AV機器やパソコンなどの電子機器における信号のデジタル化、高速化は、機器の高性能化、多機能化可能にしてきた。しかし、一方で、高速のデジタル信号は、高周波ノイズを発生させる原因となり、高いレベルのノイズ対策が求められるようになってきている。とくに映像信号ラインでは、高機能化にともない、処理能力の大きなグラフィックIC、ビデオICが使用されることから、高周波ノイズ対策の必要性が高くなっている。ノイズ対策にはさまざまな手段が用いられるが、部品によるノイズ対策を行う場合、従来、抵抗、コンデンサー、コイル、あるいは、これらの組み合わせによるノイズ対策が主として行われてきたが、最近の機器の小型化に伴いノイズ対策部品を入れるスペースが取れなくなり、コイル−コンデンサーの複合素子(LC複合EMIフィルター)などのノイズ対策専用部品による対策を取らざるを得ないケースが増えてきている。 LC複合フィルターでは、浮遊静電容量、残留インダクタンスのコントロールがなされており、高周波ノイズの除去の点においても優位なケースがしばしば出てきている。 ここでは、このようなノイズ対策部品として、三菱マテリアのLC複合EMIフィルターLFAシリーズについて、その特徴とノイズ対策に対する効果について述べる。 一般にチップ型IC複合EMIフィルターは、コイル形成部に磁性体材料、誘電体材料を使い分けて張り合わせか、または、磁性体材料あるいは誘電体材料のどちらかが単独で用いられている。 これに対し、三菱マテリアのLFAシリーズには特殊な磁性体―誘電体複合材料が用いられている。この複合材料のモデルを図1に示す。 この材料は原材料粉末の段階で特定の磁性体、誘電体の2種類の材料の混合し、一体焼成することにより得られる。この混合焼結材は、原料粉末の磁生体、誘電体結晶相の状態を保ったまま焼結するため、2つの材料の物性値である透磁率、誘電率が混合比にあわせて発現する。特性を多様に変化させることができ、フィルター設計の自由度を大幅に増し、性能面および形状面(小型・低背)において特徴を持つ製品を作り出すことが可能となる。 LFAシリーズは、このような透磁率と誘電率を持つ複合材料とスルーホール積層技術を用い、同一平面内(1つの層内)にコンデンサーとコイルの電極パターンを形成することにより、分布定数回路、あるいは多段フィルター回路をもつ3端子構造の小型高性能のローパスフィルターを実現したものである。 LFAシリーズとしてはLFA30(3.2×1.6mm)、LFA20(2.0×1.25mm)、LFA10(1.6×0.8mm)の3シリーズのほかに、4つのフィルター回路を内蔵した4連アレイ品として、LFA34(2.0×1.25mm)、LFA24(3.2×1.6mm)、LFH24(2.0×1.0mm)の3シリーズを品揃えしている。 以下にそれらの中で代表的な製品として、LFA20、LFA24シリーズについて詳しく述べる。 LFA20シリーズは、コンデンサーとコイルの多段のフィルター回路を素子の中に内蔵している。少なくとも7次フィルター回路を構成している。典型的な等価回路を図2に示す。 複雑な回路構成にもかかわらず、同じ層内にコンデンサー部、コイル部を同時に形成できるため、各製品アイテムごと誘電体、磁性体の材 料組成、混合比率を最適化することにより、積層数(電極形成総数)を比較的少なくすることができ、信頼性の高い製品を得ることができ る挿入損失特性を図3に示す。 カットオフ周波数は10〜840MHzの広範囲をカバーしている。 通常、フィルターの挿入損失特性は50Ω系で測定されるが、実際に使用される回路は50Ω系とは限らない。回路インピーダンスのフィル ター特性に対する影響をみることは、ノイズフィルターを実際の回路に適用する上で重要なポイントである。 LFA20シリーズにおいて、挿入損失特性の入出力インピーダンス依存症を測定した結果を図4に示す。 50〜100Ωの入出力インピーダンス依存症が比較的小さく、使い易いフィルターであることが分かる。一般にノイズフィルターは回路インピ ーダンスの影響を受けにくいという特徴を持っている。 LFA20を小型化したLFA10もほぼ同様の性能をもっている。 三菱マテリアルでは、4連アレイ品として3216形状(3.2×1.6mm)形状のLFA34シリーズを以前から製造してきたが、携帯電話に代表され るようなセットの小型化に伴う実装スペース低減の市場の要求が強くなり、それに応える必要が生じてきた。 また、携帯電話では、カメラ、液晶の高精細化にともない、信号の高速化が進み、デジタル回路から発生するノイズがRFに影響を与える ため、ノイズ対策用として800MHz以上の周波数において大きな減衰が得られる実装スペースの小さい高性能のフィルターが求められるよう になってきた。そのため、新たに2012(2.0×1.25mm)サイズの中に4素子を入れたアレイ品、LFA24シリーズの製品化を行った。この製品は 、誘電体、磁性体複合材料の微細化、電極配線のファインライン化の技術を確立し、シュミレーション技術によりフィルター回路設計と結 びつけることにより、市場要求に応えるサイズとフィルタ性能を実現したものである。 等価回路を図5に、挿入損失特性を図6に示す。 フィルター回路はアース電極と路線で作る分布定数回路、コンデンサー、コイルでつくるπ型フィルターの組み合わせとなっている。カッ トオフ周波数は47〜147MHzまでをラインップしている。この製品は従来のLFA20、LFA34シリーズと同様の性能を有しており、広い減衰大域 を持つことを特徴としている。 実際に、LFAシリーズを用いたノイズ対策の例を紹介する。図7は液晶TVの外部映像、音声出力ラインなどにLFA20シリーズを搭載したとき の放射ノイズレベルの違いを示す。 LFA20シリーズによるノイズ対策を行うことによりノイズレベルが低減されているのが分かる。 三菱マテリアルでは、磁性体―誘電体複合材料を利用特徴ある各種のLC複合EMIフィルターを実現して好評を得てきた。今後、セットの小 型・高性能化とともに、LC複合ノイズ対策部品の重要性がさらに高まると思われる。市場ニーズにマッチしたノイズ対策部品を、材料、設 計技術を組み合わせることにより実現していきたい。 <山口尚志:三菱マテリアル潟Zラミック工場電子デバイス開発センター>
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