抵抗器技術
可変抵抗式位置の最新技術動向


〔写真1〕可変抵抗式位置センサーのバラエティ


<概要>

 従来、可変抵抗器はホームオーディオ類の音量・音質調整を行う操作デバイスとしての存在が主だったが、昨今は「回転角度レバー位置 )」を精度良く電圧出力信号に変換ができるという非常に効率の良いトランスフォーマーとしての機能が注目され、各種機器のメカニカル な位置の検出、状態の検出を行うセンサーとしての用途・製品が増えてきている。この「可変抵抗式位置センサー」としての特徴や当社の 取り組みについて述べる。

<可変抵抗式位置センサー>

 センサーといっても、温度、光量、湿度、磁力など、さまざまな被測定対象があるが、その中でもベーシックなものが、機械量(位置) 検出である。この機械量の検出方法も多様ではあるが、対象としている可変抵抗式位置センサーは他の方式と比較して以下のメリットがあ る。
・出力信号が電圧値であり、マイコンのA/Dポートに直接入力が出来る。増幅回路、特殊な変換回路が不要である。
・耐熱特性、対外来ノイズ特性にすぐれる。
・機器の動作途中に電源オフされても、再投入時に原点復帰動作することなく、即座に位置が分かる(リッセト動作が不要)。
 上記特性を生かすことによって、可変抵抗式位値センサーは非常に使いやすいコストパフォーマンスに優れるデバイスとして構成するこ とができる。

<可変抵抗式位置センサーの必要特性>

 可変抵抗式位置センサーの基本構造は、基材上にカーボン抵抗体および銀電極を印刷形成し、その抵抗体上でブラシを摺動させることに よって、分圧された電圧を取り出すものである。この「接触式」可変抵抗式位値センサーでは、以下の2点の性能特性が重要である。
@リニアリティ特性(出力直線性)
A長寿命特性
 リニアリティ特性は、出力された電気信号と実機械量のズレ量(精度)を表す特性である。この数値が良くないと機器における高い精度 の位置制御ができなくなる。(図1参照)


〔図1〕リニアリティ特性

長寿命特性は、各センサーごとに規定された各種特性(リニアリティ特性等)が、何回の動作まで保証できるかを表す数値であるこの点 において、可変抵抗式位置センサーは「非接触式」のフォト式や磁気式センサーに比較されることが多い。「接触式」可変抵抗式位置セン サーは接点部の摩擦による特性変化を考慮し、各用途に対応できるよう配慮がなされている。
 このリニアリティと寿命に対して、いかに独自技術を開発・適用し向上させることができるかが、可変抵抗式位置センサー生産各社のノ ウハウである。可変抵抗式位置センサーは前述のようなメリットを有しているが、使用に際しては、可変抵抗器としての特性を理解し、使 用部位の用件に合致させることにより、最大限の機能を引き出すことができる。

<特性向上への当社取り組み>

 アルプス電気は、可変抵抗式位置センサーにおいて重要な用件である「リニアリティ特性」と「長寿命特性」について、以下の取り組み を行い、製品の性能向上を図っている。
1)リニアリティ特性の向上について
 リニアリティ特性の構成要素は「出力うねり(ズレ)」と「マイクログラディエント」に大別でき、それぞれの発生要因が異なる。「出 力うねり(ズレ)」は、抵抗パターンの膜厚のバラツキと位置偏倚、回転形の場合には抵抗パターンとブラシの中心軸間の偏倚量により発 生する(図2参照)。

