能であり広い用途に使える。 とくに青色LEDと黄色蛍光体の組み合わせで実用化されている白色LEDにこの蛍光体を添加すると、緑成分が改善されて、室内照明に適した色の再現性が良い照明器具を作ることができる。さらに、紫外LEDまたは紫LEDを光源として、既存の青および赤色蛍光体と本蛍光体を使用することにより、赤、緑、青の3色の光を混合した白色LEDを作ることもできる。 この蛍光体は、可視光で既存の紫外用赤色蛍光体と同等の明るさで発光させることができる。また、白色LED用として実用化されているYAG黄色蛍光体よりも発光強度は高い。 今回の蛍光体の開発により、すでに発表した赤色、黄色の蛍光体と合わせて基本色の3種類の蛍光体(赤、黄、緑)がそろったことで、組み合わせによって様々な発色のLEDを作ることが可能となった。これらの蛍光体を用い、フジクラの協力により色温度2500Kから8000Kで色温度を調整した白色LEDの試作に成功した。中でも色温度2800Kの電球色LEDは、発光効率25ルーメン/W、演色性指数(Ra)88の特性であり、市販電球に近い高い演色性で約1.5倍のエネルギ効率を達成している(図3)。 〔図3〕電球色の白色LEDランプの発光スペクトル。電球色の標準光源(A光源)のスペクトルも示した また、色温度6500K(太陽光に近い色)の白色LEDは、発光効率28ルーメン/W、演色性指数(Ra)81と演色性と発光効率のバランスが良いため、蛍光灯に代わる屋内照明として適している(図4)。 〔図4〕太陽光に近い白色LEDのスペクトル。太陽光に近い標準光源(D65光源)のスペクトルも示した さらに、赤・青・緑の3種類の蛍光体を用いることにより、白色以外の中間色の発色が可能となるため、青色LEDチップを用いて用途にあった色を発色させることが可能となる。これにより、今まで電球と色フィルターで実現していた中間色照明への適用が期待される。 今回開発した緑色蛍光体を開発ずみの赤および黄色蛍光体と組み合わせることにより、蛍光灯と同等の演色性を有する白色LEDや電球色LEDの照明器具を作ることができる。 蛍光灯などの照明器具は、エネルギ消費効率とライフサイクルの環境面から、将来はすべて白色LEDに置き換わると予想されており、3割以上の消費電力削減やCO2削減にも貢献できる。また、水銀を使用しないため環境保護にも貢献する。 LED市場は、2010年で1兆円と予想されており、高性能蛍光体は社会への貢献度が高い。さらに、パソコン用表示素子やテレビもPDPやFEDなどのフラットパネルに置き換わり、その市場規模は全世界で10兆円と推定されている。これらの用途には高輝度長寿命の蛍光体が使われると予想され、今回の蛍光体はこれら用途にも適している。 励起光源として使用される青色LEDや青色レーザーの開発は日本が先行しており、今回の蛍光体を用いて発色性に優れた光源が実現できるようになれば、白色LEDや次世代ディスプレイでも国際的優位性が確立できる。今回の蛍光体は、材料としての評価およびLEDと組み合わせた発光特性は得られているが、信頼性の評価と量産技術の確立が今後の課題。NIMSでは、製造を担当する化学メーカーとの連携により、2年後の実用化を目指して開発を進めるとしている。 〔図5〕中間色のLEDランプ <資料:独立行政法人物質・材料研究機構>
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