パワーMOSFETの技術動向

吉持賢一:ローム(株)トランジスタ製造部商品設計1課

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CPU用同期整流型DC/DCコンバーター用MOS FET「RQW250N03」


  ◆はじめに
 近年、携帯機器の需要は拡大しており、その進歩はめざましいものがある。その中でもとくに、携帯電話、デジタルカメラを中心に小型化、軽量化、高機能化、多機能化が進んでいる。それに伴い電源回路の技術革新も進み、低電圧化、大電流化により消費電力を低減する要求が高まっている。
電源回路中で使用されるパワーMOS FETに関しても、その技術革新のスピードが加速しており、特に低耐圧MOS FETの分野では商品の高性能化が急速に進んでいる。さらに、最近の傾向として商品の多様化が進み、それぞれの回路に最適な商品が求められており、その傾向は今後も強まっていくと考えられる。そこで、ロームとしても多様化の流れに追随すべく、個別の技術革新を行うことにより、各アプリケーションに特化した商品の開発を進めている。
今回、その代表的な商品について紹介を行う。


  ◆CPU用同期整流型DC/DCコンバーター用MOSFETの開発
 高性能CPUを装備したノート型パソコンのDC/DCコンバーターには低電圧出力(1.3V→1.0V)、大電流出力(100A<)、高速スイッチングなどの技術的課題が多く、高効率を実現するため回路中に使用されるパワーMOS FETの特性についても、特化した商品開発が進み90%以上の高効率を実現している。
そこでロームは(1)Low Side(2)High Sideを個別に最適化した商品を開発し、高効率を実現する商品を提案する。
(1)Low Side MOS FETの開発
同期整流型DC/DCコンバーターの変換損失は、スイッチング時の損失と、導通時の損失に大別できる。
出力電圧が低くなる傾向にある中で、降圧時の変換比率が高くなると、同期整流素子であるLow Side MOS FETが導通している時間の比率が高くなる。そこで、導通時の損失を低減するためLow Side MOS FETにはまず、オン抵抗の低減が要求される。
さらに、スイッチング時の損失も考慮すると帰還容量(Crss)の低減も重要であるが、オン抵抗の低減とCrssの低減はトレードオフの関係にあり、その最適点の商品を使用することにより、効率を向上させる方法がとられている。そこでロームは独自の構造を開発し、オン抵抗と帰還容量(Crss)のトレードオフの関係をブレイクスルーすることに成功したRQWシリーズを展開する(表1)。
 新商品の評価を行った結果、従来品と比較してDC/DCコンバーターの降圧時における電源効率が8%近く向上していることが確認できる(図1)。
(2)High Side MOS FETの開発
コントロール素子であるHigh Side MOS FETによる損失の多くはスイッチング時に発生し、この損失は使用されるHigh Side MOS FETの帰還容量に大きく依存している。また、今後の傾向としては、CPUの高速化が進むPC市場において、電源供給はより低電圧、大電流の要求が高まり、DC/DCコンバーターの動作周波数は1Mヘルツまで高くなる方向性が示唆されている。
そういった市場の流れを見据え、ロームはLow Side MOS FETと異なる独自設計を行い、低容量、低オン抵抗のRLWシリーズを開発し、ラインアップをさらに充実させ、顧客要求に対応する(表2)。
新構造のLow Side MOS FET、High Side MOS FETを組み合わせた場合の電源効率を従来のHigh Side MOS FETと比較すると約2%の効率向上が確認できる。
さらに、動作周波数を上げると電源効率が悪化する従来品と比較して、新商品ではその傾向が軽減されており、1MHzでは4%近い効率の向上が実現している(図2)。
(3)省スペース化
さらに、ロームはノートPCの小型、軽量化が進む中、省スペース化の動向にも注目している。そこで従来のワイヤーボンディングを使用しない薄型パッケージ(0.9mm)PSOP8(SOP―8クラス;外寸図3―1)に新構造の素子を搭載することで、ハイパワー(PD=3.0W;図4)、低オン抵抗を実現した。
通常、大電流を要するCPU電源部分のMOS FETは、High Side、Low Sideそれぞれ2〜3個並列で使用されるが、ロームの新商品はLow Side MOS(RQW250N03)をRds(on)=1.8mΩ(Vgs=10V)、Crss=510pFまで低減、さらに High  Side MOS (RLW190N03)はRds(on)=4.4mΩ(Vgs=10V)でありながら、帰還容量(Crss)=135pFにまで改善し、各1個での回路設計を提案する。
大電流時の効率評価において、並列使用時と比較しても十分に高効率を維持していることが分かる(図5―1)。
その結果、実装面積を大幅に削減することができ、省スペース化に貢献することができる(図5―2)。

