◆超伝導フィルター開発の歴史
1986年に米IBMが高温超伝導の材料を発見して以来、最近ではYBCOをはじめとする液体窒素温度(77K)を超える温度で超伝導効果を示す材料が発見されている。
(1)アルプス電気における超伝導マイクロ波フィルター開発の経過
基板技術研究促進センター(KTC)、デンソー、アルプス電気の出資で「移動体通信先端技術研究所(AMTEL)(1994―2000年)を設立し、高温超伝導マイクロ波フィルターおよび関連技術の研究開発を行う。1999年には、AMTELにおける研究成果のビジネス化を目指し、デンソー、アルプス電気出資で「クライオデバイス」(1999―2002年)を設立、超伝導フィルター装置の実用化および無線システムへの応用についての検討や、超伝導フィルターを用いた通信システム間干渉低減技術について検討した。2002年からは、アルプス電気CDIプロジェクトにより、超伝導フィルターのアプリケーションを開発継続中。
今回のマイクロウェーブ展で、微小信号の可視化システムを展示している。
(2)超伝導フィルターの特徴
超伝導マイクロ波フィルター(写真1)は、従来材料で構成されたフィルターに比較して、高周波抵抗が小さく高い無負荷Qを得ることができる。
そのため、共振器を多段結合しても全体の通過損失が少なくできることから、急峻な減衰特性を実現できる。
また、1枚の基板上に薄膜で構成が可能で、共振器同士の結合が理想的にできるため、スプリアス発生がない保証減衰量など優れた特性が実現できる(図1)。
(3)超伝導フィルター装置の構成
このフィルターに用いる材料(YBCO膜)では、超伝導効果は絶対温度77度(77k)付近で生じる。そのため、材料を極低温まで冷却するための装置が必要となる(写真2)。
フィルターデバイスは、MgO基板上にYBCO膜を形成し、共振器を形成する。そのフィルターを断熱のための真空チャンバー中で冷却し、マイクロ波フィルターを実現する。フィルターデバイスの温度は精密に制御され、所定の温度を維持するようにコントロールされている。また、外部からの熱の流入が温度制御に影響を与えないために、フィルターデバイスと真空チャンバーの外側を結ぶケーブルには、電気的には低抵抗であるが熱的には高抵抗である断熱ケーブルを用いている(図2)。
(4)今回の展示の目的
マイクロウェーブ展では、実用化の段階を迎えた超伝導マイクロ波フィルターの応用の一例として、マイクロ波帯の微小干渉信号の測定手段を提案する。
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高温超伝導フィルター |
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高温超伝導フィルターの特性 |
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高温超伝導フィルターの構成 |
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高温超伝導フィルター装置 |
◆背 景
ユビキタス時代を迎え、無線通信の世界では新たなシステムが続々と提案されている。有限な資源である周波数の使い方も、ある周波数帯を1つのシステムに占有させる時代から、時間・空間を有効に利用して周波数を共有するように変化している。こうした状況では、無線空間でのシステム間干渉の発生が危惧されており、その解決には、その干渉の事象を把握し原因の解明が重要である。
隣接した周波数を用いたシステムでは、隣の周波数を使用している信号が帯域外雑音を放射し、それが雑音として影響を与える場合(漏洩電力)と、受信機の選択特性が不十分なために隣のシステムの信号を受信してしまい、受信機内部で混変調を発生させて妨害となる場合がある。
◆提案システム
隣の周波数を用いるシステムからの干渉を評価するとき、干渉信号を評価する帯域だけをきちんと取り出す必要がある。とくに隣の帯域に強い信号が存在するときには、その信号によって測定系が歪みを発生することもある。見たい信号だけを取り出すためには、超伝導フィルターのようにすぐそばにある強い信号を減衰できる急峻な減衰特性が有効である。
さらに、受信機内部で発生する混変調を評価するには、混変調を評価する帯域をあらかじめ存在する雑音を除去しておくことが必要である。入力される信号のうち、帯域外雑音は十分に除去した入力信号を作る必要がある。このように、不要な信号を除去した信号だけを受信機に入力することにより、受信機内部で発生する混変調の特性を評価することができる。このように、帯域外雑音を十分に減衰させるには超伝導フィルターの保証減衰量の大きさが有効である。
以上のように、超伝導フィルターは従来のマイクロ波フィルターに比べて、急峻な減衰特性と大きな保証減衰量を持つため、無線システムの干渉のように、マイクロ波帯での微小信号を評価するのに有効である。
◆超伝導フィルターの応用
今回は、微小信号の可視化という応用に超伝導フィルターを用いた。従来から、超伝導フィルターの高性能を生かした応用は提案されてきている。電波天文の場合には、測定する高周波だけを抽出するために、超伝導フィルターを用いて地上の妨害波を除去することが行われている。最近では、地上デジタル放送の中継局に、隣接するチャンネルとの干渉を避けるために超伝導フィルターを用いることが提案されている。携帯電話基地局では、フィルターを冷却するチャンバーの中にアンプを同梱し、極低温による雑音指数改善が考えられている。
超伝導フィルターの新しい使い方として信号計測に用いることを提案した。実用化の域に達している超伝導フィルターと、それを用いて構築した測定系のデモをした上で、今後の超伝導フィルター関連技術の方向性を確認したいと考えている。
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