〔図2〕出力うねりの発生

 「マイクログラディエント」はリニアリティを微少区間で規定した規格のことであり、抵抗体の表面粗度と材料組成特性により生じる。
a.「出力うねり(ズレ)」
 基材に対しての印刷位置精度と膜厚の均一性の向上、および中心軸のズレが極消化できるような構造の工夫が必要となる。
 当社では、長年培ってきた抵抗素子の印刷加工技術をさらに高め、基材の搬送方式や印刷基材の各制度アップ、および印刷工程の各種条 件の見直し(印刷スピード、スキージ硬度、スキージ形状等)によって、きわめて高い印刷位置精度と膜厚の均一化を実現している。
 膜厚の均一化のレベルを分かりやすく表現すると、直径φ10o、有効角300°の円形抵抗パターンにおいて、リニアリティ±2%を表現する ためには、パターン内の膜厚差をおよそ3μm程度に抑えられなければならない。これはたとえて言うと陸上競技場の400mトラックを抵抗体 に見立てたとき、その高低差はピンポン球1個分しか許されないことに相当する(当社製品の例)。
b.「マイクログラディエント」
 高精度なマイクログラディエントを達成するためには、抵抗体の表面粗度と抵抗インクの材料組成を改善する必要がある。抵抗体の印刷 工程の諸条件を最適化し表面平滑性を改善。さらに、抵抗体表面の組成における導電物質粒径および分布を、独自の材料開発技術を生かし 、安定して揃えることに成功した。これにより、従来比で4分の1のマイクログラディエントを実現した(図3参照)。

〔図3〕高精度なマイクログラディエント

2)長寿命特性の向上について
 長時間にわたって性能を維持し続けるためには、抵抗体とブラシの接触をいかに安定させ続けるかが重要であり、長寿命化のポイントは 接点部の摩耗率を減少させることである。ブラシの繰り返し摺動により発生する摩耗・摩耗率の発生を抑えるための技術ポイントは以下の 通りである。
a.「抵抗体の摩擦係数の低減」
b.「抵抗体高度の向上」
c.「電気的接触安定性に優れる抵抗体」
d.「ブラシ高度の向上」
 当社では、分子設計から高分子合成、材料複合化の固有技術を駆使し、摩擦係数の低減と電気的接触安定性を両立させ、かつブラシ接点 の接触荷重や接触本数、形状、高度バランスの組み合わせを最適化することによって長寿命化を実現。より高い環境特性が求められるアプ リケーションに対しては、接点部材料に貴金属合金を使用することによって、性能向上を図っている。
 過酷な対環境制性と長寿命が求められる車載電装用センサーに対しては、+100℃以上の耐熱性を保有しつつ、表面が鏡面のように平滑な 抵抗体を開発。表面粗度は、従来のものと比較して10分の1以下である。
 このマイクログラディエントと寿命特性の改善により、動作寿命10億サイクル(*)対応が可能となり、走行距離換算で50万qという非 接触タイプに迫る耐久性を実現している(図4参照、*当社実力確認試験結果であり、保証値ではありません)。

〔図4〕動作寿命10億サイクルを表現

<可変抵抗位置センサーバラエティ>

 当社では、さまざまな機器および使用用途に対応できる各種可変抵抗位置センサーを取り揃えている。直線距離検出にはRDC10シリーズ、 回転角度検出にはRDC50シリーズ、13回転の多回転角度を検出できるRDC40シリーズ、そのほか、車載電装用センサーを代表して、使い勝手 に合わせたカスタムセンサーを対応している。(写真1参照)

<その他抵抗体を利用したセンサー「荷重センサー」>

その他、当社の圧膜抵抗体形成技術と材料技術を駆使して、「荷重センサー」を商品化している。(写真2参照)

〔写真2〕荷重センサー

動作原理は、抵抗体が荷重によって変形を生じた際に、導通抵抗の変化が生じる現象を利用したものである。
 荷重センサーにおいては、極めて長時間の出力安定性を確保することに成功。さまざまなアプリケーションに応用されていくことが期待 できる。
<今後の取り組みとして>

 さらに使いやすく、幅広いアプリケーションへ対応できる可変抵抗位置センサーとするために、当社としては今後も以下のことに取り込 んでいく。
・リニアリティ特性の一層の向上(抵抗材料、およびセンサー構造の開発)
・さらなる長寿命化(抵抗体材料と接点材の開発)
・各種接続方法への対応(リフローハンダ対応、コネクター出力対応等)
・耐環境特性の向上(高熱、耐振動)
<浅野昌弘:アルプス電気潟Rンポーネント事業部第1技術部設計1グループ>