  表1
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  図1
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  表2
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  図2
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DC/DCコンバーター向けLow Side MOS FET
Low Side MOS FETの開発評価
DC/DCコンバーター向けHigh Side MOS FETシリーズ
High Side MOS FETの開発評価
  図3-1
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  図4
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  図5-1
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  図5-2
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PSOP8 外形寸法図(単位:mm)
PSOP8パッケージ構造
開発品単独使用時の効率評価
PCノCPU-core電源回路(同期整流DC/DCコンバーター)


  ◆小型DC/DCコンバーター回路用MOS FETの開発
 小型化が進む携帯電話、デジタルカメラなどの内部に使用されるDC/DCコンバーター分野においても小型、低電圧駆動化の傾向は強く、使用されるMOS FETの性能に対する要求は強まる一方である。
その要求に対して、ロームは、低電圧(1.8V)駆動、低オン抵抗の小型商品の開発を進める。
駆動電圧を低く設計すると、排反事象としてCrss、Qgdが増加するという問題があったが、ロームは独自技術によりこの問題を解決し、小型、薄型パッケージである2916サイズのTSMT、PSMT、および2012サイズのTUMTパッケージに展開していく。
その中でも特にPSMT8(外寸図3―2)は小型、薄型、ハイパワー(PD=2.0W)かつ、20V品SMTクラスにもかかわらず、Nch MOSでRds(on)=6.0mΩ、Crss=205pF、Qgd=5.9nC、Pch MOSでRds(on)=9.0mΩ、Crss=250pF、Qgd=6.0nCの低オン抵抗、低容量を実現し、電源効率を大幅に向上することを可能にする。また省スペース化の顧客要求に対応すべく、Nch+Pch、Nch+SBD、Pch+SBDの複合商品展開、さらに高効率の面で同期整流型が採用されつつある流れに対しても、HighSide、Low Side、SBDの3素子をSMTクラスに1パッケージ化した商品の開発も進めていく。

図3-2
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PSMT8 外形寸法図(単位:mm)


  ◆リチウムイオン電池保護回路用MOS FETの開発
 リチウムイオン電池は小型で大容量なため携帯機器に多く採用されているが、過充電、過放電による破壊の恐れがあるため内部に保護回路が必要であり、充電用、放電用のスイッチとしてパワーMOS FET が使用される。
その損失の多くはMOS FETが導通時に発生するので、MOS FETは極限までオン抵抗を低減することが重要である。
そこでロームは次世代の商品を開発するためプロセスラインの微細化を行い、さらに新構造を開発することにより、単位面積あたりのオン抵抗を低減することに特化した商品の開発を行った。その結果、従来品と比較してオン抵抗を最大約50%低減することに成功した。
新構造での商品として、携帯電話など(1直)で使用される30VクラスNch MOS FETはPSSOP6パッケージ(外寸図3―3)2素子入りで、1素子あたりのオン抵抗を9mΩまで、3〜4直で使用される30VクラスPch MOS FETのSOP―8クラスではPSOP8パッケージでRds(on)=2.5mΩ(Vgs=10V)にまで低減した商品をいち早くリリースし、小型化、高性能化が進む業界をリードしていく。

図3-3
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PSSOP6 外形寸法図(単位:mm)


  ◆今後の展開
 ロームは、同期整流型DC/DCコンバーターのさらなる高効率化に貢献すべくSBDを内蔵し、1パッケージ化することにより、配線抵抗やインダクタンスを低減した商品を開発するほか、Low Side、High Side、SBDの3素子を1パッケージ化し、省スペース化、高性能化を行っていく。また、高速動作化に対応して、MOS FETのゲート抵抗を大幅に低減しスイッチング時の損失に関しても改善を行うなど、顧客のニーズに合う、各セットに特化した商品の開発を進めていく。さらにPSOP8(SOP―8クラス)パッケージに搭載した商品のラインアップを早期に充実させ、超低オン抵抗Nch MOS FETでRds(on)=1.0mΩ(Vgs=10V)以下の商品などをリリースしていく予定である。


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